音声言語医学
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43 巻, 3 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
  • 道 健一
    2002 年 43 巻 3 号 p. 219-237
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    口腔・咽頭部の器質的, 機能的障害に起因する言語障害の治療には外科的治療あるいは機能訓練のほかに, 歯科的な技術を応用した補綴的治療が適用される.一般に, 器質的な異常に対しては第一に外科的治療が選択される.器質的な異常でも外科的に正常な機能が得られない場合, あるいは, 手術が適用となりにくい場合, および機能的な異常による場合には補綴的治療と機能訓練の適用が検討される.特に, 全身状態が不良な患者, あるいは外科的治療をすでに行って言語障害が残存している患者では補綴的治療の適応を第一選択に考えて治療方針を立てるべきである.
    補綴的治療の方法および補綴的発音補助装置は補綴される部位, 機能によって分類される.その内の主な装置 (上顎顎義歯, バルブ型スピーチエイド, 軟口蓋挙上装置, 舌接触補助床) の適応と効果について述べた.
  • ―言語発達遅滞3症例から―
    山路 めぐみ
    2002 年 43 巻 3 号 p. 238-246
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    文字など視覚的な手掛かりを用いて発語が可能になった言語発達遅滞の3症例について, 言語様式別発達表の結果と5~6歳に実施したITPA言語学習能力診断検査の結果との関連を検討し, 言語発達検査における「視て理解」の意義について考察を加えた.3症例の2~4歳に実施した言語様式別発達は「聴いて理解」に比べ「視て理解」は発達段階が高い傾向にあった.5~6歳時に実施したITPAでは, 3症例の構成能力, 2症例の連合能力, 1症例の受容能力の課題で視覚優位の傾向が認められ, 言語様式別発達表に現われた「視て理解」が「聴いて理解」に比べて発達している傾向と関連するものと考えられた.言語発達を出生直後から言語様式別にとらえ, 言語発達検査には「聴いて理解」「話す」に加えて「視て理解」という下位検査を加えて評価していきたい.
  • ―新規な運動の表出能力の検討―
    小林 宏明, 早坂 菊子
    2002 年 43 巻 3 号 p. 247-255
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    吃音と音韻障害を併せもつ吃音児 (音韻障害吃音児) , 音韻障害をもたない吃音児 (非音韻障害吃音児) , 吃音も音韻障害ももたない児 (非音韻障害非吃音児) 各27名ずつ計81名 (5歳6ヵ月~11歳5ヵ月) の, 手指を用いた新規な運動の表出能力について検討を加えた.課題は, ディスプレイに描かれた手型に示される, 新規な運動パターン (ボタン押しの順番) を, ブザー音の提示後ただちに手指を用いて再現するというものであった.課題は, 1試行で押すボタンの総数 (構成要素) が, 1から4までの計7種類から構成されていた.また, 分析の観点を, (a) 誤数 (付加型, 欠落・置換型) , (b) 反応時間, (c) 運動時間とした.その結果, 音韻障害吃音児に他の2群に比べて欠落・置換型の誤りが多い傾向が認められた.しかし, 反応時間および運動時間については, 3対象児群間に相違は認められなかった.以上の結果から, 音韻障害吃音児と他の2群間に新規な運動の表出能力に相違があることが示唆された.
  • 小川 宏和, 小林 丈二, 岡田 亜紀, 兵頭 政光
    2002 年 43 巻 3 号 p. 256-260
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    一側性声帯麻痺3症例に対し, 嗄声の改善を目的としてプッシング法を主体とした音声治療を行った.その結果, 全例において発声時声門間隙の狭小化が得られ, 聴覚印象の改善も得られた.また, 自覚的にも「声の出しにくさ」や「発声時の疲労度」が軽減した.発声機能検査および音響学的検査では, 最長発声持続時間, AC/DC比, 平均呼気流率, shimmer, jitterの改善が全例で認められた.音声治療は長期にわたる治療が必要で, 治療前の発声時声門間隙が大きい例では十分な効果が得られにくいなどの問題点もあるが, 一側性声帯麻痺による嗄声に対して有効な治療法の一つになりうると考える.
  • ―長期追跡による回復過程の比較―
    玉井 ふみ, 徳永 要二, 加我 君孝
    2002 年 43 巻 3 号 p. 261-269
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    転落による重症頭部外傷により言語野を含む広範な左半球損傷をきたし, 小児失語症を呈した重症度および受傷年齢の異なる2例の言語機能と非言語機能の回復経過の特徴と長期的な到達レベルについて比較した.症例1は11歳時に受傷後, 意識障害が4ヵ月間持続し, 重篤な失語症状が認められた.受傷15年後には文レベルの会話が可能であったが, 言語障害が残存した.非言語機能のうち, 視空間的認知構成能力は比較的保たれていた.症例2は3歳時に受傷後約1週間意識障害が認められ, 喚語困難などの失語症状を呈した.受傷6年後の10歳時には日常会話には支障がなかったが, 統語能力や読み書きに障害が認められた.また, 知能の低下が著しく, 言語性知能より動作性知能のほうが低い傾向が見られた.幼小児期における左半球の脳損傷は, その後の発達や学習に限界をもたらし, 知能の低下は複雑な構文能力や読書力などにも影響を及ぼしていると考えられた.2例とも言語機能, 非言語機能とも軽~中等度の障害が残った.すなわち, 重症頭部外傷においては, 左半球のみの障害であっても言語機能, 非言語機能の障害が生涯後遺症として残るものと思われ, 学習面の支援を含む長期にわたる指導が必要と考えられる.
  • 佐々木 具文, 伊藤 秀美, 中原 寛子
    2002 年 43 巻 3 号 p. 270-279
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    私達はこれまで, さまざまな舌切除量の患者の上顎口蓋部に, 患者の残された舌の機能をより有効に活用することを目指して, 「アタ」・「アキ」・「アカ」の3被験語のパラトグラムを利用した舌接触口蓋床義歯を製作し, 発音を含めた顎・口腔機能の改善に良好な成績を上げてきた.
    今回は, 舌切除患者に装着した舌接触口蓋床義歯の長期にわたる保全を行っていくための基礎的資料を得るため, 舌切除の程度の異なる, 発語明瞭度が50%以下の2症例を対象に, 新・旧舌接触口蓋床義歯装着時の舌の調音の特徴を, 装着した舌接触口蓋床の口蓋形態とパラトグラムを用いて検討した.
    その結果, 一方の症例 (症例A) では舌の可動範囲が小さく, またもう一方の症例 (症例B) では可動範囲が大きくなっていく様子が伺われた.すなわち, 舌の形態・機能は変化しており, その変化の傾向には個人差があることが認められた.
    したがって, 積極的, 定期的な検査や保全を行う姿勢の必要性が示唆された.
  • ―ウエイトノイズ法の検討―
    高橋 信雄, 佐々木 結花, 高橋 博達, 永渕 正昭
    2002 年 43 巻 3 号 p. 280-289
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    脳血管障害による嗄声, 小声のある15例に対し, ロンバール効果を用いた新しい発声訓練法 (ウエイトノイズ法) を試みた.患者は55~35dBのウエイトノイズを両耳負荷し, 音読や復唱を行った.日常会話において, 11例で声質の改善, 12例で声量の改善が得られた.気息性, 無力性音声や声量低下に対する代表的アプローチとされるプッシング法は, 運動機能障害を伴っている脳血管障害例には適用が困難で危険とされる.努力発声を要求する方法も, 患者によっては努力発声ができない, あるいは続かないことが多い.またマスキング法 (90dB SPLのホワイトノイズを負荷) も, 不快感のため継続的な適用は困難である.本方法は脳血管障害例に適用が容易で, 不快感も少ないため, 効果的な訓練を繰り返し行うことができた.本方法の手続きについて述べ, 訓練効果を検討した.
  • 春原 則子, 宇野 彰, 金子 真人, 加我 牧子
    2002 年 43 巻 3 号 p. 290-294
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    英単語の書字に関して3通りの訓練方法の有効性について実験的に検討した.対象は, 詳細な認知・神経心理学的検討の結果, 聴覚性言語記憶障害と視覚的認知機能の障害が主症状と考えられた小児である.訓練は通常の英単語の学習方法と, 聴覚的につづりを聴いてアルファベットを覚える方法, さらにこの両者を組み合わせて行う方法の3通りにて行った.その結果, いずれの方法でもべースライン期に比して訓練後の成績は改善していたが, 両者を組み合わせた方法での改善が他の方法に比べて有意に大きかった.単一の障害を有する症例では障害の重症度に応じて, その機能自体を改善させるか, もしくは保たれている機能をバイパスルートとして活用し障害された機能を補うか, のいずれかの方法が取られている.しかし, 症状が複合している本例の場合には両者を組み合わせた方法が有効と考えられた.
  • 金子 真人, 宇野 彰, 春原 則子, 加我 牧子, 佐々木 征行
    2002 年 43 巻 3 号 p. 295-301
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    発達性読み書き障害を呈する学習障害児2症例の音読過程における眼球運動パタンを健常児群と比較した.刺激は症例が音読可能な文字を用いた.画面上に呈示した仮名有意味綴りと仮名無意味綴りの2条件で音読時の眼球運動を非接触型測定装置により記録した.その結果, 発達性読み書き障害2症例は健常群に比べて有意味綴りと無意味綴りの両条件で音読までの時間に有意な延長を認めた.眼球運動パタンにおいても2症例は健常群に比べて有意味, 無意味両条件で逆行と逐字的読みが有意に多く出現し, 有意味, 無意味条件間にも差を認めなかった.これは音読において複数の文字形態全体 (whole word) をとらえる処理が困難なことが要因と考えられた.
  • ―口蓋裂術後の鼻咽腔閉鎖不全症例との相違―
    野原 幹司, 舘村 卓, 和田 健
    2002 年 43 巻 3 号 p. 302-307
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    先行研究において, 口蓋裂術後の鼻咽腔閉鎖不全症例で認められた最強blowing時の口蓋帆挙筋の疲労が, 健常者でも認められるかどうか検討を行った.健常者5名を対象に, 先行研究と同じ10秒以上の最強blowingを行わせ, blowing時の口腔内圧が安定した10秒間の口蓋帆挙筋筋電図をsampling rate 2000Hzで採取した.筋電図信号を0.5秒ごとに区切り, 各0.5秒ごとのMPFを求め, blowingの経過時間に伴いMPFが低下するかどうかを検討した.その結果, 最強blowingの経過時間に対するMPFの回帰直線の傾きは, 5被験者中1名で正の傾きを, 4名で負の値を示したものの, 全被験者で有意性が認められなかった.このことから, 健常者の口蓋帆挙筋は, 1回の最強blowingでは疲労しない可能性が示唆された.また, 本研究と先行研究の結果とを併せて考えると, 口蓋裂術後の鼻咽腔閉鎖不全症例の口蓋帆挙筋は, 健常者と比べて, 疲労しやすい可能性が考えられた.
  • ―状況絵を用いて―
    斉藤 佐和子
    2002 年 43 巻 3 号 p. 308-315
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    健常幼児 (3歳6ヵ月~6歳11ヵ月) の, 談話における構文能力と内容説明能力の発達のデータを得る目的で, 絵の状況説明による検査を行った.3種の図版 (1) 1枚の状況絵 (2) 順接配列絵 (3) 逆接配列絵を用いて説明をさせ, 引き出した表出を分析した.その結果最も年齢差を引き出せた逆接配列絵で, 表出の長さを示す自立語数は2~5を示し, 年齢が1歳上昇することに数値が1ポイント上昇した.またすべての図版で, 4歳後半で各自立語に一つの文法形態素を付加することが獲得されていた.文法形態素の誤りが6歳前半群を除く各年齢に見られたが, 誤った子どもは全体の14%にすぎなかった.しかし接続の表現は逆接の内容であっても順接の文法形態素を使用する傾向があった.内容を説明するキーワードを過不足なく表出することは, 6歳台になると逆接配列絵で65%の子どもに可能になった.検査の図版によって結果に差が見られ, どのような図版を用いるかを検討する必要があることが示唆された.
  • 阿部 雅子
    2002 年 43 巻 3 号 p. 316-324
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    構音障害の実態を知るために, 1991年から2000年までの10年間に東大病院耳鼻咽喉科言語外来を受診した構音障害症例について検討した.その結果, 異常構音がかなり認められた.また, 診断されて治療が行われるまでに多くの施設をまわっており, 診断治療の困難さが明らかになったので, 異常構音の診断と治療について解説した.
  • 柏木 敏宏
    2002 年 43 巻 3 号 p. 325-326
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
  • 熊倉 勇美
    2002 年 43 巻 3 号 p. 327-330
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    わが国における頭頸部癌術後の構音障害とそのリハビリテーションに関するいくつかの研究を取り上げ紹介した.次に, これらの構音障害の特徴と言語聴覚士が行う訓練の目的, 方法などについて述べた.また頭頸部癌術後の構音の改善, つまり可塑性については, 以下の3点から説明できると考え解説を行った.1) 適切な再建手術によって欠損部が可及的に充填され, 健側舌の可動性が妨げられることなく, また, 外科治療や放射線治療後の発語器官の腫脹, 運動麻痺, 感覚障害などが軽減し, 構音に必要な可動性, 力, スピードなどを獲得すること.2) 発語器官の欠損, 変形, 瘢痕拘縮が残存するなかで, 一定の患者の知的能力や意欲をもとに, 新しい構音操作 (代償性構音など) やコミュニケーションの方法を学習すること.3) 必要に応じて, 舌接触補助床などの補綴治療が効果的に用いられること.
  • 白坂 康俊
    2002 年 43 巻 3 号 p. 331-335
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    運動障害性構音障害の機能回復において, 最も重要な要因の一つは, 発現機序の正確な特定である.しかし, これまでのような, 聴覚印象的な評価と各発声発語器官の粗大運動レベルの機能評価を結びつける方法では十分に特定できるとはいいがたく, また具体的な訓練プログラムも立てにくかった.
    今回, 日本語の各音素を実現するために必要な構音動作的要素を抽出し, この要素ごとに運動機能低下を評価する, いわば調音音声学的評価方法を提唱した.同時に, この評価方法で, 構音動作的レベルと各発声発語器官の粗大運動レベルの運動機能低下の関連性を評価できることも示した.
    さらに, 構音動作的要素の問題点に対し, 運動障害性構音障害のタイプ別の特徴に配慮した訓練アプローチ, いわば運動学的アプローチを適用することの重要性を提言した.
  • 小嶋 知幸
    2002 年 43 巻 3 号 p. 336-343
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    「成年期の言語障害と可塑性」というテーマに関して, 本稿では筆者が失語症の臨床のなかで積み上げてきた知見について概説した.その際, 可塑性というキーワードに対して, 個体内における可塑性と, 個体間における可塑性という2つの視点を設定した.個体内における可塑性という視点からは, 右利き左半球損傷失語例における, 病巣と障害される言語情報処理過程との対応および, 機能回復について論じた.一方, 個体問における可塑性という視点からは, 言語機能を中心とする高次脳機能の大脳側性の個人差について論じた.ここでは交叉性失語および交叉性非失語のほか, 言語機能のなかで特定の下位機能だけが独立して一側の半球に側性化する現象を取り上げ, 利き手の要因を交えて報告した.また, このような言語機能の変則的な側性化を示すケースでは, 行為, 方向性の注意, 視空間認知・構成など, 非言語機能の側性化についても着目することが重要であると述べた.
  • ―発話にかかわるパラリンギスティックな要因について―
    都筑 澄夫
    2002 年 43 巻 3 号 p. 344-349
    発行日: 2002/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    われわれは, 成人の吃音には発話にかかわるパラリンギスティックな要因である幼児期からのエピソード記憶に対する情動系の負の働きが関与していると考えている.進展段階第4層の吃音者39人 (12~68歳) を系統的脱感作を組み込んだメンタルリハーサルで治療した結果から, 記憶に対する情動反応の可塑性について検討した.場面への恐れと発話の状態について7段階の評価尺度を設け, 吃音者が自分で評価した.結果は全症例の36%が日常生活で吃音に煩わされないレベルまで改善したとともに, 吃音者意識がなくなった.38%の症例は改善したが恐れと発話症状の消失にはいたらなかった.そして26%の症例は改善しなかった.治療結果からエピソード記憶に対する負の情動反応の減少が吃音の改善に関係していること, および従来成人の吃音は治らないとされてきたが, 成人の発達性吃音であっても日常生活場面にて吃音に煩わされないレベルまで, 一定の割合で改善できることが示された.
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