日本医真菌学会雑誌
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38 巻, 4 号
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  • 堀内 裕之, 高木 正道
    1997 年 38 巻 4 号 p. 267-271
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    細胞壁の主要構成成分がキチンとキトサンから成る接合菌類に属する糸状菌Rhizopus oligosporusより3種のキチン合成酵素遺伝子(chs 1,chs 2,chs 3)を単離しその発現調節を検討した結果,chs 1chs 2は菌糸生長にchs 3は胞子形成に関与していることが示唆された.また細胞壁の主要構成成分がキチンとグルカンより成る子嚢菌類に属する糸状菌Aspergillus nidulansより4種のキチン合成酵素遺伝子(chs A,chs B,chs C,chs D)を単離しその各種一重,二重遺伝子破壊株を作製し検討したところ,chs Bは主に菌糸生長に,chs A,chs C,chs Dは主に分生子形成に関わることが推定された.
    一方,R.oligosporusの培養上清より2種のキチナーゼ(I,II)を精製し,その遺伝子(chi 1,chi 2)を単離した.このキチナーゼはSaccharomyces cerevisiaeより単離されているキチナーゼと類似のドメイン構造を持つ菌類型キチナーゼであったが,そのC末端にS.cerevisiaeのものには存在しないプロ配列をもつことが明らかになった.また,活発に生長している菌糸からキチナーゼIIIを精製し,その遺伝子(chi 3)をも単離したところこれは細菌型のキチナーゼであった.A.nidulansからも菌類型,細菌型のキチナーゼ遺伝子(chi A,chi B)を単離しその遺伝子破壊株を作製したところ,chi A破壊株では菌糸の発芽,生長に遅れが見られた.
  • 村山 〓明, 山口 英世
    1997 年 38 巻 4 号 p. 273-278
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    カンジダ症の主要起因菌となるCandida属菌種とくにC.albicansの病原因子に関しては広汎な研究がなされているが,その本体解明は未だ充分になされていない.一部の細菌における毒素のような単独で致死的に働く病原因子はCandida spp.では見出されておらず,病原性発現には幾つもの因子が複合的に関わっていると考えられる.そうした因子の中では,分泌性酸性プロテアーゼがC.albicansその他のカンジダ症起因菌種の病原性を支配する最も有力な候補の一つとしてあげられている.
    本稿では,われわれがクローニングしたC.albicansの分泌性酸性プロテアーゼ遺伝子の構造と発現,ならびに産生酵素の病原因子としての生物学的特性を述べた.またこれと併せて,現在までに報告のあるC.albicans,C.tropicalis,およびC.parapsilosisの本酵素の遺伝子のDNA塩基配列およびアミノ酸配列などについても比較解析し,考察を行った.
  • 中川 善之
    1997 年 38 巻 4 号 p. 279-283
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    Candida albicansで頻繁に観察される染色体サイズの多型現象の研究が発端となって,反復配列RPSが発見された.RPSはゲノム内に60-80コピー存在し,いくつかの染色体では複数のRPSが直列に配置している.多数のRPSをゲノムDNAよりクローン化し,塩基配列を決定したところ,多くの興味ある事実が得られた.RPSには172bpからなる内部反復配列altが存在し,この配列の繰り返しの多様性がRPSのサイズ,塩基配列の多様性を生み出していることが明らかになった.RPSの解析を進める過程で,RPSに隣接した領域が,RPS同様に各染色体に存在していることがわかってきた.ノーザン分析の結果より,この領域がRNAに転写されていることがわかった.そこで,cDNAライブラリよりクローン化して配列決定を行ったところ,機能すると予想されるORFが存在しなかったことから,この領域がRNA分子として働いていることが想像された.最近になって,RPSに隣接する新規反復配列を発見し,これらの反復配列群がまとまって染色体の構成や機能に必須の役割を果たしていると考えている.C.albicansをめぐる以上のようなゲノム,遺伝子に関する情報は,インターネット上に蓄積され,研究者が共有できる情報としてますます充実しつつある.
  • 長 環, 浜高家 尚子, 廣田 健, 上西 秀則, 萩原 義郷, 渡辺 健治
    1997 年 38 巻 4 号 p. 285-290
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    Candida albicansの二形性発現のメカニズムを解明する目的で,規則正しい細胞周期を繰返しながら対数増殖を行っている酵母形発育菌から,germ tube形成を誘導する培地を2種類作製した.1つは,グルコース培地で,この培地で高いgerm tube形成率を得るには,対数期の菌を飢餓処理後用いなければならなかった.他方は,N-アセチルグルコサミン培地で,この場合には菌の前処理は必須ではなかった.この2種類の培地における飢餓処理と形態発現の関係を考察する上で,次のような仮説を立てた.飢餓処理のような増殖停止状態では,酵母形発育遺伝子は抑制される.更に,N-アセチルグルコサミン培地においても,一時的に同様の状況が出現する.以上の仮説を証明するために,増殖停止およびN-アセチルグルコサミン培地接種直後の菌に共通して出現するmRNAをDifferential Display法で検索したところ,電気泳動ゲル上に興味のあるバンドが数種得られた.現在これらのバンドのクローニングおよびシークエンスを行っている.
  • 中島 茂, 北島 康雄, 野澤 義則, Fariba Mirbod
    1997 年 38 巻 4 号 p. 291-295
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    細胞や組織の特異性を明らかにする方法として,発現しているmRNAの差異を解析することは,きわめて有用なアプローチである.しかし,従来のサブトラクション法に代表される解析法は,試料調製や手技的にさまざまな問題点があった.PCR法を応用してmRNA発現量の違いを解析する方法(Differential Display, DDやmRNA fingerprinting using arbitrarily primed PCR; RAP)は,その有用性のみならず,比較的簡便に行えることから,さまざまな領域で応用されている.本稿では,DD法の原理といくつかの問題点について解説するとともに,C.albicansの感染性因子の解析を目的として,感染力の異なるC.albicans株間で行った我々の実験例を紹介する.
  • 新見 昌一, 有沢 幹雄, Richard D. Cannon
    1997 年 38 巻 4 号 p. 297-302
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    日和見カンジダ症の予防あるいは治療の目的で,フルコナゾールなどアゾール系抗真菌剤の長期投与が行なわれているが,フルコナゾール耐性あるいはアゾール剤に交差耐性のCandida albicansが分離される報告が相次ぎ,臨床上重要な問題となっている.近年,ヒトの多剤耐性遺伝子MDR (Multidrug resistance)のコードするP糖タンパク質が抗癌剤を細胞内から細胞外に汲み出すポンプの役割を担っていることが分かり,このようなポンプによる薬剤排出が耐性獲得に寄与していることが認識されてきた.C.albicansにおいても薬剤排出遺伝子の存在が明らかになり,ポンプを介したアゾール剤耐性の仕組みの解明が始まっている.
    本稿では,C.albicansのフルコナゾールの取り込みと排出,薬剤排出遺伝子のクローニング,感受性株と耐性株の間の薬剤耐性遺伝子の発現の比較,ポンプ機能を担う遺伝子の導入によるアゾール剤感受性の変化などについてしらべた結果を紹介する.C.albicansの薬剤排出系はアゾール剤耐性に重要な役割を果していると考えられる.
  • 浅野 一弘, 田村 俊哉, 飯塚 一, 久保 等, 芝木 秀臣
    1997 年 38 巻 4 号 p. 303-310
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    旭川医科大学皮膚科外来における1990年1月から1995年12月までの6年間の(爪白癬を除く)白癬菌相を調査し,1977年から1989年までの13年間の当科の統計(前回)と比較検討した.今回6年間に当科を受診した白癬患者は738名(男435名,女303名)で,新患総数の7.8%に相当した.男女比は,約3:2で,年齢別では50歳代(23.4%)に最も多く認められた.また,月別症例数では,6月から8月に多かった.病型別では,足白癬が74.3%と最も多く,次いで,体部白癬15.4%,股部白癬4.3%,手白癬3.8%,頭部白癬1.4%がこれに続いた.ケルスス禿瘡は3例(0.4%),白癬性毛瘡は2例(0.3%),白癬性肉芽腫は1例(0.1%)に認められた.培養陽性率は,65.5%で,その内訳は,Trichophyton rubrum (TR) 64.5%, Trichophyton mentagrophytes (TM) 27.9%, Microsporum canis (MC) 4.8%, Trichophyton verrucosum (TVe) 2.6%, Epidermophyton floccosum (EF) 0.2%であった.これらのデータを前回の集計と比較した結果,
    1) 新患総数に対する白癬患者割合は,前回の6.1%に比べ7.8%と増加傾向を示した.
    2) 男女比,および月別症例数は,前回同様であった.
    3) 年齢別症例数では,前回の報告では,40歳代(21.2%)に最も多く認めたが,今回の統計では,50歳代(23.4%)にピークを認めた.また,50歳代以降の年齢層の割合も増加しており,患者層の高齢化がうかがえた.
    4) 病型別では,前回と比べ足白癬,体部白癬の若干の増加と,股部白癬,ケルスス禿瘡の減少を認めた.
    5) 培養陽性率は,前回49.5%であるのに対し,今回は65.5%と陽性率の上昇を認めた.
    6) 培養成績では,前回は,TR58.1%,TM33.1%,MC5.4%,EF1.8%,TVe1.2%,TVi(Trichophyton violaceum)0.4%でありTR,TVeの増加およびEFの減少,MCの若干の減少を認めた.
    7) 足白癬のTR/TM比は,前回の1.08から今回1.85と増加していた.
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