周産期の乳牛は負のエネルギーバランス状態に陥りやすく,それに伴って動員された体脂肪が,肝臓に蓄積されると脂肪肝となる.脂肪肝は周産期疾病や繁殖障害の素因となることから,その予防が重要である.肝臓に取り込まれた脂肪は超低密度リポ蛋白質に合成され血中に放出されるが,その過程で必要となるメチル基供給体(メチルドナー)であるメチオニンやコリン,補酵素であるビタミンなどの添加が脂肪肝の予防に有効とされてきた.本試験では新たに国内向けに開発されたメチルドナー・ビタミン複合添加物(MCV-J)を周産期乳牛に投与し,肝臓への脂肪蓄積,飼養成績(DMI,BW,BCS),第一胃液性状,血液成分および乳生産に及ぼす影響を検討した. ホルスタイン種経産牛12 頭(うち添加区の1 頭は除外)を供試し,分娩予定3 週前から分娩後3 週までの間,MCV-J を50 g/ 日/ 頭を飼料に添加する添加区5 頭と,無添加の対照区6 頭に区分した.DMI と乳量は毎日記録し,BW,BCS,第一胃液,血液を分娩前3,2,1 週と分娩後1,2,3,5,8,12 週に計測・採材した.また,分娩後1,2,5 週に肝生検を行い,脂肪染色組織画像からの脂肪蓄積度(脂肪肝スコア)と中性脂肪(TG)含量を調査した.脂肪肝スコアはすべての週次において,TG 含量は分娩後1,2 週においてそれぞれ添加区が有意に低かった.血液成分は分娩後1 週において添加区のβヒドロキシ酪酸と遊離脂肪酸が有意に低く,アスパラギン酸トランスフェラーゼとγグルタミルトランスペプチダーゼが有意に高かった.飼養成績,第一胃液性状および乳生産に処理間差が認められた調査項目はなかった.以上のことから,周産期乳牛へのMCV-J 添加は飼養成績,第一胃液性状および乳生産に影響することなく,肝臓への脂肪蓄積を抑制できることが確認された.
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