音声言語医学
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32 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 大森 孝一, 児嶋 久剛, 藤田 修治, 野々村 光栄
    1991 年 32 巻 3 号 p. 255-260
    発行日: 1991/07/25
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    音声の周波数分析において, 高速フーリエ変換 (FFT) は周波数分解能を上げるために分析区間を長くすると経時的変化をとらえにくい.一方, 最大エントロピー法 (MEM) は短い分析区間からでも優れた分解能が得られるスペクトル推定法で, 今回著者らは本法を用いて嗄声の周波数分析を行った.対象は正常音声1例, 気息性嗄声1例 (日本音声言語医学会の基準テープ) , 粗造性嗄声2例 (同テープ) , 臨床例から声帯ポリープ1例, および食道音声27例とした.正常例, 気息性嗄声例では, FFTによる場合と同様であった.粗造性嗄声の典型例および声帯ポリープ例では30Hz-50Hz間隔の周期的ピークが認められ, FFTよりも明確に粗造性嗄声の特徴をとらえることができた.さらに食道音声の分析でもMEMの方が優れており, 粗造性嗄声に類似した周期的成分が観察された.MEMは, 特に粗造性嗄声の分析に有用と考えられた.
  • ―言語面および非言語面の障害についての検討―
    橋本 佳子, 進藤 美津子, 加我 君孝, 赤井 貞康
    1991 年 32 巻 3 号 p. 261-268
    発行日: 1991/07/25
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    幼少時に発症した左前頭・側頭・頭頂葉領域におよぶ脳腫瘍摘出術後, 学齢後に学習不振をきたした1症例について検討した.
    本例は1歳から12歳までの間に計4回の摘出術を受け, 言語中枢を含む左半球に広範な損傷がみられたが, 日常会話レベルで, 日本語のみならず, 英語をも習得していた.しかし, 言語面にも文字言語力, 構文能力などの障害が認められた.非言語面では, 視覚認知力, 構成能力の乏しさが顕著に認められ, WISC-R知能検査においても言語性IQが74であるのにたいして, 動作性IQは46と著しい解離がみられた.本例の学習不振は, 言語面と非言語面の障害の両者によりもたらされたものと推測され, 本例の多大な努力も報われないという, 学習上の限界がみられた.言語面と非言語面の障害の間に解離がみられたことから, 発達の比較的早期に損傷を受けた本例の左右大脳半球において, 非言語面より言語面が優先的に発達してきた可能性が考えられた.
  • 伊藤 元信
    1991 年 32 巻 3 号 p. 269-279
    発行日: 1991/07/25
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    1歳2ヵ月の時の熱性けいれんがもたらした構音器官の運動障害に起因すると考えられる構音障害を有した高校3年の男子に対し, 短期集中的な構音訓練を実施し, 構音障害の著明な改善を得た.
    この結果は, 幼児期に誤った構音動作を習得し, その動作が長い期間に習慣化した場合でも, 適切な構音訓練の方法を用いて集中的な訓練を行えば, 正常な構音動作をごく短期間で再学習させることが可能であることを示唆している.
  • 福迫 陽子, 物井 寿子, 廣瀬 肇
    1991 年 32 巻 3 号 p. 280-290
    発行日: 1991/07/25
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    失語症の聴覚的理解障害の経過を知ることを目的に, 刺激法による訓練を受け, 全般的な言語症状の変化がプラトーに到達したか, 不変であった失語症患者206例 (全例右利き, 左半球病変, 訓練開始時期は発症後6ヵ月以内) について失語症鑑別診断検査 (老研版) を用いて検討し, 以下の知見を得た. (1) 聴覚的理解6指標のうち, 聴覚的理解モダリティーの経過は他の5指標と異なり, 初期より高い成績を示し, 変化の少ない例が多かった. (2) その他の聴覚的理解指標における回復経過はタイプにより趣を異にした. (3) 聴覚的理解経過における年齢差は, ウェルニッケ失語と伝導失語において顕著に認められた. (4) 聴覚的理解経過と口頭表出経過との関係は, タイプや指標によって異なったが, 個人差も認められた. (5) 聴覚的理解経過と口頭表出経過との関係における年齢差は健忘失語を除くすべてのタイプに認められたが, 特にブローカー失語 (軽) でめだった.
  • 広田 栄子, 田中 美郷
    1991 年 32 巻 3 号 p. 291-298
    発行日: 1991/07/25
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    過去に当科で研修した研修生 (第1群) と全国聾学校, 難聴幼児通園施設の専門職員 (第2群) を対象として聴覚障害幼児の指導における臨床技術の研修の現状とニーズについて調査した.前者では臨床経験と研修内容の関係を検討し, 後者では新任者と現任者の研修の相違点について, また, 聾学校と通園施設における研修体制の違いについて検討した.その結果, 1) 現行の聴覚言語障害の専門課程を修了後にも臨床研修の要望が高く, 2) 初年度と臨床経験3年目以降の再研修の要望を得た.3) 新任者研修の内容については聴覚障害児教育の基礎的領域, 現任者については補聴器適合, 重複する障害, 発達段階の理解など症例の個別的な問題についての研修が必要とされていた.4) 研修期間は短期または数日の研究会参加が多く, 聾学校では地域での研修制度や長期研修の試みがあった.聴覚障害児の指導の質の向上のためには卒後研修の意義は大きく, 今後一.層の充実が期待される.
  • 相野田 紀子, 阿部 雅子, 岡崎 恵子
    1991 年 32 巻 3 号 p. 299-307
    発行日: 1991/07/25
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    重度の鼻咽腔閉鎖機能不全を示す6歳以上の口蓋裂症例148例 (術前54例, 術後94例) について, 復唱法による単音節での構音を聴覚的に分析して次の結果を得た. (1) 得られた単音節はすべて異常と判定された.内訳は, 閉鎖機能不全に起因する子音の歪みが68%を占め, 声門破裂音は27%であった. (2) 歪みと声門破裂音の出現は, 子音の音声学的性質に影響された. (3) 構音障害のパターンによって, 全症例は歪み群, 声門破裂音群, 混合群の3群に分類された.これら3種のパターンの出現は, 症例の年齢と関連を示した.以上の構音検査結果に基づき, 次の3点について考察した. (1) 閉鎖機能不全症例における構音障害, (2) 閉鎖機能不全症例の分類, (3) 口蓋裂症例における代償的構音.さらに, 代償的構音産生の機構およびその個人差に関する研究の必要性を強調した.
  • 福迫 陽子, 物井 寿子, 遠藤 教子
    1991 年 32 巻 3 号 p. 308-317
    発行日: 1991/07/25
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    モーラ指折り法による構音訓練とは, 健側手の指を折りながらこれに合わせてことばをモーラごとに区切って発話することを系統的に獲得させる方法である.この方法を脳血管障害後の麻痺性構音障害患者5例 (仮性球麻痺タイプ, 中等度~重度, 平均年齢65.4歳) に実施し, 訓練後の成績および訓練終了後6~36ヵ月経過後の状態を聴覚印象法を用いて評価したところ, 以下の結果を得た.
    (1) 訓練後, 全例で重症度 (異常度+明瞭度の和) に改善が認められた.0.5以上の評価点の低下 (改善) が認められた項目は, 「明瞭度」, 「母音の誤り」「子音の誤り」「鼻漏れによる子音の歪み」「開鼻声」「異常度」など8項目であったが, 一方「音・音節がバラバラにきこえる」「発話の程度一遅い」の2項目では悪化も認められた.
    (2) 経過観察時には, 5例中3例の重症度は不変であったが, 2例 (いずれも36ヵ月経過例) では悪化が認められた.
  • 今井 智子, 道 健一, 山下 夕香里, 鈴木 規子
    1991 年 32 巻 3 号 p. 318-332
    発行日: 1991/07/25
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    舌・口底切除後に前腕皮弁で即時再建した10症例の構音動態をエレクトロパラトグラフィーを用いて観察し, 単純縫縮例9例と比較検討したところ次の結果を得た.
    1) /t/音については硬口蓋上の閉鎖が認められる症例においてのみ高い発語明瞭度が得られたが, このパターンは前腕皮弁再建例に多く認められた.
    2) /s/音については単純縫縮例, 前腕皮弁再建例ともに硬口蓋前方部での狭めを示す症例は少なかったが, 狭めの認められないパターンでも発語明瞭度は良好であった.
    3) 健側と切除側の接触点数の時間的変化については, 単純縫縮例では相似型あるいは片側接触型が多かったのに対し, 前腕皮弁再建例では接触点数の変化に時間的なずれが認められる交差型が特徴的であった.
    以上の結果から, 前腕皮弁は皮弁自体に運動性はないが構音時に残存舌と協調して構音に関与していることが明らかとなった.
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