背景:高血圧性心疾患では拡張不全の頻度が高く,左室拡張能の評価は臨床的に重要である.本研究の目的は,高血圧患者の年代別拡張能評価に際して,従来のドプラ法による拡張能指標に加え,左室拡張能と左房容積との関連性について検討すること.
対象と方法:対象は,30‐80歳代の高血圧患者522例(平均年齢:62歳,男性285例).パルスドプラ法で左室流入拡張早期波(E),心房収縮波(A),組織ドプラ法で拡張早期僧帽弁輪部速度(e’)を計測した.心尖部二腔断面及び四腔断面(biplane Simpson法)より求めた左房容積を体表面積で補正し左房容積係数(LAVI),Mモード法あるいは断層計測から,米国心エコー図学会(ASE)の式で求めた左室心筋重量より左室心筋重量係数(LVMI)を算出した.心房細動例,虚血性心疾患例,中等度以上の僧帽弁逆流症例は除外した.
結果:高血圧患者における年代別LAVIでは全ての年代で有意差を認めなかった.ASEのガイドラインに基づいて,高血圧患者を,左房拡大なし(LAVI<29 ml/m
2);HT-LAD(-)群,左房拡大あり(LAVI≧29 ml/m
2);HT-LAD(+)群の2群に分類した.多くの年代において,健常群(280例)に比べて高血圧患者群の拡張能は低下し,HT-LAD(-)群よりもHT-LAD(+)群においてe’は低値,E/e’は高値であった.また,E/e’とLAVI(r=0.59,p<0.0001),E/e’とLVMI(r=0.59,p<0.0001)で有意な相関を認めた.30‐50歳台で左房拡大を伴った高血圧患者の左室拡張障害は,20歳程進行しており,降圧管理の重要性が示唆された.
結論:高血圧患者においてLAVIは加齢による影響が少ないことから,従来の拡張能指標に左房容積計測を加味することで,より正確な拡張能評価が可能であると思われる.
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