音声言語医学
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45 巻, 4 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 野口 由貴, 小澤 由嗣, 山崎 和子, 今泉 敏
    2004 年 45 巻 4 号 p. 269-275
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    対人コミュニケーションに問題をもつ児の早期発見に役立つ検査手法を開発するため, 小学生, 中学生, 成人, 計339名 (男性173名, 女性166名) を対象に, 話し言葉から相手の心を理解する能力を調べた.言語属性として辞書的意味が肯定的な短文と否定的な短文を, 感情属性として肯定的な感情と否定的な感情をもって, 女性1名が話した短文音声を刺激として, 言語課題では言語属性を, 感情課題では感情属性を判断した.その結果, 言語属性と感情属性とが一致しない皮肉音声やからかい音声に対して, 話者の発話意図つまり心を理解する能力が小学生から中学生にかけて上昇し発達するものの, 中学生になってもなお成人の能力には達しないことがわかった.この結果は, 言語属性と感情属性とを適正に分離・統合して話者の発話意図を理解する能力が, 誤信念課題などによる心の理論テストで予測される能力よりも遅く成熟するものであることを示唆する.
  • 濱村 真理, 小野 高裕, 野首 孝祠, 本田 公亮
    2004 年 45 巻 4 号 p. 276-282
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    重度の鼻咽腔閉鎖不全症を伴う慢性期dysarthria例に, 舌接触補助床を付与した軟口蓋挙上装置を適用した後に行動変容的治療を行った.発話機能への要求が増す連続的発話において鼻漏出が増悪することにより, 発話速度と声量の亢進等の代償的不適応行動および二次的機能低下が生じ, 明瞭性が低下していた.補綴的治療により単語の明瞭度は58%から79%に改善した.続いてSee-scapeを用いた鼻漏出のバイオフィードバック訓練を通じ代償的不適応行動は抑制され, 鼻咽腔閉鎖能力も改善したため, 自由会話の明瞭度は9段階中2段階改善した.鼻咽腔閉鎖不全症は連続的発話の生成過程に複合的な低下を生じうることから, まず補綴的治療等の必要性を検討すべきであることが示唆された.また, 鼻咽腔閉鎖不全症の代償として生じている努力性の発話行動を抑制するには, See-scapeによるフィードバックが有益となりうることが考えられた.
  • 石原 保志
    2004 年 45 巻 4 号 p. 283-289
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    発話指導の一環として構音指導を行った青年期聴覚障害者の発話明瞭度の変化を検証した.指導を受けた5名の聴覚障害学生の指導前後の単音節の発話明瞭度および日常生活文リストを刺激文とした文の発話明瞭度を評価した.この結果, 対象者のうち4名について, 文の発話明瞭度が指導前と比較して向上していることが明らかにされ, 青年期においても構音指導を通して発話の明瞭度向上の可能性があることが示された.また指導前後の単音節の発話明瞭度と文の発話明瞭度との間には相関が認められ, 単音節レベルの構音の改善が発話明瞭度の向上に寄与したことが推測された.一方, 文の発話明瞭度に関して, 聴覚障害者との対話に慣れた者の評価はそうでない者の評価を上回っていた.このことから, 現実のコミュニケーション場面への指導効果の反映の有無や程度は, 対話する相手の属性により異なるであろうことが推察された.
  • —Laryngeal Function in Speech—
    Anders Löfqvist
    2004 年 45 巻 4 号 p. 290-291
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
  • 河村 満
    2004 年 45 巻 4 号 p. 292
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
  • ―文献学的考察から症例に基づく考察へ―
    小嶋 知幸
    2004 年 45 巻 4 号 p. 293-299
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    シンポジウムの主題である発語失行に関して, 本稿では用語・症候・訓練をめぐる諸問題について, 筆者の臨床的知見に基づいて論じた.まず, 本症候を“失行”のなかに位置づける根拠としてDarleyらが挙げている (1) 音の誤りの非一貫性, (2) 随意運動/自動運動の乖離の2点について検証し, 本症候を“失行”の範疇で捕らえることの問題点について述べた.次に, 構音 (発話) 動作の拙劣を本態とする本症候の音の誤りを分類する際に, 音韻レベルの誤りにも用いられている「置換」という同一の用語を用いることの問題点について論じた.最後に, 本症候への訓練に関して, Squareらのトップダウン・マクロ構造アプローチとボトムアップミクロ構造アプローチという分類を参照しつつ, 筆者の考える訓練の基本的コンセプトについて論じた.
  • 鈴木 匡子
    2004 年 45 巻 4 号 p. 300-303
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    発語失行の責任病巣については長年議論されてきたが, どの部位が最も重要かに関しては異論も多い.これまで報告された左半球病巣による純粋発語失行例21例をまとめると, 1例を除き全例で中心前回下部が病巣に含まれていた.一方, 失語症で発語失行の要素を含む症例の検討では島前部を重視する報告が出された.われわれは, 言語優位半球病巣をもつ症例において構音を含む言語機能および行為について検討した.また, 脳腫瘍例においては皮質電気刺激による術中言語マッピングを施行した.その結果, 発語失行の責任病巣としては言語優位半球中心前回下部が最も重要で, 島前部は必須の領域ではないことが示された.術中マッピングでは, 中心前回下部は口舌の運動野やnegative motor areaと同定される例が多かった.以上より, 言語優位半球中心前回下部は高次の運動コントロールに密接に関係しつつ, “言語野”として働いていると推定された.
  • 日向 礼子
    2004 年 45 巻 4 号 p. 304-308
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    発声失行という用語は発語失行と比べると, 確立された概念とはいいがたく, その報告数も少ない.左MCA領域の脳梗塞により発声障害, 発語失行, 失語症を呈した症例を提示し発声失行について検討した.本例は咳払いや笑うときには有響成分が見られた一方で, ささやき声を呈した発声障害が8ヵ月以上持続し, 構音レベルの失行症状の改善と解離していた.鼻咽腔内視鏡検査にて, 発声時の声帯運動は一貫性に乏しく声帯が全く内転しないときや不自然な声門閉鎖が見られるときがあった.有声が見られるようになってからも一定しなかった.さらに発声時以外の意図的な咳払いや深呼吸時にも呼吸と声帯運動のタイミングのずれが観察された.声帯運動時の非一貫性や意図性と自動性の解離が明らかであり, 本例の発声障害は失行症状の一つとして捉えられ, 声帯運動コントロールの高次中枢が障害されたものと考えられた.
  • ―その症候と病院における発語失行との関連―
    中島 雅士
    2004 年 45 巻 4 号 p. 309-314
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    偽性球麻痺とは皮質-橋・延髄路の病変によって顔面, 下顎, 咽頭, 喉頭, 舌に生じる両側性の麻痺である.そのなかでも中心前回運動野皮質・皮質下の血管性病変に起因する「皮質型」偽性球麻痺は, その原著論文の著者の名を冠してFoix-Chavany-Marie症候群, あるいはその病変局在から前部弁蓋部症候群と呼ばれる.臨床症状の中核は失構音 (anarthria) と自動運動・随意運動解離を示す上記部位の麻痺であり, この症候と病変局在において発語失行 (apraxia of speech) との間に密接な関わりをもつ.前部弁蓋部症候群は血管性病変以外にも脳感染症, 発達異常, てんかん, 神経変性によって生じる.神経変性によって中・高年に発症する進行性の皮質型偽性球麻痺はfrontotemporal lobar degenerationの一亜型と考えられる.
  • 河村 満
    2004 年 45 巻 4 号 p. 315-320
    発行日: 2004/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    原発性進行性失語 (primary progressive aphasia: PPA) は, Mesulam (1982) によって提唱された概念で最初緩徐進行性失語 (slowly progressive aphasia: SPA) と呼ばれた.原著は, 知的障害や行動異常を随伴せず, 緩徐に進行する失語を呈した6例の右利き症例の呈示である.ほとんどの症例が初老期に発症し, 責任病巣は左Sylvius裂周辺領域であり, 病理像はAlzheimer型痴呆と異なるとされている.その後PPA・SPA例として報告された症例の数は莫大であり, 本邦にもいくつかの総説がある (河村満: 緩徐進行性失語症―最近の概念.神経内科 (1999) 51: 209-214など参照) .
    PPA報告例の失語症型には失語症古典分類のすべてのタイプが存在する一方, 古典分類に相当しない非定型例も多い.また, 流暢型では健忘失語が全報告例の半数を占め, Wernicke失語で発症することはほとんどない.さらに, 最近ではPPAの症候上の特徴として発話の非流暢性が取り上げられることが多い.
    発話障害で発症するPPAには3つのタイプがある.第1は非流暢性失語で始まり, 第2は構音障害で始まり, そして3番目に発語失行で発症するタイプである.後者の2つ病態の把握と鑑別が特に重要である.
    発語失行で発症するタイプは43例の報告がある.このタイプでの発症年齢は60歳ぐらいで男女差はなく, 発症から初診または入院までの期間は数ヵ月から10年.症状は当初, 孤立性の典型的発語失行であり, 徐々に構音障害に進行する場合と, 失語さらに痴呆に進む場合とがある.
    剖検・生検例は8例あり, 内訳は, Alzheimer型痴呆が1例, Pick病 (自験例) , CBDが2例ずつで, その他, 非特異的変性が3例で, 非特異的変性の3例はいずれも皮質表層 (I~III層) の海綿状変化であり, heterogeniousである.しかし今後, 症候の進行の様式についての詳細な検討と剖検結果との対比がなされれば背景病態の詳細が明らかになる可能性がある.
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