本研究の目的は,典型発達児(TD群)と発達性読み書き障害のある児童生徒(DD群)の漢字書取の反応潜時と書字所要時間を流暢性の指標とし,両群間比較からDD群の書字過程における困難の所在を詳細に調べること,および書取の流暢性と微細運動との関係を検討することである.TD群48名とDD群27名に漢字1文字書取課題と微細運動課題を行った結果,反応潜時はTD群が有意に短かった一方で,書字開始後の所要時間は両群間で有意差がなかった.また,TD群では書取流暢性と微細運動得点の間に有意な相関がなかったが,DD群では書字所要時間と微細運動得点の相関が有意傾向であった.結果から,DD群はTD群に比べて書字開始前の段階で長時間を要すること,および書字の困難の背景には微細運動能力の問題も併存している可能性があり評価の際に注意が必要であることが示唆された.
特異的言語障害(以下,SLI)の障害仮説の1つに音韻障害,特に音韻短期記憶障害説がある.しかし,海外では音韻障害を認めないSLIの報告も複数あることから,SLIの障害機序についてはいまだ明確になっていないと思われる.今回,音韻障害は認めないが,語彙力や文の理解などに問題のある日本語話者のSLI 1例を経験した.本症例は,非言語性知能は正常域と考えられたが,言語発達検査において得点の低い項目を認めた.音韻課題では,同学年生徒の平均内の成績を示した.本症例の言語発達の阻害要因として,語の意味を理解できないという言語性意味理解力の弱さがあるのではないかと考えられた.音韻障害を認めないSLI例の存在は,異型なタイプが混在しているSLIの現状を示していると思われた.
脳梗塞後に運動障害性構音障害があり,重度の開鼻声を呈した症例に対する構音訓練の経過について報告する.症例は20歳代の男性で,構音障害の主たる問題は開鼻声であった.初回評価時に仰臥位で開鼻声の軽減が観察されたため,姿勢と開鼻声の関係と軟口蓋−咽頭の距離,閉鎖の様相,鼻漏出の程度,開鼻声の程度に対する頭位および体幹の角度の関係の評価を行った.その結果,体幹の角度が仰臥位に近いほど鼻漏出が減少し,開鼻声が軽減することがわかった.そこで,開鼻声の軽減を主たる目的として姿勢を調整した構音訓練を行った.約2ヵ月で開鼻声が聴取されなくなり,鼻咽腔閉鎖機能評価の全項目の向上を認めた.姿勢を調整することによって頭頸部に掛かる重力の方向が変わり,鼻咽腔閉鎖機能が得られやすくなった条件での開鼻声のない発声を自己フィードバックでき,改善を自覚できたことや,発話運動時の鼻咽腔閉鎖運動に直接働き掛けたことが,開鼻声の軽減に有効であったことが示唆された.
当院では,「学校保健での音声言語障害の検診法」を使用して音声言語検査を行っており,最近8年間の機能性構音障害の有所見率などの知見が得られたので報告する.2016年から2023年の間に当院で担当した小学校の小学1年生1547名に対して音声言語検査を実施した.健診にて機能性構音障害と指摘されたのは205名(13.3%),そのなかで異常構音はすべて側音化構音であり135名(8.7%),発達途上に見られる構音の誤りは70名(4.5%)であった.学校健診で指摘された側音化構音は/ki/が最も多く119名(7.7%)であった.発達途上による構音の誤りを指摘されたのも/ki/が33名(2.1%)と最多であった.適切な時期に言語訓練を受ける機会を紹介できることは児童にとって有意義であると考えられる.