短文・文章音読課題は音声・言語障害の臨床においてよく使用され,近年では聴覚心理的検査のみならず音響分析による声質の検査の対象にもなっており有用である.しかし現在,国内には検査用の短文・文章が複数あり,標準的な音読課題についてのコンセンサスはいまだ得られていない.
本稿ではまず,文献,資料に基づいて現在,国内で臨床検査に用いられている複数の短文・文章を挙げた.さらに,このうち比較的よく用いられている文章「北風と太陽」および「ジャックと豆の木」,短文「やぶのなかからウサギがぴょこんとでてきました」について,テキスト,由来,作成の目的および対象,特徴などについて述べた.
以上に基づき,今後,臨床検査で用いるべき標準的な文章音読課題の開発に向けて検査プロトコルの統一を提案し「北風と太陽2022試案」を例示した.
【目的】頭頸部癌への化学放射線療法(chemoradiation therapy, CRT)に伴う嚥下障害に対する予防的リハビリテーションにおいて,行動変容手法を用いたハンドブックを導入し,患者アドヒアランスの向上度を検証した.
【方法】対象は,頭頸部癌に対するCRTを完遂した患者.ハンドブックを用いてトレーニングを行った患者を導入群,過去にハンドブックを用いずに行った患者を対照群とした.自主トレーニングの実施率が80%以上の患者を高アドヒアランスとした.
【結果】高アドヒアランスは導入群15名中4名(26.7%),対照群15名中7名(46.7%)で,両群に有意差はなかった.CRT終了時の口腔粘膜炎グレードは,導入群で有意に高かった.その他の因子は両群に差はなかった.
【結論】ハンドブックの導入により,患者アドヒアランスは向上しなかった.ただし,口腔粘膜炎等のトレーニングの阻害要因が重度な場合,ハンドブックは患者の意欲維持やトレーニング継続に寄与する可能性がある.
人工内耳装用者が,学生から社会人へとライフステージが変化する際には,その環境変化に戸惑う者は少なくない.本研究では,就労時の人工内耳装用者の支援に求められているものを明らかにするため,21名の学生と32名の就労者の人工内耳装用者を対象に質問紙調査を行った.コミュニケーション手段では,就労群は学生群と比べて音声口話のみをもちいる割合や手話よりも筆談を音声口話と併用する割合が有意に高かった.音環境は,就労群のほうが有意に常に騒音がある環境におかれている割合が多かった.このためか,就労群では職場でのコミュニケーションや人間関係,やりがいについての満足感が有意に低かった.コミュニケーション補助ツールの利用者は両群とも半分以下であったが,利用している場合の活用度は就労群でも高く,音環境の改善や難聴についての周知とともに,コミュニケーション補助ツールの認知度向上や開発を進める必要があると考えられた.
本研究では,小学4年生から中学3年生までの発達性読み書き障害児24名と典型発達児24名を対象に,ユニバーサルデザインデジタル教科書体(以下,UD書体)が音読や読解に与える影響を検討した.刺激は,音読課題(仮名非語,文章およびアルファベット)と文章読解課題で,書体はUD書体と教科書体の2種類を使用した.対象児に,2種類の書体で作成された音読課題と読解課題を実施した後,文字の読みやすさについて内観を聴取した.その結果,両群ともに音読課題における所要時間,誤読数,自己修正数と,読解課題の正答数に2書体間で有意差は認められなかった.主観的に,両群とも文字の可読性と読みの正確性についてUD書体を有意に選好したが,読みの流暢性についてUD書体は有意に選好されなかった.本研究の結果から,客観的評価と主観的評価は異なり,UD書体による正確性,流暢性および読解力に関する「読みやすさ」の指標は見出せなかった.
光電声門図(PGG)を用いて音声治療手技の起声に関する研究を行った.対象は健常成人18名(男性10名,女性8名)であった.検討項目は地声,硬起声,軟起声,SOVTE(ハミング,チューブ,リップトリル)の起声第1波〜第5波とした.PGGにて測定した波形より25%声門開放率(OQ)を抽出し,比較検討した.結果,音声治療手技における起声25%OQ値の男女差は認めなかった.起声時第1波での25%OQ値は硬起声で低く,軟起声で高かった.SOVTEの手技により,起声25%OQ値や起声第1〜5波の25%OQ値の推移は異なっており,起声パターンに違いがあると考えられた.症例に応じてSOVTEの手技を選択することで,さらなる音声改善が期待できる.
音声言語をコミュニケーション手段として使用したことがほとんどない青年期のろう者に約3年間,構音指導を行った.指導では,構音方法と構音点を図解・言語化しながら構音メカニズムと構音運動パターンの理解を促したうえで,聴覚フィードバックを視覚,触覚,筋運動感覚で代替し,また,即時に言語的フィードバックを行って表出された音の誤りを指摘し,正しい音に修正した.その結果,音節では50%台,単語は30%台,文章は20%台の発話明瞭度を獲得した.韻律的側面の獲得は困難であった.指導終了後の本人へのアンケート結果からは,親しい相手に対しては自己の音声を活用できる可能性が広がったこと,音声言語に関心をもち,日本手話だけがコミュニケーション手段ではないと再確認したこと,コミュニケーション手段が増え,日常接する人物と発話でコミュニケーションを行う機会が拡大したこと等がろう者の構音獲得の意義であると考えられた.