皮膚糸状菌,とくに好人性菌はヒトにおいては,病変部に寄生するのみでなく,非病変部にも存在し,環境中に散布され,環境中で生息し,新たな宿主に付着し,発病することを繰り返している.このサイクルを基に本邦で行われた研究をまとめると(1)
Microsporum canis感染症では患者や家族の病巣のない頭髪あるいは皮膚から高率に菌が検出されるが,経過をみると自然に消失することが多く,さらに洗髪により菌量が減少することより,多くの例では単に付着しているにすぎないのではないかと考えられる.(2)好人性菌もかなり高率に病変のない部位から検出されるが,好獣性菌とは異なり,長期間持続して存在することが多い.(3)Foot-press法やセロファン粘着テープ法により足白癬患者から環境中へ菌が散布されていることが確認され,その頻度は病型,症状により多少異なるが,
T.rubrumと
T.mentagrophytesでは差はない.(4)環境中の物,掃除機塵埃から皮膚糸状菌が分離されたが,一般的に
T.rubrumの分離率は
T.mentagrophytesより低い.しかしながら培養方法,培地の改良により分離率は上昇しており,同じ様に環境中に存在していると考えられる.以上他の菌が主に環境中に存在し,ヒトに寄生し病原性を生じるのに対し,皮膚糸状菌のとくに好人性菌は環境中にも生息しているが,主な生存場所はヒトの病変部および非病変部であり,環境中の菌は他のヒトに付着,寄生するための感染経路として重要である.
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