産業動物臨床医学雑誌
Online ISSN : 2187-2805
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11 巻, 5 号
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総説
  • 遠藤 なつ美
    原稿種別: 総説
    2020 年 11 巻 5 号 p. 185-189
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2022/09/21
    ジャーナル フリー

     被毛中コルチゾール濃度の測定は,慢性ストレスを評価する新たな手法として近年ヒトや動物において注目されている.乳牛などの家畜においては,飼養管理上の慢性ストレスが健康状態や繁殖機能にどのように影響を及ぼすかを調べることが,動物福祉や生産性の向上に重要であると思われる.被毛中コルチゾール濃度の測定は,研究分野のみならず臨床現場においても新たな慢性ストレスの評価手法として使用できることが期待されるが,そのためには被毛中コルチゾール濃度がどの位正確に血中コルチゾール濃度の変動を反映しているか,ストレス以外に被毛中コルチゾール濃度に変動を及ぼす要因があるかといった基礎的な情報が必要不可欠である.本総説では,被毛中コルチゾール濃度の測定原理や具体的な方法について論じるとともに,乳牛における慢性ストレスが健康状態や繁殖機能にどのように関連するかについて最近の知見を元に考察する.

原著
  • 髙橋 春美, 岡田 徹, 佐藤 真由美, 松田 敬一
    原稿種別: 原著
    2020 年 11 巻 5 号 p. 190-197
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2022/09/21
    ジャーナル フリー

     分娩前の母牛に対するアミノ酸含有脂肪酸飼料給与が血液性状および出生子牛に及ぼす影響を調査した.調査には,管内の黒毛和種繁殖農家3 戸で飼養されていた黒毛和種母牛24 頭およびその子牛24 頭を用いた.既存の給与飼料のみを与えた母牛11 頭を対照群,既存の給与飼料に加えて分娩予定日前60 日から分娩日まで市販のアミノ酸含有脂肪酸飼料を1 日50 g 給与した母牛13 頭を給与群とした.母牛は分娩予定日前40 日,10 日,および分娩翌日に,子牛は出生後24 時間,48 時間,および1 週間に採血して血液生化学検査を行った.加えて子牛では,出生後24 時間に胸囲を測定した.母牛の血液生化学検査では,給与群は対照群に比べ,総タンパク質,総コレステロール,遊離脂肪酸およびエストロンサルフェート濃度が高値で推移した.子牛の血液生化学検査では,給与群は対照群に比べアルブミン濃度が高値で推移した.出生後24 時間の雄子牛および雌子牛の胸囲の平均値は,いずれも給与群は対照群に比べ有意に大きかった.本研究の結果より,母牛への分娩前のアミノ酸含有脂肪酸飼料給与は,子牛の出生時胸囲を大きくさせることが示唆された.

症例報告
  • 川上 佑記, 上坂 花鈴, 日浅 淳, 中郡 翔太郎, 古林 与志安, 猪熊 壽
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 11 巻 5 号 p. 198-203
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2022/09/21
    ジャーナル フリー

     115 日齢のホルスタイン種雌育成牛が歩様異常を呈して受診した.122 日齢時の検査では,自力起立歩行は可能であったが,開脚姿勢,測定過大,強拘歩様,転倒,横臥および後弓反張が認められた.2 週間の経過観察中,次第に横臥時間が長くなり,起立および歩行が困難となり,両側性眼振が発現した.病理解剖では中枢神経系に明らかな肉眼的異常はみられなかったが,組織学検査において小脳皮質ではプルキンエ細胞の脱落と軸索膨大,さらに分子層の空胞形成が認められたことから,本症例は小脳皮質変性症と診断された.本症例の脳脊髄液の生化学所見に著変はみられなかったが,脳脊髄液中リン酸化ニューロフィラメント重鎖(Phosphorylated neurofilament heavy chain: pNF-H)濃度は597.7 pg/mℓであり,臨床上健康なホルスタイン種子牛5 頭の中央値294.7 ng/mℓに比べて高値を示した.pNF-H が神経細胞障害のマーカーとして予後判定に利用できる可能性が考えられた.

  • 児嶋 秀典, 谷 千賀子, 友川 浩一郎, 伊賀﨑 大, 大橋 勇希, 保田 昌宏
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 11 巻 5 号 p. 204-209
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2022/09/21
    ジャーナル フリー

     症例は63 カ月齢の黒毛和種繁殖牛で,初診時(妊娠223 日)の主な症状は,食欲不振であり,軽度の怒責があった.尾を挙上して少量の泥状下痢便を頻回排泄し,排便は困難であった.直腸検査で,肛門から約25 cm 頭側に盤状の硬固な塊が触知され,直腸内腔が指一本の幅に狭窄していた.臨床症状と直腸検査から,本症は脂肪壊死症と診断し,イソプロチオランを1カ月間投与した.妊娠283 日目に陣痛があり,獣医師の介助により経腟分娩を行った.分娩後も食欲不振と排便困難は続いたが,授乳は順調であり,分娩約3 カ月後に離乳した.その後,本牛は予後不良と判断され廃用となった.剖検では白黄色石鹸状の脂肪壊死塊(直径約15×長さ30 cm)が直腸を取り囲むように存在した.また腹腔内には円盤結腸腸間膜の2 カ所に脂肪壊死塊(直径約15×長さ約15 cm)が認められた.膵臓は,肉眼的に異常は認められず,組織学的には実質内に広範な脂肪浸潤が認められた.腹腔内の脂肪壊死病変部と正常脂肪組織のmRNA 遺伝子発現を比較すると,病変部ではPPAR-γおよびTNF-αが強く発現しており,脂肪細胞の肥大化の抑制と炎症が起こっていることが推察された.

  • 鈴木 紗絢, 住吉 俊亮, 近藤 広孝, 渋谷 久, 大滝 忠利, 堀北 哲也
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 11 巻 5 号 p. 210-215
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2022/09/21
    ジャーナル フリー

     先天的に著しい頸部短縮を呈し,日本大学付属動物病院に来院したホルスタイン種子牛について,原因ならびに病態解明を目的とした検査を行った.症例は7 日齢のホルスタイン種雌子牛で,一般健康状態は良好,神経症状は認められなかった.一般血液検査および血液生化学検査は概ね正常であった.Computed tomography(CT)検査で第2 頸椎(軸椎)の歯突起分離不全による環椎軸椎癒合,第4 頸椎と第5 頸椎間の癒合並びに第7 頸椎と第1,2 胸椎間の癒合が認められた.胸部では,左側肋骨が13 本確認されたのに対し,右側肋骨は12 本であった.さらに,胸椎棘突起はしばしば癒合していた.また,第3 から第5 胸椎部で椎体が腹側へ弯曲していた.腰椎は第1 腰椎の左側横突起が欠損しており,第1 腰椎と第2 腰椎間の癒合が認められた.また,第3 腰椎は楔形に変形し,第3 腰椎と第4 腰椎は癒合して背側に弯曲していた.病理解剖検査では第3 および第4 頸椎で脊柱管腹側部に内腔への骨性隆起が認められた.脳および脊髄に異常は認められなかった.ウイルス分離,遺伝子型検査はいずれも陰性であった.以上より,本症例は先天性の脊椎および肋骨異常を主とする軸骨格系の奇形と診断したが,その原因は特定できなかった.しかし,棘突起の癒合,椎骨の欠損および癒合といった様々な脊椎奇形が認められることから,胎生初期の体節形成時における形態形成障害であることが示唆された.

資料
  • 加治佐 誠, 谷 千賀子, 児嶋 秀典, 友川 浩一郎, 山内 武紀, 片本 宏
    原稿種別: 資料
    2020 年 11 巻 5 号 p. 216-220
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2022/09/21
    ジャーナル フリー

     牛伝染性リンパ腫(地方病性牛白血病)に対する農家の現状を知る目的で,全国167 戸の農家を対象にアンケートを実施した.その結果,過去に牛白血病ウイルスの検査をしたことがある農家は,検査をしたことのない農家と比較して,感染源についての知識が多く(p <0.01),情報源の数(p <0.05)が豊富だった.さらに,検査をしたことのある農家は,対策をしている割合が高く(p <0.01),その対策の数も多かった(p <0.01).これは検査を通じて農家にこの病気の感染源や対策の情報を伝えることができ,対策を促した結果と考えられた.また70%以上の農家が有料でも検査を希望していた.農家の自主的な感染防止対策の実施のためには,自分の農場の現状を知りたいという農家を中心に,積極的に検査をすることと,正確な情報を伝えるためのセミナー等の実施が必要であることがわかった.

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