耳鼻咽喉科免疫アレルギー
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35 巻, 4 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 渡辺 哲生, 鈴木 正志
    2017 年 35 巻 4 号 p. 271-277
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/28
    ジャーナル フリー

    我々の施設にも2007年に花粉自動計測器が設置された。自動計測器の有用性を検討するためにダーラム式計測器と自動計測器によるスギ・ヒノキ花粉飛散数の比較ならびに分析を行った。

    スギ花粉の捕集は大分大学医学部研究棟にて行った。自動計測器の計測値,気象データは環境省花粉観測システムのホームページより入手した。自動計測器では24時間の累積飛散数を1日の飛散数とした。2011年を除く2008年から2015年のデータについて検討した。

    時間毎の欠測値は10%程度にみられ,10から20%の日数に欠測値がみられた。主な原因は黄砂によるものであった。年別のダーラム式と自動計測器による飛散数には有意な相関がみられた。月別には2月と3月の相関係数が高く,飛散数が増加すると相関係数が高くなる傾向がみられた。2月と3月の自動計測器のデータでは,気温が高く,風が強いほど飛散数が増加し,降水量が多く,深夜,西寄りの風向で飛散数が減少する傾向がみられた。

    リアルタイムに情報が得られる自動計測器は,有用であると考えた。さらに詳細な花粉飛散状況の分析にも利用可能ではないかと考えた。

総説
  • 加納 亮, 近藤 悟, 吉崎 智一
    2017 年 35 巻 4 号 p. 279-282
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/28
    ジャーナル フリー

    近年,ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は,中咽頭癌の発癌ウイルスとして注目されている。しかし,中咽頭癌におけるHPVによる発癌機構は不明である。子宮頸癌では,HPV遺伝子発現マウスにエストロゲンを投与することで子宮頸癌が誘導され,エストロゲン受容体(ER)の抑制により発癌が成立しないことが分かっている。また,内因性免疫因子の一つで抗ウイルス作用を持つAPOBEC3は,HPVのウイルスゲノムに変異を誘導蓄積し,子宮頸癌の発癌に関与することが報告されている。そして,APOBEC3はエストロゲン–エストロゲン受容体と関連性があることも知られ,HPVによる発癌にはHPV・エストロゲン–ER・APOBEC3の三者が関連することが示唆される。

    我々は,中咽頭癌においてHPVとERの関連性を解析し,APOBEC3が関与するかを検討した。中咽頭癌の生検組織を,免疫組織化学染色,リアルタイムPCRの各手法を用い,HPVの有無によるERの発現量,ERとAPOBEC3発現量の関係,ERの有無による予後の解析を行った。HPV関連中咽頭癌組織において,HPV非関連中咽頭癌組織と比較して,有意にERの発現が増加していた。またHPV関連中咽頭癌において,ER陽性は予後良好因子であった。ER陽性中咽頭癌において,ER陰性中咽頭癌と比較して,APOBEC3Aが高発現していた。

    HPV関連中咽頭癌とエストロゲン-ER経路は関連があり,ERは予後因子となる。

特集 『第35回学会シンポジウム: 頭頸部癌免疫療法のブレークスルー, 現状と未来』
  • 近藤 悟, 吉崎 智一
    2017 年 35 巻 4 号 p. 283-286
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/28
    ジャーナル フリー

    再発した上咽頭癌は治療に難渋する例も多く,免疫療法などの新たな治療法の開発が期待される。上咽頭癌の病因にはEpstein-Barrウィルス(EBV)が関与し,EBV抗原は上咽頭癌の免疫療法の良い標的抗原となる。上咽頭癌の免疫療法として,EBV特異的細胞障害性T細胞治療,EBVペプチドワクチン療法の一定の効果が報告されている。

    新規免疫療法として,免疫チェックポイント機構をターゲットにした治療,特に抗PD-1抗体が上咽頭癌に効果があると報告されている。抗PD-1抗体を効果的に使用するため,我々は,血中循環腫瘍細胞(CTC)に着目し,上咽頭癌のCTCを検出しPD-L1の発現の有無を解析する事で,抗PD-1抗体の適応を決定する事を目標に検討を重ねている。

    一方,我々は内因性免疫に着目し研究を進めている。内因性免疫とは,細胞内・細胞間シグナル伝達を必要とせず,感染に対し即座に反応する重要な生体の防御機構の一つである。内因性免疫は体細胞遺伝子に変異を導入し発癌を誘導する。我々は,EBV遺伝子の上咽頭細胞への導入で内因性免疫APOBEC3が誘導され発癌に関わる体細胞遺伝子変異が誘導されることを発見した。このことより上咽頭癌に対する新たな免疫療法の標的候補の1つとしてAPOBEC3に注目している。本報告では,上咽頭癌に対する免疫療法を概説するとともに今後期待される免疫療法について報告した。

  • 坂倉 浩一
    2017 年 35 巻 4 号 p. 287-290
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/28
    ジャーナル フリー

    白血球はその起源によって,リンパ球を主とするリンパ系と,顆粒球・単球・マクロファージ等を含む骨髄系に大分される。本総説では,頭頸部癌における骨髄系細胞研究の動向と免疫療法への応用を,免疫チェックポイント分子と絡めて概説する。

    骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)は単球より未熟な細胞で,強力な免疫抑制作用を持つ。我々は頭頸部癌患者において,PD-L1やTGF-βを介したMDSCのT細胞機能や増殖の抑制を報告した。ビタミンによる分化や免疫チェックポイント阻害薬,分子標的薬による,MDSCの制御が近年期待されている。

    末梢血中の単球はその分化度によって3つのサブセットに分けられるが,我々は近年単球サブセットが癌患者では未熟化し,HLA-GやPD-L1等の免疫抑制分子をより多く発現していることを報告している。

    マクロファージは免疫刺激性のM1と抑制性のM2の亜群に分かれ,癌組織周囲の腫瘍関連マクロファージ(TAM)にはM2が多く含まれる。現在M2の産生する抑制性サイトカイン/ケモカインを阻害する臨床試験が,多数進んでいる。一方で癌細胞はマクロファージに対する“Don’t eat me”シグナルCD47を発現し,貪食から逃避する。近年我々は舌癌におけるCD47高発現は予後不良因子であり,CD47阻害により頭頸部癌細胞の貪食が促進されることを報告し,海外では臨床試験が進んでいる。

  • 櫻井 大樹
    2017 年 35 巻 4 号 p. 291-295
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/28
    ジャーナル フリー

    頭頸部扁平上皮癌の進行例は,近年の集学的治療によって局所制御率の改善がみられているが,いまだ遠隔転移は大きな予後悪化因子である。予後の向上のため,また治療後に問題となる機能や形態の温存のために,現行の標準治療に加えて新規治療法が求められる。当科では頭頸部扁平上皮癌患者を対象に,NKT細胞のリガンドであるα-Galactosylceramide(αGalCer)を樹状細胞に提示させ鼻粘膜下に投与する免疫細胞治療の開発を行ってきた。これまでの臨床試験により安全性,免疫応答の誘導,再発患者での腫瘍縮小効果が認められている。現在,標準治療後の寛解症例を対象とし,再発予防を目的にアジュバント療法としてランダム化二重盲検比較試験が先進医療として進められている。

    近年,癌は自ら様々な抗腫瘍免疫の抑制機序を用いて体内の免疫監視機構から巧みに逃れていることが示されている。その免疫抑制機序の一つとして,制御性T細胞(Treg)や骨髄性抑制細胞(MDSC)など免疫抑制細胞の誘導が指摘されている。我々は頭頸部扁平上皮癌患者においてこれら免疫抑制細胞が有意に増加し,その増加は予後悪化因子になることを見出している。免疫抑制細胞の制御など新たな治療戦略は,抗腫瘍免疫活性を増強し予後を改善させる可能性が期待される。現在当科で進められているNKT免疫細胞治療と新たな治療とを組み合わせることで,進行癌への対応,予後の改善を期待し,今後の臨床試験への展開を検討している。

臨床ノート
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