産業動物臨床医学雑誌
Online ISSN : 2187-2805
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7 巻, Supple 号
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総説
  • 石川 真悟, 大塚 浩通
    原稿種別: 総説
    2017 年 7 巻 Supple 号 p. 217-224
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

     牛の生産病として大きな割合を占めているのは,呼吸器病,消化器病,泌尿器病および生殖器病である.これらが発症する組織はすべて粘膜組織であり,「内なる外」として体の内側ではあるが外界に接し,常に外来性異物に暴露されているため多くの病原体の感染を受けることになる.粘膜面においては,粘膜関連リンパ組織(Mucosa-Associated Lymphoid Tissue; MALT)と呼ばれる特殊な二次リンパ組織が存在し,粘膜特異的な粘膜免疫システムが存在する.よって牛の生産病コントロールのためには,牛の粘膜免疫システムの解明が必須の課題であると考えられる.

     近年ヒトやマウスにおいて,感染における初期免疫の担い手である自然免疫システムの研究が一気に進展し,自然免疫担当細胞の病原体認識-活性化機構および多様性について解明されてきた.その中で,粘膜免疫システムにおける自然免疫担当細胞のユニークな性質が明らかとなり,粘膜免疫システムと自然免疫システムは切っても切れない関係となっている.

     牛における「感染防御能」等免疫に対する考え方は,依然として血中抗体価等を主体とした血液中の獲得免疫システムが主体である.しかし,牛においても粘膜面での自然免疫システムが,感染防御や恒常性維持に重要な役割を果たしていることが想定される.本論文ではヒトやマウスにおける最新の知見を生産病コントロールにどう応用していくかについて牛での研究事例を交えながら考察する.

原著
  • 大川 洋明, 藤倉 篤史
    原稿種別: 原著
    2017 年 7 巻 Supple 号 p. 225-230
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

     子宮内膜炎は分娩後に認められる重要な繁殖障害である.繁殖成績向上に寄与するために,乳用牛群における腟検査による腟粘液スコア(VMS)のグレード分類に基づき診断した臨床性子宮内膜炎発生の実態把握および,その発生に影響する危険因子の解明を目的として疫学調査を実施した.VMSは以下の4分類[0:粘液を認めないまたは透明粘液,1:やや灰色がかった,または透明粘液に白色小片を含む,2:50%未満の膿汁を含む,3:50%以上の膿汁を含む]に区分し,VMS1以上を臨床性子宮内膜炎と診断した.ホルスタイン種乳牛180頭の251回の分娩について分娩後21 ~90日に1回,腟検査によりVMSを調査し,罹患率は分娩後21 ~28日,29 ~40日,41 ~90日について,それぞれ41.9%(13/31),25.5%(26/102)および21.2%(25/118)であった.子宮内膜炎の有無について,農場,産歴,季節,分娩異常,胎盤停滞の治療歴,分娩後30日以内の病傷治療歴の影響をロジスティック回帰分析により解析した.その結果,胎盤停滞の治療歴,分娩後30日以内の病傷治療歴が有意な危険因子として選択され,そのオッズ比はそれぞれ3.96(p<0.01)および2.02(p<0.05)であった.以上より,分娩後40日以降も約20%の牛に臨床性子宮内膜炎が認められ,腟検査によるVMS評価は臨床現場に適した検査手法であると考えられた.胎盤停滞,分娩後30日以内の病傷治療歴のある個体に対しては積極的な検査,診断,治療が必要であると考えられた.

短報
  • 林 淳
    原稿種別: 短報
    2017 年 7 巻 Supple 号 p. 231-234
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

     黒毛和種育成雌牛において,長距離・長時間輸送の影響を調査した.黒毛和種育成雌牛10頭を用い,家畜輸送専用車で宮崎県から北海道まで,2,078 km(陸路1,130 km,海路948 km)を62時間かけて長距離輸送し,輸送前後における体重および血液性状を測定した.輸送前の体重は283.5±29.6kg(平均値±標準偏差)で,輸送後は256.2±26.5 kgと有意に減少した(p<0.001).輸送前に対する輸送後の体重の平均減少率は9.6±1.3%(7.0 ~ 11.0%)であり,10頭すべての個体で体重の減少が認められた.血液性状においては,輸送後の赤血球数, ヘモグロビン濃度, ヘマトクリット値,平均赤血球ヘモグロビン濃度および遊離脂肪酸濃度の有意な上昇,ならびに総コレステロール濃度,血中尿素窒素濃度,グルコース濃度,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性値,ビタミンA濃度,マグネシウム濃度およびHDLコレステロール濃度の有意な低下(p<0.05)を認めた.血液性状の変化より,輸送中に乾物摂取量の低下による摂取エネルギーの不足および飲水量の不足が生じていると考えられた.以上のことから,黒毛和種育成雌牛の長距離・長時間輸送による体重の減少の要因の一つに,乾物摂取量および飲水量の低下が関係していることが考えられた.

症例報告
  • 立川 文雄
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 7 巻 Supple 号 p. 235-238
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

     2015年9月,大分県内の牧野に放牧中の黒毛和種10歳齢の雌,元気食欲不振を主訴に受診した.症例は可視粘膜蒼白で血液塗沫にてタイレリア原虫が検出されたため,小型ピロプラズマ病と診断された.第1病日赤血球数116×104/μℓ,ヘマトクリット(Ht)値11.2%を呈し,第4病日まで,1日1回ジミナゼン・ジアセチュレート(DDA)1g/頭を投与したが,原虫寄生率,ヘマトクリット(Ht)値に変化がなく,第6病日において臨床症状の改善がみられなかったため,アクリフラビン1%溶液を50 mℓ静脈内投与した.第7病日には食欲は回復し,赤血球数133×104/μℓ,Ht 12.9%と貧血も改善傾向に向かった.アクリフラビンは動物用医薬品として販売されておらず,小型ピロプラズマ病の治療薬としての認識は少ない.今後DDAに反応しない症例においては,その治療選択肢としてアクリフラビンの使用が考慮されるべきと考えられた.

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