産業動物臨床医学雑誌
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7 巻, 1 号
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原著
  • 國保 健浩, 真瀬 昌司, 亀山 健一郎, 池口 厚男, 田中 康男, 吉田 和生, 山田 俊治, 大橋 誠一, 深井 克彦, 森岡 一樹, ...
    2016 年 7 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/11/03
    ジャーナル フリー

    わが国における口蹄疫の防疫対策において,ウイルスの汚染が危惧される農場内の家畜排泄物の処理は埋却による処理が原則である.しかしながら, 殺処分畜の埋却すら容易でない事態にあっては,家畜排泄物の発酵処理(堆肥化)や酸性化処理による病原体の不活化についての検討が求められるが,環境中でのウイルスの残存性に関する情報は少ない.本稿では,2010年に宮崎県での口蹄疫発生において,防疫措置終了後の畜産農家15戸に留置された家畜排泄物(使用済み敷料を含む糞便,スラリー,畜舎汚水)について,ウイルスの残存性に影響すると考えられる温度,pHおよび推定含水率(容積重量から推定)を調査した.堆積した固形家畜排泄物の平均温度(47.6℃)は外気温より高く,pHは7.3 ~ 7.6の範囲にあったが,その含水量は農場でさまざまであった.さらに,その堆積期間にかかわらず,切り返し後の堆積した固形家畜排泄物の温度(深さ50cm)は,50℃以上に上昇した.排水設備内に貯留した畜舎汚水および浄化処理水の温度は25.8 ~ 32.4℃の範囲であり,pHは6.3 ~ 8.7であった.留置された家畜排泄物ならびに畜舎施設のふき取り試料を採取し,口蹄疫ウイルスの残存をRT-PCR法を用いて検討した結果,いずれの試料においてもウイルスの残存は検出限界以下であった.当該ウイルス株(O/JPN/2010株)は中性域(pH7.0 〜 7.8)でも,50℃,7日間の加温処置などで検出限界以下となることから,家畜排泄物処理時の適切な飛散防止措置は必要となるが,堆肥化などの適切な処理により,汚染家畜排泄物を原因とするウイルスの再発は限定的と推察された.

短報
  • 松田 敬一, 前田 洋佑, 岡田 徹, 大塚 浩通
    2016 年 7 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/11/03
    ジャーナル フリー

    アルギニン(Arg)は,様々な生理作用を現すアミノ酸であり,ヒトにおいて成長ホルモン分泌促進作用があると報告されている.しかし,黒毛和種肥育牛におけるArgの生理作用はあまり明らかにされていない.今回著者らは,Argを黒毛和種肥育牛に給与し,血液生化学検査成績に及ぼす影響を調査した.調査には10カ月齢の黒毛和種肥育去勢牛20頭を用いた.試験開始より3カ月間にわたり,L-Argを20%含有したArg含有混合飼料(50g/頭/日)を給与した10頭を給与群,非給与の10頭を対照群とした.Arg給与前(10カ月齢),給与後(13カ月齢)および給与終了3カ月後(16カ月齢)に採血を行った.血液生化学検査として,血清ビタミンA濃度,血清ビタミンE濃度,血清総コレステロール濃度,血清総タンパク質濃度,血清アルブミン濃度,血清尿素態窒素濃度,血清遊離Arg濃度および血清インスリン様成長因子1(IGF-1)濃度の測定を行った.血清遊離Arg濃度は,2群間で有意な交互作用が認められ,単純主効果検定の結果,給与群の13カ月齢が給与群の10,16カ月齢および対照群の10,13,16カ月齢に比べ有意に高い値を示した.血清IGF-1濃度は,Argの給与後,給与群が対照群に比べ有意に高い値で推移したが,牛がArgを摂取した時のIGF-1分泌に関する生理作用は明らかになっていないため,今後詳細に検討する必要がある.本試験の結果から,黒毛和種牛に対するArgの給与は,給与期間中の血清遊離Arg濃度を増加させることが示唆された.

  • 谷 千賀子, 伊藤 秀一, 森友 靖生, 佐々木 羊介, 片本 宏, 谷 峰人
    2016 年 7 巻 1 号 p. 14-19
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/11/03
    ジャーナル フリー

    熊本県阿蘇地域の,無畜舎による野外管理で季節繁殖を実施している試験農場において,繁殖和牛のべ31頭を供して,分娩時期がその後の繁殖成績に及ぼす影響を分析した.4月15日から10月までは,牧野で野草主体の生草乾物約10kg/頭/日を自由採食させた.その後11月からはサイレージ乾物8kg/頭/日を制限給与した.人工授精期間は4月1日から7月20日までとした.

    分娩時期により早期(E群:1月1日~2月15日)6頭,中期(M群:2月16日~3月31日)17頭,後期(L群:4月1日~5月15日)8頭に分類した.分娩後初回排卵日数(平均 ± 標準偏差)は,L群(44.4 ± 15.1日)がE群(72.8 ± 15.5日)に比較して早かった(p<0.05).

    また分娩後7日のBCSはE群(2.75 ± 0.40),M群(2.42 ± 0.33),L群(2.40 ± 0.34)で差がなかったが,その後はそれぞれ低下した.分娩後にBCSが最低を示した日数において,L群(18.2 ± 6.3日)はE群(44.8 ± 6.3日)より早かった(p<0.05).分娩直後のBCSに回復する日数もL群は(40.6 ± 16.0日)はE群(82.6 ± 16.0日)より早かった(p<0.05).

    受胎牛率(受胎頭数/群頭数)において3群に有意な差がなかった.しかしL群は,授精精可能日数が短くなるため,分娩後の初回排卵を確認して次回の発情時には確実に授精することと,主席卵胞のサイズや機能性黄体の有無など,卵巣動態の的確な把握が重要であることが示唆された.季節繁殖和牛において,放牧を実施できない時期に制限給餌を行う場合,分娩時期がその後の繁殖成績に影響を与えることが明らかとなった.

  • 乙丸 孝之介, 楠田 絵梨子, 米重 隆一, 笠井 圭
    2016 年 7 巻 1 号 p. 20-23
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/11/03
    ジャーナル フリー

    呼吸器病に罹患した黒毛和種子牛における血清亜鉛濃度の調査を行った.供試牛は,鹿児島県内の1農場において飼養されていた去勢子牛20頭で,体温39.7℃以上,鼻汁および発咳など呼吸器病症状を示した初診日の子牛10頭を呼吸器病群,臨床的に健康であった子牛10頭を対照群として比較した.その結果,血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,γ-グルタミルトランスフェラーゼ,尿素窒素,クレアチニン,総蛋白,アルブミン,グロブリン,総コレステロール,トリグリセリド,カルシウム,リンおよびマグネシウム濃度の平均値は両群に有意な差は認められなかった.いっぽう,血清亜鉛濃度の平均値は,呼吸器病群68.1μg/dℓ,対照群106.7μg/dℓであり,呼吸器病群では対照群と比較して有意に低値であった(p<0.01).これらの結果から,呼吸器病症状を呈した黒毛和種子牛は,炎症状態であるために血液中の亜鉛を消費した,あるいは,給与された亜鉛の吸収不足などにより呼吸器病発症前にすでに亜鉛濃度が低値であったなどの可能性が考えられた.今後,呼吸器病症状を示す子牛における血清亜鉛濃度減少の機序を明らかにする必要があると考えられた.

症例報告
  • 望月 奈那子, 滄木 孝弘, 伊藤 めぐみ, 藤田 理公, 堀内 雅之, 古林 与志安, 猪熊 壽, 芝野 健一
    2016 年 7 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2016/11/03
    ジャーナル フリー

    9カ月齢のホルスタイン去勢牛が食欲廃絶,乏尿および疝痛様症状を呈し,尿中からリン酸アンモニウムマグネシウムの結石が検出されたことから尿石症と診断された.対症療法を行ったところ,症状の増悪はないが食欲や全身状態の顕著な改善が得られないまま経過した.1カ月後,発熱,脱水症状,乏尿および腹囲膨満が認められ,尿路閉塞に伴う膀胱破裂が疑われたが,血清中クレアチニンおよび尿素窒素濃度の上昇など,膀胱破裂に特徴的な血液生化学的所見は認められなかった.確定診断に至らないまま予後不良と判断され,安楽殺された.病理解剖の結果,膀胱尖が小さく開口し,その先に腹腔の右側を占拠する巨大な腫瘤が認められた.

    膀胱尖部の炎症性反応が乏しいことなどから,腫瘤のうち,膀胱と連絡する部分は遺残した尿膜管と診断された.また,腫瘤と周辺組織との癒着が広範囲にわたっていることから,尿膜管が何らかの原因により破綻し,尿が腹腔内に漏出したものの,大網に被覆された結果,腹膜炎が限局性にとどまり,巨大な嚢胞を形成するに至ったと推察された.

    尿石症による尿路閉塞や膀胱破裂が疑われる症例において特徴的な血液生化学的所見が得られない場合は,月齢が進んだ個体であっても,尿膜管憩室やそれに起因する限局性の腹膜炎を類症鑑別に加える必要があると考えられた.

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