生後15日齢(J群)および41日齢(K群)の子豚,ならびに対照群としてJ群と同腹の子豚(C群)それぞれ4頭ずつ計12頭を用いて,豚の誘導作業の省力化における音楽利用の効果について検討した.まず,J群とK群に対して,採食中に音楽を流す馴致を6日間12試行行った後,音楽を条件性強化刺激として,通路を挟んだ向かい側豚房ならびに6.6m離れた豚房の飼槽への移動を,それぞれ28ならびに20試行学習させた.訓練後,本実験として,次の実験1〜3をそれぞれ40,10,1試行実施した.実験1では,豚舎の1区画を迷路にみたてて十字迷路を設定し,音楽ありと音楽なしの条件の下で,各群ごとに6.6m離れた飼槽へ誘導した.実験2では,供試豚の全く知らない12.6m離れた新奇な場所への音楽による誘導を行った.実験3では,出荷を想定して,群飼豚房から14.5m離れた出荷用トラックまでの音楽による誘導を行った.各実験では,各個体の目標達成までの所要時間と成功回数を測定した.実験1での音楽ありの十字迷路における成功率は,J群が74.4±41.0%,K群が55.0±40.5%とJ群の方が有意(P<0.05)に高かった.また,個体ごとの成功回数についても,K群が1頭も音源の位置を特定できなかったのに対して,J群は全個体が有意(P<0.01)に音源の位置の特定に成功した.しかし,所要時間については,J群が7.4±3.5秒,K群が7.3±2.5秒と群間に差はなかった.音楽なしの十字迷路では,成功率と所要時間とも群間に有意な差は認められなかった.実験2における各群の成功率は,J群とK群が100±0%,C群が70.0±41.1%であり,学習訓練を受けたJ・K群とC群との間に異なる傾向(P<0.10)がみられた.また,所要時間もJ群が5.1±0.8秒,K群が6.8±1.3秒,C群が91.6±69.9秒とJ・K群がC群よりも有意(P<0.01)に短かった.実験3では.J群の全個体が平均110±55.9秒で輸送用トラックまで自発的に移動したのに対して,K群では3個体が豚舎の敷居を越えたのみであった.また,C群については,1個体のみが豚舎の敷居を越えただけであった.今回の実験結果から,餌と連合学習させた音楽を用いることにより.豚を自発的に移動をさせることは可能であると推察され,さらに日齢により学習効果が異なる可能性も示唆された.
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