音声言語医学
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56 巻, 3 号
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総説
  • 今泉 光雅, 大森 孝一
    2015 年 56 巻 3 号 p. 209-212
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/31
    ジャーナル フリー
    外傷や炎症,術後に形成される声帯瘢痕は治療困難な疾患である.その治療は,動物実験や臨床応用を含めて,ステロイド薬や成長因子の注入,種々の細胞や物質の移植などにより試みられているが,現在まで決定的な治療法がないのが実情である.2006年,山中らによってマウス人工多能性幹細胞(iPS細胞)が報告された.2007年,山中らとウイスコンシン大学のDr. James Thomsonらは同時にヒトiPS細胞を報告した.iPS細胞は多分化能を有し,かつ自己由来の細胞を利用できるため声帯組織再生の細胞ソースの一つになりうると考えられる.本稿では,幹細胞を用いた声帯の組織再生について述べるとともに,ヒトiPS細胞を,in vitroにおいて声帯の上皮細胞に分化誘導し,声帯上皮組織再生を行った研究を紹介する.
  • ―人工内耳と再生医療―
    山本 典生, 伊藤 壽一
    2015 年 56 巻 3 号 p. 213-218
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/31
    ジャーナル フリー
    人工内耳は「最も成功した人工感覚器」とされているが,蝸牛神経を刺激することにより聴覚を再獲得させるので,その効果を十分に享受するためには,ある程度蝸牛神経が残存している必要がある.また,近年人工内耳の適応が低音に残聴のある症例にも拡大され,その効果を十分に得るためには残存している有毛細胞をできるだけ障害せず,また障害した場合でも回復させる方法の重要性が増している.
    これらの人工内耳の限界を取り払い適応拡大の効果をより高めるため,従来哺乳類では再生することがないといわれていた蝸牛神経あるいは内耳有毛細胞を再生または保護することが必要である.増殖因子や幹細胞といった再生医療技術を用いてこれらが可能であることがさまざまな動物実験から示されており,増殖因子であるIGF-1は臨床試験によって突発性難聴に対する効果が示された.今後はこれらの研究結果を新しい人工内耳医療に応用する方法を開発することが望まれる.
  • 松永 達雄
    2015 年 56 巻 3 号 p. 219-225
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/31
    ジャーナル フリー
    本稿では先天性難聴の遺伝子変異の研究と診療の最新の動向を概説しつつ,私たちの取り組みについて紹介する.先天性難聴児の約70%は遺伝子変異が原因であり,各難聴児で原因遺伝子を確定して臨床的特徴を予測できると診断や治療に役立つ.聴力検査で正確な聴覚情報を得ることが容易でない乳幼児では特に意義が高く,国内では先天性難聴の遺伝子検査が保険適応である.遺伝子情報は重要な個人情報であるため慎重な取り扱いが必要であり,遺伝子診療は難聴診療のなかに適正に位置づけられて実施する必要がある.難聴の遺伝的原因はきわめて多様なため,適正な検査が必要である.新たな検査技術として次世代シークエンサーが開発されて高い効果が報告されている.遺伝子診療にはまだ多くの解決すべき課題があり,これに対する取り組みが進んでいる.遺伝性難聴の根本治療に向けての新たな研究としてPendred症候群による難聴者からのiPS細胞を用いた創薬研究なども進んでいる.
原著
  • ―リズムの時間構造と強度アクセント,日常での音楽鑑賞時間を要因として―
    林田 真志
    2015 年 56 巻 3 号 p. 226-235
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/31
    ジャーナル フリー
    聴覚障害者と健聴者を対象として,リズムの時間構造と強度アクセント,日常での音楽鑑賞時間を変数としたリズム再生課題を実施した.連続する音刺激でリズムを構成し,隣接する音刺激間の時間間隔(inter-stimulus interval; ISI)の比を基に3タイプのリズムの再生を求めた結果,両対象者の再生率はISI比1:2のリズムで最も高く,1:3,1:2:3の順で低くなった.日常での音楽鑑賞時間を基に,聴覚障害者を鑑賞群と非鑑賞群に分けて分析した結果,ISI比1:3と1:2:3のリズムにおいて,鑑賞群のリズム再生率が非鑑賞群を上回った.また,強度アクセントの付与によって,特に非鑑賞群のリズム再生率が顕著に向上した.以上の結果から,聴覚障害の有無を問わずリズム再生の難易傾向は類似していること,音楽鑑賞時間や強度アクセントの付与がリズム再生に効果的な影響を及ぼすことが明らかになった.
症例
  • ―吃症状および心理面に改善が認められた成人吃音の1症例―
    小山内 筆子, 小山 智史
    2015 年 56 巻 3 号 p. 236-243
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/31
    ジャーナル フリー
    幼児期から吃音がある成人吃音1例を対象に,月1回の言語聴覚士による訓練と,合成音声を用いた在宅訓練を1年間行った.在宅訓練は,週3~4回,1回当たり30~40分で,在宅訓練の内容および発話速度は言語聴覚士が注意深く決定した.発話速度は段階的に4.6モーラ/秒→5.0モーラ/秒→5.4モーラ/秒とした.また,同時期に吃音の状態に関する心理面の評価を行った.その結果,吃症状と心理面に一定の改善が認められ,在宅訓練が言語聴覚士による訓練を補う重要な役割を果たしうることが示唆された.
  • 石毛 美代子, 大森 蕗恵, 二藤 隆春, 小林 武夫, 鈴木 雅明
    2015 年 56 巻 3 号 p. 244-249
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/31
    ジャーナル フリー
    発声発語器官に高度の過緊張を呈した難治性の変声障害の1症例(14歳男性)を報告した.咳払い,ハミング,声門破裂音といった音声治療手技のいずれによっても低い声が誘導できず,正常な地声を得るまでにKayser-Gutzmann法と舌の脱力を用いた5回の音声治療を要した.全12回,約4ヵ月間の音声治療により正常な低い声が安定し,声の基本周波数は治療前のF4(約350 Hz)から治療後はB2(約120 Hz)に低下した.音声治療後2年の経過観察時,正常音声は保たれていたが家庭で裏声を使う習慣が残存していた.
    一般に変声障害では数回の音声治療のみで容易に適正な声の低音化が得られ,その効果は永続的に保たれる.しかし少数ではあるが難治性の変声障害があり比較的長期(4~6ヵ月)のより積極的な音声治療と長期的(1~2年)経過観察とが必要であると考えられた.
  • 柳 有紀子, 石川 幸伸, 中村 一博, 駒澤 大吾, 渡邊 雄介
    2015 年 56 巻 3 号 p. 250-256
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/31
    ジャーナル フリー
    女性から男性型の性同一性障害症例における,男性ホルモン投与前後の音声の経時的変化を追跡した.追跡は話声位,声域,声の使用感の聴取およびVHIにて投与前から143日間行った.投与前の話声位は187 Hzで,投与143日後に108 Hzとなった.声域は,投与48日後に一時的に拡大し,その後縮小した. 声の使用感の聴取では,投与48日後に会話時の翻転の訴えがあり,投与143日後に歌唱時の裏声の発声困難と会話時の緊張感も聞かれた.VHIは感情的側面で改善し,身体的側面で悪化した.本症例のホルモン療法の効果は話声位の低下であり,一時的に声域も拡大した.一方で翻転や裏声の発声困難,会話時の緊張感の訴えが聞かれ,声域も最終的に縮小した.本症例の各症状は,甲状披裂筋筋線維の肥大化による話声位の低下と,喉頭の器質的変化による喉頭筋群の調節障害であると推測された.これらの症状を予防するために,ホルモン投与の際には音声の変化を観察しながら投与量や投与期間の再考が必要である可能性が考えられた.
短報
  • ―いつまでもおいしく食事をとるために―
    田中(西窪) 加緒里
    2015 年 56 巻 3 号 p. 257-261
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/31
    ジャーナル フリー
    わが国においては超高齢化社会が年々進んでおり,嚥下障害は社会的にも大きな問題になっている.嚥下障害が発症すると,体重減少,免疫能・治癒能低下,生きる意欲の低下などの老年症候群が進行してさらに嚥下機能が低下するという悪循環に陥ることも少なくない.本稿では加齢による嚥下機能変化について,咽喉頭の局所性変化および代表的な全身性変化からの影響について述べた.特に咽頭期では,嚥下反射惹起の遅延,嚥下運動量の変化,食道入口部開大制限が生じる.これらの予防法としては,感覚刺激を目的とした薬物療法や嚥下関連器官の機能訓練が有用と考えられる.
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