産業動物臨床医学雑誌
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8 巻, 4 号
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総説
  • 高橋 正弘, 山本 公平
    原稿種別: 総説
    2017 年 8 巻 4 号 p. 201-207
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/05/09
    ジャーナル フリー

     牛の繁殖性において人工授精による受胎率は年々低下しており,畜産農家の経済的損失は非常に大きい.またドナー牛の過剰排卵処置時の胚品質は,栄養状態,飼養管理技術ならびに粗飼料の品質など多くの要因に左右され,必ずしも安定した成績は得られないのが現状である.

     脂肪酸は生体内において様々な形で存在し,特にリノール酸などの多価不飽和脂肪酸は,牛の繁殖性に著明な影響を及ぼす脂肪酸の一つである.特に多価不飽和脂肪酸は栄養学的ならびに生理学的に重要な役割を持っており,牛の繁殖性に良好な影響を及ぼすことが多数報告されている.

     牛の繁殖性における脂肪酸の作用機序としては,以下のように考えられる.メバロン酸経路からコレステロールが生合成され,性ステロイドホルモンの産生増加による卵胞の成熟ならびに排卵への効果がある.また,生体膜の脂質組成を調節し,細胞膜の構造の変化により,卵子・胚品質を向上させ,それらの凍結保存に対する耐凍性も改善される.さらにリノール酸は,プロスタグランジンF(PGF)の生体内原料であり,PGFは牛の繁殖機能に関わる重要な生理活性物質である.

     結論として,牛に対して脂肪酸の給与のみでエネルギーバランスの改善は困難であるが,バイパス処理化された多価不飽和脂肪酸の適切な給与は,卵胞の発育,卵子・胚品質ならびに耐凍性に影響を与え,繁殖に関わるステロイドホルモンやエイコサノイドの産生を促進させる最良の手段と考えられる.

原著
  • 松田 敬一
    原稿種別: 原著
    2017 年 8 巻 4 号 p. 208-213
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/05/09
    ジャーナル フリー

     ビタミンC(VC)は強い抗酸化作用を持つ栄養素である.家畜においてVCは体内で合成されるものではあるが,黒毛和種牛では肥育の経過に伴い血漿中VC濃度が低下すると報告されており,肥育後期にはVCが欠乏している可能性が示唆される.ヒトにおいてVC欠乏は肝硬変等の肝臓病と因果関係があるとされており,実際にVCの投与は肝臓病の治療として活用されている.そこで,黒毛和種肥育牛においてビタミンA(VA)等の抗酸化ビタミン低下による肝機能障害を軽減させることを目的として,VCを70%含有するルーメンバイパスVC 製剤(VC製剤)を給与して,血液検査成績に及ぼす影響を調査した.肝機能障害の診断酵素活性が高値を示した19~20カ月齢の黒毛和種肥育牛10頭を供試牛とし,通常の給与飼料に加えて,調査開始から7日間VC製剤を1日30g給与した.VC製剤給与前,給与1, 3, 7日目および給与終了後7日目に採血し,血液検査成績の推移を調査した.血漿中VC濃度は,給与前に比べ給与3日目および7日目で有意に増加した.血清中VA濃度は,給与前の時点で欠乏値であったが,さらに給与7日目および給与終了後7日目で給与前に比べて有意に減少した.血清中AST活性は,給与前に比べ給与7日目に有意に減少した.血清中GGT活性は,給与前に比べ給与3日目および7日目に有意に減少した.結果より,VC製剤の給与によって,血漿中VC濃度が増加したこと,および血清中ASTおよびGGT活性が減少したことから,VCは牛において肝臓の保護作用がある可能性が示唆された.

  • 三浦 弘, 菊池 元宏, 坂口 実
    原稿種別: 原著
    2017 年 8 巻 4 号 p. 214-220
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/05/09
    ジャーナル フリー

     乳牛の受胎率は気温の上昇により低下することが知られており,この主な原因は暑熱ストレスによる卵子や胚の品質低下や死滅であると考えられている.本研究は,気象庁による気温データと牛分娩率との相関を解析し,高気温の分娩率への影響を明らかにすることを目的とした.

     民間企業の運営する同一の繁殖牛管理アプリケーション「まきばの彼女」を使用する農家42 戸より,2012 〜 2014 年の繁殖データを匿名で使用する許諾を得たうえで,ホルスタイン種乳牛7,174 頭における人工授精(AI)と胚移植(ET)における分娩率(2012 〜 2013 年に行われたAI,ET のうち,分娩に至った例数の割合)を算出した.これに気象庁の一日平均気温のデータを加え,AI およびET 実施日の一日平均気温と分娩率について解析を行った.またこれとは別に青森県の1 黒毛和種牧場について,2003 〜 2009 年の繁殖管理データを同様に解析した.ホルスタイン種経産牛のAI において,一日平均気温が20℃以上で分娩率の有意な低下が観察された.しかし,同種未経産牛のAI,同種経産牛および未経産牛のET,黒毛和種牛経産牛および未経産牛のAI ではこの低下はみられなかった.これらのことから,泌乳牛のAI において暑熱ストレスによる受胎率低下が生じるのは,一日平均気温が20℃以上の環境であることが示された.また,分娩率低下と気温との関連性が明確ではない地域が見られたため,この結果を適用するには地域や農場毎の個別の条件に注意するべきであることが示唆された.

症例報告
  • 田村 倫也, 工藤 力, 佐々木 ことえ, 庄野 春日, 渡邉 康平, 三浦 沙織
    2017 年 8 巻 4 号 p. 221-226
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/05/09
    ジャーナル フリー

     牛における上腕骨骨折治療は髄内ピン,創外固定,プレート固定,spica スプリント,ストールレスト等が選択肢となるが,いずれの方法も現状では評価が一定していない.著者らは子牛の上腕骨骨折に対しDynamic Compression Plate(DCP)を用いた内固定を行った.症例1 は6 カ月齢,推定体重140 kg の黒毛和種子牛で,左上腕骨骨幹遠位部の斜骨折であった.症例2 は1 日齢,推定体重40kg の黒毛和種子牛で,左上腕骨骨幹遠位部の長斜骨折であった.手術は右側横臥位保定,キシラジン・グアイフェネシン・ブトルファノール混合液の点滴投与による鎮痛・不動化処置下で行った.上腕骨大結節から外側上顆付近まで切皮し,さらに上腕筋を分離し上腕骨にアプローチした.骨折部を整復し骨鉗子で仮固定した後,屈曲させたDCP (症例1:幅12 mm,長さ87 mm,症例2:幅12 mm,長さ103 mm)を上腕骨頭外側面へ適用し,4.5 mm 径皮質骨スクリューで固定した.症例1 では術後経過中スクリューの破折が見られたものの,術後68 日目に跛行消失を確認,順調に発育し繁殖牛として供用された.症例2 では順調に経過し,術後29 日目に跛行消失を確認,以後良好に発育した.症例1 ではプレート長の不足とベンディング不足により固定力が低下してスクリュー破折に至ったと考えられ,症例2 ではベンディングプレスを用いて上腕骨に合わせ強く屈曲させたプレートを適用したことで,固定が維持されたものと推察された.これら2 症例より,子牛の上腕骨骨折治療においてはDCP を用いた内固定が選択肢の一つとなり得ることが示唆され,その際には適切なプレートの選択と成型が重要であると考えられた.

  • 坂口 加奈, 前澤 誠希, 田中 佑典, 互野 佑香, 上沢 彩, 渡邉 謙一, 堀内 雅之, 古林 与志安, 猪熊 壽
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 8 巻 4 号 p. 227-230
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2019/05/09
    ジャーナル フリー

     食欲不振を呈した51 カ月齢のホルスタイン乳牛が頸静脈怒張を呈したが,心音微弱のため,初診時に心膜炎が疑われた.体表リンパ節腫大はなく,直腸検査でも骨盤腔内の腫瘤は触知されなかった.同日の血液検査で異型を伴う著しいリンパ球増多症(80,436/μℓ)を認め,また抗BLV 抗体はELISA で陽性であった.LDH 総活性,LDH アイソザイム2 および3 分画活性は,それぞれ15,640, 3,909および3,128 U/,血清TK 活性値は1,920 U/と,いずれも著増していた.症例は胸垂部冷性浮腫,呼吸困難症状を呈し第10 病日に死亡した.病理解剖では心嚢腔内に複数の腫瘤が認められ,血様混濁心嚢水が貯留していた.腫瘤は前縦隔,胆嚢と膵臓周囲,腸間膜,第四胃周囲にも認められた.病理組織学的に腫瘍細胞はB 細胞リンパ腫であることが確認され,本症例は地方病性牛白血病と診断された.

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