日本医真菌学会雑誌
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38 巻, 2 号
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  • 新井 正
    1997 年 38 巻 2 号 p. 135-140
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    Woeseが,原核生物の系統樹作製のための最終の分子時計として16Sリボソーム小サブユニットRNAの塩基配列解析の応用を提唱してより,今日迄に多くのTaxonにつき再編が行われてきた.リボソームRNAは機能的に極めて安定で,ウイルスを除いてすべての生物に存在し,大部分の系統発生学的関係を掌握し,逆転写酵素で直接迅速にシークエンスされるなど他の分子時計では得られない利点が確認された.これ以後原核生物の系統解析は著しく進歩した.
    Brunsは1992年この手法を真菌に応用し18SリボソームRNA塩基配列に基づく系統解析により,菌類系統群の大きな枠組みを具体的に示した.このような分子遺伝学的研究は真菌類が単系統であることを示し,これ迄永く採用されてきたAinsworth分類体系を根本的に再編することになるものである.さらに高等菌類の特性である有性生殖器官を形成するテレオモルフと,無性生殖器官を形成するアナモルフを一つの自然分類系に統合する可能性を示し,ホロモルフの概念も不要となる.したがって二元的分類体系による不完全菌の存在理由もなくなる.
    さらに種の同定のためには,これら核小サブユニットリボソームRNA遺伝子の可変領域,高度可変領域は,種間でその相違が顕著で,種内では相違が少ないので極めて好都合である.小サブユニットのデータベースは急速に増加しつつあるし,塩基配列解析は迅速に行うことができるから,有効な同定法になり得る.
    微生物の分類と同定はこれ迄比較形態学や比較生化学データを基に構築され,また命名は由来や病原性に基づくことも少なくなかった.これらは新しい分子遺伝学的系統分類とは殆ど無縁である.したがって過去の命名が新しい分類と矛盾,自家撞着をきたし「名は体を表さず」ということにもなりかねない.放線菌の形態学の面から,この問題の将来に向けての解決を希望した.
  • David A. Stevens
    1997 年 38 巻 2 号 p. 141-144
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    Development of antifungal therapy continues to be lively, as we strive to approach the ideal therapy. The newest agents include lipid delivery systems for amphotericin B, which promise relief from some of that drug's side effects. The triazoles, itraconazole and fluconazole, have proven their value as non-toxic and orally effective therapy. Newer members of this class, e. g., SCH 56592 and voriconazole, appear to be promising extensions. To date the triazoles' properties enable new strategies of prophylaxis and of early intervention. Areas needing improvement include treatment for newer fungal pathogens not covered by available therapy, and the need for rapid diagnostic capabilities, comparative clinical trials, and better definitions and scoring in trials. Drugs with new and fungal-specific targets may provide a quantum leap in our weaponry. Examples included drugs targeted at chitin synthase (e. g., nikkomycin Z) or beta glucan synthase (e. g., LY303366). Another approach is immunomodulation, and several cytokines can stimulate the host synergistically with conventional antifungal therapy.
  • 村山 尚子, 網谷 良一, 縄田 隆平, 河南 里江子, 久世 文幸
    1997 年 38 巻 2 号 p. 145-148
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    肺アスペルギルス症は,全身性の抵抗減弱患者のみならず肺や気道局所にのみ基礎疾患を有する患者においてもしばしばその発症を見るが,その病原性因子については未だ明らかにされていない.Aspergillus fumigatusに対する感染防御機構に関しては貪食球がその中心的役割を果たすことから,A.fumigatusから産生されるマイコトキシンであるgliotoxin, fumagillin, helvolic acidやAsp-hemolysinを用いて貪食球機能に対する影響を検討した.貪食球の機能としては,ヒト肺胞マクロファージ(AM)の分生子発芽抑制能,多核白血球(PMN)の遊走能,PMNのO2-放出能,PMNによる菌糸傷害を検討した.検討したマイコトキシンはこれらの貪食球機能を抑制したが,中でもgliotoxinが最もその効果が強く,次いでfumagillin≧helvolic acid>>Asp-hemolysinの順であった.生体局所においては,感染防御機構がアスペルギルスを排除しようと働く一方で,先行する病変部位を足場に侵入・定着したアスペルギルスがそこでその防御機能を障害する物質を産生し,病変を引き起こしている可能性が考えられた.
  • 病原因子としての意義と対策
    小川 賢二, 長谷川 洋一, 二改 俊章, 杉原 久義, 高木 健三
    1997 年 38 巻 2 号 p. 149-153
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    アスペルギルス属から産生される菌体外蛋白分解酵素が,病原因子の一つとして考えられており,その点につき,基礎的および臨床的観点からの検討を行った.肺アスペルギルス症患者の喀痰から分離したAspergillus fumigatusの液体培養を行い,その上清液中のエラスターゼを精製し,性状と性質を調べた.分子量は32,000,等電点9.1,至適温度37℃,至適pH8.0のセリンプロテアーゼであった.本酵素はエラスターゼ活性以外にも種々の水解活性を示し,中でもtype I~IVコラーゲンのすべてを水解した.さらに,マウスの肺胞および腹腔マクロファージの貪食能に及ぼす影響を調べたところ,両マクロファージ共,15μgまでの添加で,貪食能を完全に抑制した.次に,本酵素を経気管的にモルモット肺に注入し,その病理学的変化についての検討を行った.その結果,肺胞間質には好中球,リンパ球の浸潤,肺胞実質は赤血球とフィブリン様物質の浸出が認められ,出血性肺炎の像を呈した.次に臨床応用を目的とし,本酵素のエラスターゼ活性に対するウリナスタチンの阻害効果を検討したところ,濃度依存性に阻害することが分かった.そこで,慢性型の肺アスペルギルス症患者の症状増悪時に,抗真菌剤,止血剤併用下でウリナスタチンを投与したところ,約50%のケースで臨床症状め早期改善を認めた.副作用は全例認められなかった.
  • 蝦名 敬一, 熊谷 健, 福地 祐司, 横田 勝司
    1997 年 38 巻 2 号 p. 155-160
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    Asp-hemolysin(AH)は,ペンギン肺から分離したAspergillus fumigatus (A. fumigatus) Fresenius-村松(FM)株が産生する易熱性タンパク質毒素で,各種動物赤血球に対しin vitroにおいて溶血作用を有する.成熟AHは,AH cDNA塩基配列および精製AHのN末端アミノ酸配列から126個のアミノ酸より成ることが推定される.またAHは,A.fumigatusの実験的感染に際し感染促進効果を示し,感染病巣中に産生される.さらにAHはin vivoにおいて,マウス肝細胞・心筋細胞の壊死性変化を惹起し,同時に腎臓および脳の動脈壁中膜に局在する.一方,in vitroにおいてAHはヒト多核白血球およびモルモット腹腔マクロファージに細胞毒性を示す.またA.fumigatus臨床分離株16株中,12株にAHタンパク質の発現を,また,13株にAH mRNAの発現を認めた.以上の結果,A.fumigatus感染における病変の形成,さらには進展に病原性因子の一つとしてAsp-hemolysinが関与する可能性が示唆された.
  • 秋山 一男
    1997 年 38 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    真菌はハウスダスト,花粉とならんで気管支喘息,アレルギー性鼻炎等アレルギー疾患の主要な原因アレルゲンと考えられている.
    その中でもAspergillus属は気管支喘息のみならず,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA),過敏性肺臓炎等多彩なアレルギー性呼吸器疾患の原因アレルゲンとして知られている.屋外空中飛散真菌相においてはAspergillus属は最近減少する傾向にあるが,成人喘息患者における即時型皮内反応陽性頻度では,10%前後でほぼ一定しており真菌アレルゲンとしてはCandida属に続いている.最近の家屋構造の変化に伴い屋内家塵中の真菌相としてA.fumigatus以外にA.restrctusA.versicolor等もアレルゲンとして重要であり,これらを原因アレルゲンとした臨床例の発見が待たれる.ABPAの原因アレルゲンとしてはA.fumigatusが多いが,味噌・醤油醸造業関連のA.oryzaeによるABPAは職業病という一面もある.A.fumigatus由来の主要アレルゲンとしてmitogillin, MnSOD, PMPとの相同性タンパクが示されている.抗原分析においては今後は単にIgE抗体との反応の面からだけではなく,臨床病態との関連での重要なアレルゲンを解析することが必要であろう.
  • 倉島 篤行
    1997 年 38 巻 2 号 p. 167-174
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    一般的に言って,非侵襲性肺アスペルギローシスは,その経過の長さや自覚症の乏しさから非活動的であり,静的な病態として把握されている.このような見地から,近年,比較的急速に進展する病態に対して“Semi-Invasive Pulmonary Aspergillosis”や“Chronic Necrotizing Pulmonary Aspergillosis”等の新しい疾患呼称が定型的aspergillomaに対置する形で,提唱されてきた.
    しかし,これらの新たな疾患呼称は,不十分な定義から臨床現場に用語の混乱や不適切な適用をもたらしている.また,この定型的aspergillomaそのものの進展経過,成立過程も未だ十分に検討されているとは言えない.
    我々は,先行肺疾患の治癒過程から本症成立までの全経過を追跡できる41例の非侵襲性肺アスペルギローシスを対象に,その進展経過を画像的に解析した.本症の全経過は10stepに区分可能であり,そのstep毎の到達日数をプロットした.この結果は,本症は単純に一方向の進展を示すものではなく,増悪,寛解を繰り返しながら進展し,末期には感染性肺疾患としては異例なほど広範囲,破壊性の病態を示し致死的な疾患である事を示した.本症進展の経過には,ダイナミックな過程が内包されており,“Semi-Invasive”typeという独立した病型提唱は本症の病態把握に混乱を招くと考えられた.現行の抗真菌剤では既にfungus ball形成に至ってからでは不十分な効果しかなく,本症治療では早期診断,早期治療の重要性が確認された.
  • Study of Pulmonary Lesions of 54 Autopsies and the Relationship Between Neutrophilic Response and Histologic Features of Lesions in Experimental Aspergillosis
    Kazutoshi Shibuya, Tsunehiro Ando, Megumi Wakayama, Masayoshi Takaoka, ...
    1997 年 38 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    In addition to a histological study on experimental pulmonary aspergillosis in rats, pulmonary lesions from 54 autopsies of invasive pulmonary aspergillosis were examined. Three distinct patterns were seen in the lesions of autopsied lungs. The pathological characteristics of each patterns were affected by three important factors: the width and type of necrosis, the distribution of fungi and the degree of the neutrophilic response. The neutrophilic response might play an important role in creating a cavity in the center of the lesion as well as transforming from coagulation necrosis to colliquative necrosis. Furthermore, cytotoxic agents released by the aspergilli and local ischemia might be important factors which modify the features of lesions.
  • 安部 茂, 赤川 元, 丹生 茂, 越智 尚子, 大隅 正子, 小松 靖弘, 内田 勝久, 山口 英世
    1997 年 38 巻 2 号 p. 183-187
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    Candida albicansの致死感染マウスにおいて,みとめられる漢方方剤十全大補湯の感染防御効果のメカニズムの解明を目的としてマクロファージ機能がCandida感染および十全大補湯投与によってどのような影響をうけるかを,腫瘍壊死因子(TNFα)の産生能を指標に検討した。ICRマウスにC.albicansを静脈内接種後,経時的に採血しTNF活性を測定したところ,感染後24時間以内では,検出しえなかった.そこで,TNF産生を促す二次刺激作用を有する溶連菌製剤OK432を,Candida感染後様々なタイミングに投与し,2時間後に血清中に誘導されるTNF活性を測定した.Candida感染マウス群においては,感染3-6時間後では非感染対照群マウスにくらべて10倍以上の量のTNFが誘導されるのに対し,24-48時間後では,逆にその誘導が有意に抑制された.しかしこのTNF産生の抑制は感染3時間後に十全大補湯製剤TJ-48 2g/kgを経口投与することによって緩和された.これらの結果より,Candida感染はマウスのマクロファージ機能を一時的に亢進した後に低下させること,またこの機能低下は十全大補湯投与によって緩和されることが示された.
  • 服部 尚子, 足立 真, 金子 健彦, 五十棲 健, 下妻 道郎
    1997 年 38 巻 2 号 p. 189-197
    発行日: 1997/05/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    爪白癬は非常に難治であり,griseofulvin(GRF)が臨床応用されてから約30年間,GRFはほとんど唯一の有効な治療法とされてきた.我々は,GRF発売当初より,当科真菌外来に登録された爪白癬患者に対しGRF内服治療を行ってきた.この30年間の臨床データをもとに,1)30年前から現在までの患者背景の変化,2)GRFの爪白癬に対する有効性について検討した.患者背景に関しては,患者は高年齢化していた.GRFの有効性に関しては,1962年のみ治療期間が有意に短かったが,年齢別では,40-60歳の1962年のみ有意差があり,他の年齢層では有意な変化はなかった.全体の治癒率は32.4%(91/281)だが,4ヵ月以上継続して治療した者について考えると52.9%(91/172)であった.治癒に至った患者の平均内服期間は415日であった.副作用発現率は,8.5%(24/281)で重篤なものはなかった.
    4ヵ月以上継続して治療した患者について考えると,その半数以上が治癒に至っていることから,GRFは,継続して内服するとかなり有効性の高い,安全な薬剤と考えられた.治療期間については,30年前から現在まで,大きな変化はなく,耐性菌の増加による有効性の減少に関しては,否定的な結果であった.また,治癒までの平均内服期間が約14ヵ月であり,中途で治療を中止した患者の半数が,5ヵ月以内に中止していることを考えると,長期間の継続治療の必要性が,爪白癬における治療上の課題として強調された.
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