黒毛和種繁殖牛における母性行動の個体変異を明らかにするとともに,変異の生ずる要因や子牛の発育との関係について検討した。母子17組を用いて,分娩2日目・1・2・3・4週目にそれぞれ日の出30分前から6時間,母性行動としてmaternal grooming持続時間,母子間距離(子牛との近接度),哺乳行動持続時間の3つについて観察・記録した。個体変異の要因として,母牛の気質,社会順位および産次を記録した。子牛の発育指標として1カ月齢までの日増体量 (DG) と下痢日数を記録した。子牛の成長には父牛の遺伝効果も考えられることから,解析に際しては父牛の直接検定および間接検定のDGも加えた。maternal grooming持続時間と母子間距離は,それぞれ個体間で有意な差があったが(それぞれP<0.0001, P<0.005),哺乳行動持続時間には個体差が見られなかった。各母性行動間には相関は見られず,互いに独立した形質と考えられた。maternal grooming持続時間は子牛のDGおよび下痢日数と有意な相関関係があった(それぞれr=0.64, P<0.005, r=-0.67, P<0.05)。また母子間距離は母牛の社会順位や産次と有意な正の相関関係があった(それぞれr=0.54, P<0.005, r=0.74, P<0.005)。子牛のDGと父牛の直接検定・間接検定のDG間には有意な相関関係は見られなかった。
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