Pelger-Huët(ペルゲル・フェット;PH)細胞は低分葉核を特徴とする顆粒球の形態異常で,PH 細胞の出現は遺伝的異常を原因とするPH 核異常症(Pelger-Huët anomaly: PHA)および後天的な偽 PH 核異常症(pseudo-Pelger-Huët anomaly: PPHA)に区別される.PPHA の報告は牛では数例あるが,新生子牛での報告はない.症例は,生後2 日齢の黒毛和種雄新生子牛で,低体重(22 kg),出生時から沈うつ,吸乳欲なく,起立不能,低体温および脱水症状が認められた.血液学的所見では,赤血球数261 万/μℓ,ヘマトクリット値7.9%と重度の貧血,白血球数19,450/μℓで,血液塗抹検査で奇形赤血球および核が眼鏡状の低分葉化した好中球(PH 細胞)36%,桿状核球22% と好中球数の増加と核の左方移動が認められ,低血糖が付随していた.母牛についてPHA を疑い,血液塗抹検査を行ったがPH 細胞は認められなかった.第1 ~ 3 病日に抗生剤投与(アンピシリン0.3 g/ 日),第1 ~ 4 病日に輸血(400 mℓ/ 日),第1 ~ 8 病日に輸液し治療した.第5 病日には自力で起立可能となり,吸乳欲も回復した.症状改善に伴いPH 細胞は血液中から急速に減少し,第8 病日には完全に消失し貧血も改善した.また,原因は不明であるが,本症例は感染と骨髄造血不十分に起因して発症したPPHA と診断された.本報告は,黒毛和種新生子牛のPPHA と診断された初めての症例である.
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