HELLP症候群に播種性アスペルギルス症を合併した一例を経験したので報告する.症例は31歳女性.妊婦検診時に下腿浮腫,尿蛋白が認められていた.妊娠33週2日,右下腹部痛,悪心,黄疸が出現し,翌日経腟分娩にて男児を娩出した.このとき血清総ビリルビン9.1mg/d
l,GOT 232U/
l,GPT 122U/
l,血小板数16.6×10
4/μ
lであった.以後子宮からの出血が著しく,止血が困難となり,単純子宮全摘出術,血腫除去術,内腸骨動脈の経カテーテル的動脈塞栓術,両側内腸骨動脈結紮術,輸血(総量31,070m
l)を行ったが,分娩後21日目に死亡した.
剖検では,皮膚に黄疸と出血点が無数に存在した.腹部の手術創部では,皮下脂肪組織内から腹直筋にかけて出血があり,後腹膜,骨盤腔内に多量の凝血塊が存在した.腹腔内には血性腹水が600m
l存在し,胸腔内にも血性胸水が左150m
l,右200m
lそれぞれ認められた.左側頭葉,右前頭葉,右後頭葉,橋にも出血を認めた.また,肺,気管支,脳,食道,胃,心臓,甲状腺に播種性アスペルギルス症が認められた.
HELLP症候群に伴う単球貪食能の低下およびT,B両細胞の機能不全に加えて,肝不全および大量の出血と輸血によって生じた好中球機能の低下が宿主の感染防御機構を減弱させ,播種性アスペルギルス症の発症要因となったと考えられる.
抄録全体を表示