排卵同期化・定時人工授精プログラムは,現代の牛の繁殖管理に必要不可欠な技術である.Ovsynch の登場以来,受胎率向上を目的として改良が進められ,現在では多種多様なプログラムが用いられている.中でもShort-Synch は,プロスタグランジンF2α(PGF2α)を投与し,排卵誘発剤の投与を経て定時人工授精(TAI)を行う方法で,処置実施回数や所要日数が少なく労力やコストを低減できるメリットがある.しかし従来のShort-Synch には,処置実施時間が深夜・早朝におよぶ時間面でのデメリットが存在し,またTAI 後の受胎率はOvsynch と同程度であった.そこで,PGF2α 投与の24時間後に排卵誘発剤として安息香酸エストラジオール(EB)を投与し,その翌日にTAI を行うプログラムを実施した.その結果,PGF2α投与の56 時間後に排卵誘発剤としてGnRH を投与し,その翌日にTAI を行う従来法と比較して高い受胎率が得られた.Short-Synch の実施にあたっては,PGF2α投与により退行する機能性黄体が存在する必要があり,その存在を高精度で診断することが高受胎率を得る鍵となる.今回実施したShort-Synch では,直径20 mm 以上の黄体と直径8 mm 以上の卵胞が1 個ずつ存在し,前回の排卵または外陰部出血からそれぞれ10 日・7 日以上経過した牛を対象とした.その結果,従来法と同等または有意に高い受胎率が得られたことから,これらの条件は機能性黄体の診断基準として有用であると考えられた.また,直径20 mm 以上の黄体と共存する直径10 mm 以上の卵胞の個数に着目したところ,当該卵胞が2 個以上存在する場合はEB・GnRH いずれの排卵誘発剤を用いても同等に高い受胎率が得られたが,当該卵胞が1 個の場合にはEB 使用プログラムでGnRH 使用プログラムよりも高い受胎率が得られた.上記の卵巣内部所見は,近年臨床現場でも広く普及している超音波診断装置にて把握可能であり,効果的にShort-Synch を利用するにあたり本装置による診断が一助となる可能性が示された.
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