IPN症のニジマス稚魚における膵・肝両組織の組織病理学的および細胞病理学的変化を観察した.
膵臓外分泌部の腺房細胞における細胞質の変性の程度は各々の細胞によって一様でないが, その形態的変化としてミエリン像を有するライソゾームの出現, チモーゲン顆粒の崩壊, 粗面小胞体の脱リボソーム, 集団をなすウィルス粒子の出現, ミエリン像を有する電子密度の高い物質塊やウィルス粒子および細胞小器官などを含むチトリゾーム (光顕的には細胞内封入体に一致する) の出現, 雲絮状物質を含む明調なチモーゲン顆粒の出現, ミエリン像を有する物質塊の細胞外放出などがある.さらに, 特に細胞変性や壊死の顕著な膵組織では腺房細胞の核濃縮, 細胞間腔における細胞破片や変性した細胞小器官の散在もみられる.
肝細胞においても細胞質の変性によって出現した構造体はチモーゲン顆粒に関する所見を除けば腺房細胞に殆んど同様である.しかし, 同一個体内でも肝組織の細胞変性や壊死の程度は膵組織に比べて遙かに小さく, 膵組織内に腺房細胞の識別ができないほどに壊死している部域が現われて初めて肝組織に細胞質の変性や壊死した肝細胞が目立つようになる.このような場合には肝細胞内に著しい脂肪滴の増加がみられる.
IPN症の膵・肝両組織にはマクロファージやその他の遊走細胞の著しい浸潤がある.これらの細胞やKupfFer氏星細胞にもライソゾームの増加やチトリゾームまたはファゴライソゾームの出現がある.
大多数のウィルス粒子は集団をなして, ライソゾーム, チトリゾームおよびファゴライソゾーム内に存在し, この中でウィルス粒子の輪郭が不明瞭になり, 微細顆粒状物質の出現や電子密度の高いミエリン像を有する物質塊の増加などを伴いながら消化される過程を示す所見がある、このウィルス粒子の形態は外見的に六角形ないし円形輪郭で被膜はなく, 大きさは50~60mμ, 平均直径54.3mμ である、このウィルスは恐らくIPNウィルスで, 形態学的にレオウィルス群に属すると思われる1また, ウィルス粒子の存在する部域にしばしぼ平均約60mμ と28mμ の太さの棒状体がそれぞれ数本平行一または不規則に互に交錯して存在する. この棒状体の末端は丸味を呈し, その横断面は円形でその中央部が明調で管状構造にみえる.
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