卵の大形化の機構を解明する一環として, ハナカジカの小卵型と大卵型の卵巣の周年変化を比較した.比卵巣重量は, 産卵後数カ月間は両型間にほとんど差がみられないが, 12~1月にかけて小卵型は大卵型より若干大きくなる.しかし, 2月以降大卵型の卵巣は急速に生長し, 産卵期 (4月) にはその関係は逆転する.産卵期における卵巣卵の卵径は, 小卵型に比べ大卵型が明瞭に大きいが, それは主に3月以降の大卵型の卵巣卵の大きさの著しい増大によってもたらされる.
組織学的観察から, 両型の卵巣の発達にはいくつかの重要な違いが存在することが明らかになった.つまり, 大卵型では卵黄形式が8月初旬には既にアクティブになるのに対して, 小卵型ではそれより1カ月以上後の9月中旬にアクティブになる.このような卵黄形成開始の時期のずれに伴なって, 卵黄球形成の開始時期にも両型間でずれがみられた.
また2月以降産卵期まで, 小卵型の卵巣卵は卵径があまり変化することなく卵黄球が融合して成熟期に達するが, 大卵型では卵黄球の融合とともに卵径が一層増大し成熟期に達する.
以上の結果から, 両型は既に固有の卵巣及び卵巣卵の発達様式を有しており, 大卵型の発達様式は単に小卵型のそれを延長したものではないと結論された.
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