無喉頭音声の1つである食道発声の明瞭度が下がる要因およびそれらの関与する相互関係を検討するために, 食道発声者9名の音声を録音し, 定量的方法と聴覚印象から分析を行った.
9名の話者の音節, 単語, 文章, 会話を録音し, 15名の大学生に聴取させ, 発話明瞭度を測定した.その結果, 音節明瞭度の高い話者と低い話者とでは, 音の異聴傾向と発声持続時間が異なっていた.明瞭度の高い話者では構音の異聴傾向が一定していることおよび発声持続時間が長いという結果が得られた.
食道発声の明瞭度低下には複数の要因が関与していると考えられるが, 先行研究では, 主な原因として, 「1回に取り込む空気の量が少ないために, 句ではない箇所で発話が途切れる」, 「十分な音圧を確保できない」, 「周期が動揺するため雑音が多い粗い声になる」, 「構音に困難な音がある」ことが指摘されている.本研究では, それらに加えて, 「異聴傾向が一定しないため目標音の予想がつきにくい」, 「発声持続時間を最大に使って発話するため語尾が不明瞭になる」
ことが示唆された.
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