日本健康開発雑誌
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巻頭言
原著論文
  • 松橋 圭子, 高橋 風葉, 田中 稲子, 大西 達也
    2025 年 46 巻 p. 3-10
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    [早期公開] 公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    背景・目的 保育者のバーンアウト(燃え尽き症候群)について関心が高まっている。保育者のストレス要因として対人関係や待遇等の課題が挙がる一方、働く場として保育施設の物理的環境とストレスとの関連に着目した研究は僅かである。本研究では、保育者を取り巻く音環境とストレスの実態と関係性を明らかにすることを目的とした。

    方法 横浜市の保育施設を対象に、施設管理者と保育者向けの2種類のアンケートを実施した。施設管理者84名より施設の特徴や音環境に対する配慮について、保育者591名からは保育者個人の音に対する意識、日頃のストレスや勤務中の休憩状況に関する回答を得た。

    結果 保育者の仕事に対する満足度を目的変数とし、20のストレッサーに対する各度合いを説明変数として重回帰分析を行った結果、最も影響を与える要因は「職場の上司との関係」で、次いで「勤務中の休憩の質」であり、「響きやうるささなどの音環境」は、「給与」と同程度の3番目の影響度が認められた。音環境に関する施設の工夫の有無と、保育者の音漏れに対する心配の有無に関してカイ二乗検定を行った結果、「室内の子どもの声」について有意差が認められた。

    結論 既往研究では保育者のストレス要因として対人関係や待遇面が取り上げられてきたが、音環境の整備や休憩場所の確保など、保育者のストレスを緩和するために、施設の物理的環境からもアプローチの可能性があることが、本研究によって示された。

  • 石澤 太市, 小番 美鈴, 奥川 洋司, 中西 信之, 松本 圭史, 早坂 信哉
    2025 年 46 巻 p. 11-19
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    [早期公開] 公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

    目的 日本人における入浴は、体の清浄だけでなく、日常のストレスや疲労からの回復を実感できる浴槽浴(以下:入浴)が習慣化している。本研究は、入浴実態と健康に関する調査から入浴頻度と入浴時の体温上昇の観点で解析を行い、健康維持のための入浴法を提案することを目的とする。

    方法 対象者は40歳以上の健常な男女で、自記式アンケートにより年齢・性別・入浴頻度(週あたりの浴槽浴回数)・湯温度・入浴時間(湯につかっている時間)・水位(湯につかる深さ)を調査した。これらの結果を既報告の計算式に代入し、入浴時の体温上昇値を推定した。さらに、体温上昇推定値に頻度を乗じて週累積体温上昇値を算出した。健康状態については、主観的健康感、QOL26、POMS2、ロコモ25、歩行試験、加齢に伴う意識調査、脳活動試験、健康診断による脂質値の調査等を行った。解析は、入浴頻度を週7回以上と7回未満の2群に分け、健康状態の各項目でt検定を行った。また、週累積体温上昇値については、男女別に週累積体温上昇値を平均値で2群に分け、健康状態の各項目でt検定を行った。

    結果 入浴頻度では、週7回以上の群で主観的健康感、QOL26、POMS2、歩行試験において良好であり、健康診断の脂質値が有意に低い項目を認めた。また、週累積体温上昇値では、女性の高値群においてQOL26、ロコモ25が良好であった。男性の高値群においてはPOMS2、加齢に伴う注意力低下の意識、脳活動が良好であった。また、男女の高値群で健康診断の脂質値で低い項目を認めた。

    考察 入浴頻度および入浴時の体温上昇と心身の健康状態との間に関連があることが認められた。測定指標である歩行状態、脳活動、脂質関連値は、フレイルや認知機能およびメタボリックシンドローム等と関連性があることより、入浴習慣が健康寿命の延伸と関連性があることが示唆された。

  • 早坂 信哉, 三橋 浩之, 早坂 健杜, 加藤 典嗣
    2025 年 46 巻 p. 21-27
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    [早期公開] 公開日: 2024/10/28
    ジャーナル フリー

    背景・目的 最近日本において流行しているサウナ入浴法(サウナの後、水風呂に入浴するサウナ温冷交代浴)があるが、このサウナ入浴の自律神経への影響について学術的な研究は少ない。本研究では、浴槽を使った温冷交代浴とサウナ温冷交代浴を実施しそれぞれの前後で自律神経機能を測定し入浴法ごとの前後比較、入浴法による違いの群間比較をし、自律神経機能の変化を明らかにすることを目的とした。

    方法 浴槽温冷交代浴(40℃5分間全身浴→16℃冷水浴1分を2回繰り返し→最後は 40℃全身浴3分で終了)、サウナ温冷交代浴(90℃5分間サウナ浴→16℃冷水浴1分→休憩5分を2回繰り返し)を男女16名(男8名、女8名)に別日で行い、スマートウォッチ型デバイスで入浴前、入浴終了直後、入浴終了30分後に心拍を測定し、自律神経活動を解析した。それぞれの介入の前後比較、介入別の群間比較を二元配置分散分析で行った。

    結果 心拍数は浴槽温冷交代浴30分後(p=0.004)、サウナ温冷交代浴直後(p<0.001)、30分後(p<0.001)とも入浴前と比較し有意に低下していた。交感神経指標であるcoefficient of component variance low-frequency component / high-frequency component(CCVL/H)は浴槽温冷交代浴で入浴直後、入浴終了30分後に順次緩やかに低下していた。サウナ温冷交代浴では入浴直後に有意差(p=0.048)をもって急に低下した後、入浴終了30分後には横ばいとなった。群間比較では浴槽温冷交代浴と比較し、サウナ温冷交代浴の入浴直後で有意にCCVL/Hが低かった(p=0.011)。

    考察 サウナ温冷交代浴では高温サウナ室から冷水浴を行うことで大きな温度差で交感神経が強く刺激され、その後に自律神経反射として交感神経活動が抑制され副交感神経が亢進してCCVL/Hが入浴終了直後に大きく低下した可能性も考えられる。サウナ後の強いリラックス感はこうした自律神経活動の変化によってもたらされる可能性も考えられた。

  • 宮川 哲弥, 早坂 信哉, 堀口 祐太, 土田 夕紀
    2025 年 46 巻 p. 29-35
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    [早期公開] 公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    背景・目的 本研究は、子ども家庭センター等職員を対象とし、市民との面接の研修としてのバーチャルリアリティロールプレイ(VRRP)と対面ロールプレイ(対面RP)の比較検討及び心拍変動解析による生理指標の測定を通して、VRRPの特性を検討することを目的とした。

    方法 大田区・杉並区子ども家庭支援センターで勤務している相談員20名を対象とし、架空事例にてバーチャルリアリティロールプレイと対面ロールプレイを各回ごとに、実験前安静1分→実験7分前後→実験後安静1分で実施した。心拍変動解析にて心拍数(HR)、交感神経指標 (LF/HF)、副交感神経指標 (HF)を測定した。

    結果 バーチャルリアリティロールプレイは実験前→実験中においてHR、LF/HFは有意に上昇しており、HFは有意に下降した。対面ロールプレイでも同じく実験前→実験中有意に上昇していた(p=0.04)。実験中→実験後においても、HRは有意に下降し、HFも上昇し同様に有意差が確認され、バーチャルリアリティロールプレイは対面ロールプレイと同等の心身への影響があると示唆された。一方、項目比較においてバーチャルリアリティロールプレイは実験中・実験後LF/HFは対面より有意に低く、実験後HFも有意に上昇した。

    考察 VRRPは対面RPと比較し心理的負担が少なく訓練後平常に戻りやすいことが示唆された。VRRPはオンラインで研修が実施でき、研修の録画を簡単にできるなど運用面でも有用性があり、今後活用が期待できると考えられた。

  • 青木 駿介, 野々山 昌生, 早坂 信哉
    2025 年 46 巻 p. 37-44
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    [早期公開] 公開日: 2024/11/20
    ジャーナル フリー

    背景・目的 入浴は心身の健康に対して多くの効果がある。入浴方法も多様化し、特にマイクロバブル(MB)入浴はさら湯よりも温浴効果や心理的健康効果が高く、目的に合わせた効果的な入浴が期待できる。本研究では、湯温・入浴時間の異なるMB入浴とウルトラファインバブル(UFB)シャワー浴が生体情報に与える影響を比較調査し、その身体的・心理的健康効果を検証することを目的とした。

    方法 健康な男女12名を対象に、湯温・入浴時間の異なるさら湯・MB入浴・UFBシャワー浴での同一被験者内ランダム化比較試験を実施した。入浴前後には、心身の状態を確認するため、心拍・体温・脳波の生体情報計測を行った。また入浴前後30分毎にPVT(Psychomotor Vigilance Test)による反応速度検査と、SAM(Self-Assessment Manikin)テストとVisual Analog Scale (VAS)により自分の状態に対する主観評価を行った。

    結果 心拍数は他の入浴方法と比較してMB入浴は減少が緩やかだった。また、LF(Low Frequency Power)とHF(High Frequency Power)の比LF/HFはUFBシャワー浴のみ増加傾向が確認された。体表温は、さら湯・MB入浴時に増加していた。脳波では、MB入浴・UFBシャワー浴に対して心理的好感が高く、UFBシャワー浴では集中度が高い状態が維持されていた。PVT反応速度では、UFBシャワー浴の際に入浴直後に向上することが確認された。主観評価では、MB浴においては心理的・身体的にポジティブな変化を実感していること、UFBシャワー浴においては入浴直後に覚醒感が感じられるが、その他の身体的な影響は低いことが確認された。

    考察 MB入浴は、低温でも持続的な温熱効果と高いリラクゼーション効果が得られるため、高齢者でも安全に利用でき、多忙な人々の休息効果を高めるのに有効な入浴方法と考えられる。一方、UFBシャワー浴は身体的負担が少なく、短時間で覚醒効果を高める入浴方法としてリフレッシュしたい朝の利用が適している可能性が示唆された。

  • 松橋 圭子, 種市 慎也, 田中 稲子
    2025 年 46 巻 p. 45-53
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    [早期公開] 公開日: 2025/02/14
    ジャーナル フリー

    背景・目的 都心部の保育施設では、十分な室内面積や換気量の確保が難しい場合があり、子どもや保育者の様々な感染リスクが懸念される。本研究では、コロナ禍前後の感染症対策に対する保育者の意識と保育施設が立地する環境特性に着目し、保育施設が抱える課題の整理を目的とする。

    方法 筆者らの実測結果より、保育室のCO2濃度や温湿度に差がみられ、換気をはじめとする感染症対策の意識に違いがあると予想された横浜市の5施設を調査対象とした。各施設の園長を対象に、新型コロナウイルスに対する感染症対策やコロナ禍前後での意識変化、コロナ対策での困りごと等に関するヒアリング調査を実施した。

    結果 いずれの保育施設も外部からの交通騒音や保育室からの音漏れを気にする必要のない立地環境であったが、積極的に窓開け換気を実施していたのは3施設であった。開閉可能な窓が限られていることから、自由に窓開け換気が行えない施設も存在した。しかし、どの施設においてもコロナ禍を経たことで換気意識が高まるとともに、子どもや保育者自身の健康意識、さらには保育者同士の連携意識の向上といった意識変化が確認された。

    考察 立地環境や施設特性に関わらず、保育施設では換気方法に関する多くの疑問が生じていた。施設を管理する立場として、空気環境の管理に関する知見や情報を求める切実な姿も窺えたことから、保育者にも理解しやすい情報発信の必要性が明らかとなった。

  • 中尾 睦宏, 倉田 由美子, 小林 如乃
    2025 年 46 巻 p. 55-62
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    背景・目的 行動医学的ストレスマネジメント・プログラム(本プログラム)において「健康的な入浴」の指標を導入するため、まず「健康的な入浴」と精神的健康度との関連を明らかにした。次に本プログラムに指標を適用した際の介入期間前後の変化について、症例報告をした。

    方法 先行研究に基づいて「健康的な入浴」の要件を定義し、質問紙を作成して成人600人(女性50%、平均年齢45歳)を対象としたアンケート調査をした。「健康的な入浴」に関連する指標と、本プログラムの精神的健康度を示すアウトカム(「WHO-5精神的健康状態表、「うつと不安のK6」)との関連を調べた。その上で、「健康的な入浴」に関する質問内容を本プログラムの健康評価に反映させ、典型的な2症例の経過をまとめた。

    結果 毎日湯船につかって入浴をする人(n=267)は、湯船につからない人(n=168)と比べて、精神的な健康度が良かった(WHO-5得点の平均と標準偏差11.5(5.4) vs. 10.3(5.9), p=0.036, t検定)。多重ロジスティック分析によって性別や年齢などの影響を調整しても、前者は後者と比べて、WHO-5得点が有意に高かった(オッズ比1.036[95%信頼区間1.001-1.074], p=0.049)。ケース・スタディでは、本プログラムによって精神的健康度も入浴習慣も改善、精神的健康度は改善するも入浴習慣は改善せず、の2パターンの症例を示した。

    考察 入浴行動と精神的健康度の密接な関連が示唆され、本プログラムによる健康的な入浴行動への変容が期待できた。今後も症例を重ねて、本プログラムの効果検証と社会実装を進めたい。

助成研究
  • 趙 修延, 金 敬喆
    2025 年 46 巻 p. 65-71
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    背景・目的 日韓の温泉施設利用者の健康と生活の質を研究することは、両国の温泉文化や健康 政策に貢献するだけでなく、温泉施設の利用者がより健康的な生活を送るための手がかりを提供することが期待される。

    方法 韓国と日本の温泉を利用している人を対象に、温泉の利用実態および認識の違いを把握するために、2025年2月12日、韓国釜山の海雲台温泉(海雲台温泉センター)、2025年2月5日、北海道の定山渓温泉(定山渓万世閣ホテルミリオーネ)で、日帰り入浴者を対象にアンケート調査を実施した。計120部のアンケート用紙を配布して112部を回収し、回収されたアンケートのうち回答が記入が不完全なもの6部を除いて、最終106部(韓国53部、日本53部)有効アンケート用紙を統計の分析資料として利用した。

    考察 韓国より、日本は温泉をより頻繁に、平日に訪れる傾向が強い反面、韓国は利用回数が少なく週末訪問の割合が高いことが確認できた。韓国の利用者は温泉選択時に温度、水質をより重要に考慮する傾向があり、内部施設については二つの集団間の差がないことが分かった。そして、日本の利用者が温泉利用後の食欲増加、ストレスと疲労緩和、冷え性と憂鬱感の減少など、健康改善と生活の質の向上をより肯定的に認識する傾向があることが分かった。

    結論 韓国人より日本人が、健康改善と生活の質(QOL)の向上をより肯定的に認識する傾向があるのは、温泉療法を通して、体と心を治療することに主な目的があったと思われる。

  • 広田 雅和
    2025 年 46 巻 p. 73-77
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    背景・目的 近年スマートフォン(スマホ)の長時間使用により、若年者における眼の調節(調節)機能が低下するスマホ老眼が増加している。本研究では、副反応がないスマホ老眼の症状緩和方法として、交感神経を優位にする足湯に浸かったときの調節反応を経時的に評価した。

    方法 対象は屈折異常以外に眼科的疾患のない若年健常者15名(22.6±1.0歳)とした。各被験者は、30分間のスマートフォンゲームを視覚負荷として課し、視覚負荷後に水道水、炭酸水素塩泉、アルカリ性単純泉がランダムで入った足湯に浸かった。足湯に浸かっているとき、遠見完全屈折矯正下で2.5diopter (D) から4.0Dまで、6秒で1往復する定速度屈折刺激の視標を2往復(12秒間)注視し、そのときの経時的な眼球屈折度変化をオートレフラクトメータで記録した。水道水、炭酸水素塩泉、アルカリ性単純泉の各条件における調節反応量を計算した。

    結果 調節反応量は、炭酸水素塩泉(1.01 ± 0.36 D)とアルカリ性単純泉(1.02 ± 0.38)の源泉に浸かったときのほうが水道水(0.65 ± 0.28 D)に浸かったときよりも有意に調節反応量が大きかった(P = 0.009)。

    考察 本研究において、炭酸水素塩泉とアルカリ性単純泉の足湯では、スマホ使用により低下した調節機能を改善できる可能性が示唆された。

  • 小杉 健作, 杉山 さくら, 髙田 愛夢, 田上 慶乙, 石田 怜斗, 岡崎 楓太, 浅賀 沙恵
    2025 年 46 巻 p. 79-85
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    背景・目的 伊豆地域の温泉水と農業を組み合わせ、付加価値の高い野菜を生産するため、カルシウム濃度が高い温泉水を用いてサニーレタスとコマツナの水耕栽培をおこなった。

    方法 簡易な水耕栽培装置を用いて、水耕栽培をおこなった。水と化学肥料を用いて栽培し、収穫期以降に短期間、根を温泉水に浸漬し、温泉水を吸水させた。地上部のカルシウム含有量と温泉水の吸収量を測定した。

    結果 カルシウム濃度の高い温泉では地上部のカルシウム含有量が増加したが、温泉水の影響により、吸水量が減少し、葉の萎凋や黄化など外観に障害が見られた。

    一方、カルシウム濃度が中程度の温泉水では温泉水を吸水しているものの、長期間の処理をおこなっても地上部のカルシウム含有量は上昇しなかった。

    考察 カルシウム濃度の高い温泉では地上部のカルシウム含有量が増加し、高カルシウム野菜生産の可能性が示された。外観の障害については、カルシウムの過剰害や塩ストレスにより生じたと考えられる。またカルシウム濃度が中程度の温泉水では温泉水を吸収しているものの、過剰なカルシウムを排出しているため、地上部のカルシウム含有量が増加しなかったと考えられる。

  • 穴井 茜, 倉内 祐樹, 横田 文彦, メイルマノフ セリック
    2025 年 46 巻 p. 87-92
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    背景・目的 浴槽・温泉入浴とメンタルヘルスとの関連が報告されているが、若年層を対象とした研究は限られている。本研究は、九州地方の大学生を対象とし、若年層のメンタルヘルス状態を明らかにすること、また入浴習慣とメンタルヘルスとの関連を明らかにすることを目的とし調査を行なった。

    方法 対象者は九州地方の大学生70名で、ウェブアンケートにより、年齢、性別、国籍、こころの状態(The Kessler Psychological Distress Scale: K6)、主観的健康状態、浴槽・温泉入浴環境、及び習慣を調査した。メンタルヘルス状態と主観的健康状態、浴槽・温泉入浴習慣及び、主観的健康状態と浴槽・温泉入浴習慣との関連を明らかにするため、カイ二乗検定を用いて統計解析を行なった。

    結果 主観的健康状態が“良い”群は、“なんともいえない”、“良くない”群と比較し、こころの状態が“問題なし”のものの割合が有意に高く、年間温泉利用頻度が多い群は、利用頻度が少ない群と比較し、主観的健康状態が“良い”者の割合が有意に高かった。

    考察 本研究では、長期的な温泉利用習慣が主観的健康状態を向上させ、うつや不安障害といったメンタルヘルスの不調を予防するという可能性が示唆された。

  • 市橋 爽介, 稲見 昌彦, 何 昕霓, Noura Howell
    2025 年 46 巻 p. 93-98
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    背景・目的 人々は肉体的・精神的効能を得るため、多様な温冷水浴を行ってきた。多くの水浴療法は、水中の身体部位全体に一定の水温で刺激を行うものである。一方で、筋疲労の軽減を目的とした氷嚢による温冷筋刺激に代表されるように、短時間の局所的な温冷刺激も広く利用されている。本研究では、水中の皮膚へ光を照射することによって知覚水温を変化させる水中光温度提示を用い、時空間的に自由度の高い温冷水浴体験を実現することを目的とする。本体験は均質的・緩慢であった水浴療法に、全体・局所における急激な温冷刺激を導入するため、筋疲労軽減や精神疲労回復といった効果を向上させることが期待される。

    方法 先行研究における心理物理実験の結果に基づき、急激な水中光温度提示を前腕部へ行う装置を設計した。実装した装置を用いて急激な水温感覚の変化が、前腕全体や一部において生起可能であるか定性的な予備検討を行った。

    結果 参加者は前腕において全体的および局所的な温度変化を知覚したと報告した。加えて、装置使用時の姿勢の不自然さ・水温の変化・騒音の発生といった課題も報告された。

    考察 本装置が水中の前腕に対して全体的および局所的な温度変化を提示できる可能性が示唆された一方、装置の課題も明らかになった。今後は装置の改良を行うとともに、より統制された条件で多くの参加者を対象に知覚特性・回復効果の調査を行う必要がある。

  • 山崎 聡, 堀内 孝彦
    2025 年 46 巻 p. 99-104
    発行日: 2025/06/11
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    背景・目的 睡眠障害を改善するために習慣的に行われている夜間の温泉入浴は、65歳以上の成人の高血圧と逆相関している。本研究の目的は、高齢の高血圧患者における夜間の温泉入浴が睡眠の質と生活の質に及ぼす影響を評価することにより、不眠症に対する非薬物介入を探ることである。

    方法 前向き研究で、65歳以上の高血圧患者(n = 28)に対する夜間の温泉入浴の効果を評価した(日本臨床試験登録番号: UMIN000051274)。2023年7月1日から2024年2月29日までの期間、九州大学病院別府病院にて夜間の温泉入浴や運動・食事に関する教育を含む1~3日間の睡眠促進体験を実施した。参加者には、3か月の追跡期間中、睡眠を促進する活動を継続することを奨励した。睡眠の質と生活の質に関するアンケートは介入後1か月と3か月後に完了した。

    結果 介入後3か月で、ピッツバーグ睡眠の質指数によると、睡眠の質に有意なプラスの改善が見られた (p <0.001)。患者は、介入後1か月でSF-36®による生活の質の大幅な改善と、介入後1か月と3か月の両方でメンタルヘルスの大幅な改善を報告した(p = 0.013)。

    考察 夜間の温泉入浴は、高齢の高血圧患者の睡眠の質の改善と有意に関連していた。夜間の温泉入浴が高血圧などの高齢者の睡眠障害に関連する疾患を予防できるかどうかを調査するには、前向きランダム化比較試験が必要であるが、倫理的問題があり、実現が容易ではない。現在、令和6年度厚生労働科学研究費補助金を獲得し、温泉療法の「見える化」を目指した試みを実施している。

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