16羽の雌成鶏に採食時および非採食時の同種固体のサイレントビデオ映像(動画)とスライド(静止画)およびついばみ音をそれぞれ別個に提示し,採食行動の促進に有効な視覚的,聴覚的要因を調べた。各刺激は「持続提示」および「連結提示」の方式で各個体に提示された。持続提示では6種類の刺激(採食動画,非採食動画,採食静止画,非採食静止画,ついばみ音および無映像)のいずれかをそれぞれ5分間に渡って提示し続け,試供鶏の採食行動反応を測定した。採食量,ついばみ回数ともに採食映像の動画を提示したときに最も多く,他の5刺激に対して有意差が認められた(採食静止画との差はP<0.05,他はいずれもP<0.001)。次いで採食静止画とついばみ音の提示時の採食量,ついばみ回数も他の3刺激よりも有意に多かった(P<0.05またはP<0.01)。採食静止画とのついばみ音の差は有意ではなかった。以上の結果から採食量とついばみ回数のいずれにおいても採食動作を伴う動画の方が採食姿勢のみの静止画よりも有意に多くなった。短時間で刺激が交代する連結提示実験(動画-ついばみ音シリーズおよび静止画-ついばみ音シリーズともそれぞれ4種類の刺激を15秒間ずつ5反復で連結し,順序は同じだが起点が異なる4タイプの提示をそれぞれ5分間提示)では,最初に出現する刺激が全5分間の採食量に強く影響したが,時系列分析の結果,両シリーズともついばみ回数は持続提示の結果に相応した各刺激の効果を示しながら増減を繰り返し,その変動パターンはどの刺激が起点になるかに関わりなく一定していることが認められた。以上、鶏の採食行動は採食動作を伴う視覚的刺激により最も強く誘起・促進されるが,採食静止画でも視覚的刺激と同程度の効果があること,鶏は刺激の変化に鋭敏に対応して採食行動を短い間隔で変化させることが認められた。
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