高齢化社会となり補聴器が必要となる難聴者数が増加し,それに伴い補聴器に対するニーズも増加している.欧米では資格を有した専門職が中心となり補聴器医療が行われているが,日本の現状は必ずしもそうではない.補聴器に関する実態調査の結果では補聴器に満足している装用者は4割程度と欧米と比較して半分程度である.より良い聴こえを装用者に提供するためには知識,技術を有した耳鼻咽喉科医,言語聴覚士の関与が望まれる.実際に両者が協力し補聴外来を行っている当院でフィッティングした症例について評価を行うと,欧米の結果と等しい約8割の装用者が補聴器に対して満足していた.これまでに報告されている医療機関で行われているフィッティングの結果についても同等であり,高い満足度を得るためには,資格を有した専門職が協力し,質の高い補聴器医療を提供していくことの重要性が示された.
日本語を母語とする2歳前後の幼児を対象とした構文発達に関する総合的な研究は少なく,その過程は明らかとなっていない.本研究の対象は,継続的な観察に同意を得ることのできた女児3名である.観察期間は2歳0ヵ月〜2歳6ヵ月までであり,母子相互作用のなかでの助詞の使用頻度を縦断的に観察し,個人差や共通性について比較検討した.3名ともに2歳0ヵ月にはすでにいくつかの助詞の出現が見られた.観察期間中に3名が獲得した助詞は,終助詞,格助詞,接続助詞,係助詞とさまざまであった.係助詞「は」「も」は早期に獲得されたが,格助詞「が」は他の助詞よりも数ヵ月遅れた.また,個人差も大きく,2語文が遅かった児はその後の観察においても助詞の数量や種類ともに少なく,緩やかな発達であった.自然発話場面での2歳以降の助詞の種類や使用頻度の観察は,その後の構文発達において重要な指標となりうると考えられた.
知的発達症をもつ事例の就学前の表出語彙獲得と表出語彙カテゴリーの構築について,子どもの家庭での認知や遊びの発達との関連に関する資料はほとんどない.本研究では,知的発達症をもつ就学前の10事例の表出語彙200語を超えるまでのフェーズにおける養育者への調査による「日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙・語と文法:CDI」の表出語彙の結果と家庭での認知・遊びの発達の様相との関連性を検討した.その結果,家庭での認知・遊びの発達は,事例によって出現していたが,出現しなくなるものがあり,家庭での認知・遊びの発達は漸進的で不安定さが見られた.CDIにおける語彙カテゴリーの増加は,表出語彙数の増加と対応し,50語のフェーズから動作語などの新たなカテゴリーが出現した.表出語彙100語のフェーズでは,家庭での認知・遊びの発達における子どもの強みが反映されて,表出語彙カテゴリーの広がりに個人差が見られ始めることが示唆された.
医療従事者に対してマスク着用に対する音声疲労について検討した.対象は松山リハビリテーション病院に勤務し,アンケートに回答した459名(男性100名,女性359名)とした.検討項目はアンケート(マスク着用時間・声の使用時間,喉の症状,疲労感・ストレス感),VFI(Vocal Fatigue Index),VHI-10とした.アンケートでは「息苦しさ」が271人(80.8%)と多く,喉の症状は「疲労感」が82人(17.9%)と少なかった.VFIでは女性,50代,介護職が高い値を示し,Factor別ではFactor R(休息による回復)の値が高かった.VFIでのカットオフ値以上は24.6%であった.VHI-10では男性,70代が高い値を示し,STは低かった.側面別では全体で機能的側面が高く,感情的側面は低かった.「疲労感」ありとなしではVFIスコアに有意差を認めた.
本研究の目的は,コミュニケーション態度を測定する質問紙S-24について,非吃音者におけるS-24の標準データを作成すること,および先行研究で報告されている吃音者と非吃音者の得点を収集することで,S-24による吃音評価の有用性を検討することである.20〜60代の非吃音者413名を対象に質問紙調査を行った結果,S-24の得点平均(標準偏差)は12.62(4.90)点であった.年齢群および性別による有意な得点の違いはなかった.また,高い内的一貫性および再検査法の一致率を示した.国内の先行研究の平均値を統合すると,吃音者の平均値(標準偏差)は17.57(4.62)点,非吃音者の平均値(標準偏差)は12.96(4.89)点であり,群間の効果量は大であった.これらより,S-24には高い信頼性に加えて構成概念妥当性を有しており,吃音の評価に有用であることが示唆された.