尿路感染症と診断された黒毛和種牛における原因菌とその薬剤感受性を調査した.2010〜2019 年までの9 年間に北里大学獣医学部附属動物病院において尿路感染症(UTI)と診断された30症例から分離された53 菌株を対象とした.単純性UTI 8 症例(雌6 頭,雄2 頭)から分離された16菌株の内訳は,Escherichia coli 25%,Trueperella pyogenes 19%,Staphylococcus spp. と Aerococcus viridans がともに13%,Proteus mirabilis 12%,およびCorynebacterium spp., Klebsiella pneumoniae と Cellulomonas spp. がともに6% であった.尿石症を併発した複雑性UTI の22 症例(雄または去勢)から分離された37 菌株の内訳は,P. mirabilis 40%, E. coli 21%,Staphylococcus spp. 17%,A. viridans と Corynebacterium spp. がともに 8%,および P. vulgaris とKluyvera spp. がともに 3% であった.薬剤感受性試験から,アンピシリン(ABPC)とセファゾリン(CEZ) に対するグラム陽性菌の感受性率はStaphylococcus spp. を除き80 ~ 100%であったが,グラム陰性菌では ABPC に対して低感受性であった.また,エンロフロキサシン(ERFX)とマルボフロキサシン(MBFX)に対する P. mirabilis,T. pyogenes および Corynebacterium spp. の感受性率は80% 以上を示したが,E. coli ではそれぞれ55%と72% であった.今回の研究から,単純性と複雑性UTI では原因菌が大きく異なり,国内で承認されている抗菌剤の中では,第一次選択薬として単純性 UTI では ABPC と CEZ が,複雑性 UTI ではCEZ が推奨された.E. coli と P. mirabilis については第二次選択薬として MBFX がもっとも有効であることが示唆された.
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