病的音声のF0のゆらぎのスペクトルを計測した.計測されたスペクトルのパターンに着目し, そのパターンを4個の因子 (傾斜特性f
-n, 盛り上がりの高さP, 先鋭度Q, 中心周波数fp) で近似した.スペクトルのパターンからF0のゆらぎを生成できる‘Slope-Peak’modelを提案した.このモデルを用いて, F0にゆらぎを加えた合成音を作成した.その合成音を聴取することにより, モデルを記述する因子が, roughとvoice tremorの病的音声のカテゴリに与える影響を調べた.その結果, 以下のことが得られた.
(1) roughの聴覚印象を強く与える場合: (a) 傾斜特性が小さく (f
-n, nは小) , スペクトルの盛り上がりは低域よりも高域に存在し (fpは小) , かつ盛り上がりの高さが大きい (Pは大) .
(2) voice tremorの聴覚印象を強く与える場合: (a) 傾斜特性が大きく (f
-n, nは大) , スペクトルの盛り上がりは高域よりも低域に存在し (fpは大) , かつ盛り上がりの高さが大きい (Pは大) . (b) 先鋭度Qが大の場合も, voice tremorの聴覚印象を強く与える.
(3) roughとvoice tremorとを比較すると, 低域と高域のゆらぎの特徴が対称的である.すなわち, roughは, 低域に比べて高域のゆらぎが支配的である.一方, voice tremorは, 高域に比べて低域のゆらぎが支配的である.
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