拡張型心筋症患者3症例の歯科治療のための全身管理を経験した。
症例1は16歳, 男性で, 糖原病による拡張型心筋症と軽度の精神発達遅滞がみられた。NYHA心機能分類2度と考えられ, 心電図では心房細動, 頻脈がみられ, 左室駆出率 (EF) 30~34%, 心胸郭比 (CTR) は63%であった。モニターと酸素投与を行ないながら, 4本の大臼歯のレジン充填を局所麻酔葉を用いずに無事行うことができた。
症例2は47歳, 女性で, 43歳時に動悸と下肢の浮腫を自覚し拡張型心筋症の診断を受けた。NYHA心機能分類3度と考えられ, 心電図では心房細動, 徐脈がみられ, 心室性期外収縮が17000回/日認められた。EFは50%, CTRは57%であった。9カ月間に13回の歯科処置を行った。モニター, 酸素投与, 抗菌葉の予防投与などを行ない, 救急薬の投薬を必要とすることなく処置を終了した。
症例3は41歳, 女性で, 22歳時第1子出産後, 拡張型心筋症の診断を受けた。NYHA心機能分類2度と考えられ, 心電図では頻脈, 散発性の心室性期外収縮, V
4~6でSTの軽度の低下を認め, EFは18%, CTRは54%であった。5カ月前に口腔外科で, 抗菌葉の予防投与を行なわずに, 1/8万エピネフリン添加2%リドカイン5.4mlを用いて, 〓8〓8を抜歯していたが, 幸運にも経過に問題は無かった。今回, 2回目の感染根管治療中に, 心室性期外収縮が頻発したために, リドカインを静脈内投与した。3回目の処置の前に心不全が増悪し, 治療は中断した。
今回の処置にあたり, 内科担当医と十分に話し合い, 全身状態について評価し, 歯科医と歯科処置について検討した。処置中は心電図, 血圧, Spo
2のモニターを行なった。静脈路を確保し, リドカインを含む救急薬の準備をした。必要に応じて予防的抗菌薬の予防投与を行なった。このような対策が処置を無事行なえた結果に寄与していると思われる。拡張型心筋症の患者の歯科治療には注意深い配慮が必要である。
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