泌乳初期の潜在性ケトーシス(SCK)牛に対して塩酸ベタインと含糖ペプシンを含む塩酸ベタイン製剤( ビオペア:BPA,東亜薬品工業,東京)を一定期間経口投与して,その効果を一般に汎用されているプロピレングリコール(PG)と比較検討した.本試験は北海道江別市の1酪農場で実施した.対象牛は2014年11月〜2015年5月までに分娩した54頭である.分娩後3日目および8日目に採血を行い,β-ヒドロキシ酪酸(BHBA)濃度が1.0 mM以上の牛をSCK群とし,無作為に選定されたいずれかの薬剤を採血日からそれぞれ5日間連続で経口投与した.牛によってSCK以外の疾病の発症や薬剤投与期間に違いがあったため,最終的に3日目から10日間連続して試験薬剤のみが投与された13頭が投与群(PG群:7頭,250 mℓ/日,BPA群:6頭,90 g/日)として選定された.また,試験期間を通してBHBA濃度が1.0 mM未満で臨床的に健康な10頭を対照群とした.なお,血液検査は13日目も実施された.一般的血液プロファイルとして,脂質,ミネラル,肝酵素,血糖値を評価した.なお,乳生産や繁殖成績についても調査した.PGおよびBPA群のBHBA濃度は,13日目においても対照群より有意な高値(p<0.01)を示したが,PG群とBPA群の間に差はみられなかった.一方,PGおよびBPA群の非エステル型脂肪酸濃度は,対照群と同程度であった.血糖値は8日目以降投与群と対照群との間に有意差はなかった.初回人工授精までの日数は3群間に明らかな差はなかった.乳生産量ではBPA群が対照群よりも高い傾向(p=0.12)がみられた.なお,泌乳初期のBPA群の乳蛋白率は対照群のそれよりも低かったが異常値ではなかった.以上よりBPAのSCK牛に対する投与はPG投与に劣らず有効であることが示唆された.
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