超音波医学
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38 巻, 4 号
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総説
  • 田中 弘教, 飯島 尋子
    2011 年 38 巻 4 号 p. 401-411
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    腫瘍性肝病変の超音波診断はBモードやドプラ法の改善,造影超音波の技術の進歩と共に日進月歩で発展してきた.また,最近の3D技術の進歩も目覚ましく,腹部領域においても実用段階への道が開けてきた.腫瘍性肝疾患の画像診断では,2008年に登場したEOB-MRIは,その感度の高さより診断の位置付けを変えつつある.しかし,低侵襲で時間及び空間分解能に優れる超音波検査の有用性は揺るぎない.超音波診断は肝腫瘍のスクリーニングに不可欠であり,確実な画像診断が要求される.そのために,常に最新の知識をもって検査を行う必要がある.本稿では,腫瘍性肝疾患の中で最も重要な,肝細胞癌,肝内胆管癌,転移性肝癌,血管腫,限局性結節性過形成(FNH),肝細胞腺腫について,専門的かつ実践的な超音波診断を,これまでの報告に加え最新の知見を概説した.
  • 谷垣 伸治, 片山 素子, 松島 実穂, 橋本 玲子, 岩下 光利
    2011 年 38 巻 4 号 p. 413-420
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル 認証あり
    救急外来では,全ての疾患を確定診断する必要はない.緊急を要する患者のみを抽出し,時期を逸せず専門医に委ねればよい.産婦人科救急外来に来院する患者の主訴の3分の2は,下腹部痛と性器出血であり,この二つへの対応をおさえておくことが肝要である.産婦人科領域において緊急を要する疾患は限定されている.当院において,救急外来での診察直後に緊急手術を要した疾患は,異所性(子宮外)妊娠,卵巣出血,卵巣腫瘍破裂・茎捻転,PID(pelvic inflammatory disease)のみであった.診断の第一歩は,妊娠反応である.妊娠の有無により,疾患を患者数から見て約半数否定することが出来る.ついで超音波断層法を行う.緊急を要する疾患の鑑別の為には,子宮内に妊娠しているか否か,卵巣腫瘍の有無,腹腔内出血の有無の確認のみで十分である.心配な症例は,時間をおいて繰返し検査する.超音波断層法は,他の検査に比し簡便かつ非侵襲であり,産婦人科救急において最も有用かつ必須な検査である.
  • 尾上 篤志, 秋山 隆弘
    2011 年 38 巻 4 号 p. 421-431
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    腎癌は高齢者に多く発生する腫瘍であり,我国の人口の高齢化に伴って今後ますます増加するものと考えられる.また,腎癌は症状が無い時期に見つかるほうが,患者の生命予後が明らかに改善するため,スクリーニングによる早期発見が有効である.しかし,スクリーニングの普及に伴い,より小さな腎腫瘤が発見され,腫瘤の鑑別診断が困難となってきた.腎臓の腫瘤は良性腫瘍と悪性腫瘍に別れ,良性では腎血管筋脂肪腫が,悪性では腎細胞癌の頻度が最も高く,腎に腫瘤性病変を認めた場合,まず嚢胞性と充実性に分けて診断する.嚢胞性腫瘤は,ほとんどが良性であるが,断層法で嚢胞壁や隔壁に肥厚した部分が無いかを注意深く検索する必要がある.さらに,腎動脈瘤や腎動静脈瘻などの腎血管性病変の可能性も考えられるためカラードプラ法で嚢胞内に血流信号が無いか確認する.一方,充実性腫瘤の場合,臨床上最も頻度が高く,かつ鑑別診断が困難な腫瘤は高エコーを呈する小さな腫瘤であり,断層法とカラードプラ法を駆使しても鑑別診断が困難であることも多く,造影超音波検査が有用である.さらに,透析患者においては腎癌の発症が高率であり,特に透析導入後に発生する多嚢胞化萎縮腎に多く発生する.この場合も,断層法やカラードプラ法では鑑別診断が困難であり,造影超音波法が有用であることから,積極的に多用されるべき検査法である.本稿では腎臓の超音波診断に必要な基本的知識から造影超音波法の最新の知見までをまとめた.
原著
  • 渡會 展之, 桝田 晃司, 中元 隆介, 江田 廉
    2011 年 38 巻 4 号 p. 433-445
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    目的:微小気泡を用いた低侵襲治療法として,超音波照射による温熱効果及び非温熱効果を利用した手法が開発検討されているが,微小気泡は生体内では血流と共に拡散するため,これまでは血流に任せる以外に送達手段が無く,投入効率と副作用の問題があった.対象と方法:本論文では微小気泡の動態を制御するため,複数の超音波音源と単純な形状の分岐を有する模擬血管を用いて,微小気泡の流路選択性能を向上させる方法について検討した.超音波が微小気泡に及ぼす作用力には,伝搬方向への推進力となるprimary Bjerknes forceと,気泡同士が結合した凝集体を形成する引力となるsecondary Bjerknes forceがあるが,前者では流路の分岐形状に対する音波照射角度等の,後者では凝集体のサイズとその飽和時間に必要な音波のパラメータをそれぞれ導出した.これらの両方を同一空間に発生させ,凝集体の形成後に目的の経路に誘導する実験を行った.結果:凝集体を形成しない場合に比べて,凝集体を押し出した場合の誘導率が1.3‐5.5倍向上することを確認した.凝集体の非形成時には中心周波数5 MHzの音波が最も推進力が得られた一方,凝集体形成時には中心周波数が2 MHzで誘導率が最も高くなることを確認した.結論:以上のことより,凝集体自体が一個の微小気泡であると見なした場合のサイズから導出される共振周波数に近いことが推測された.
  • 煙草 敏, 原田 昌彦, 宮坂 匠, 吉川 浩一, 寳田 雄一, 桝谷 直司, 林 京子, 原 文彦
    2011 年 38 巻 4 号 p. 447-454
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    背景:高血圧性心疾患では拡張不全の頻度が高く,左室拡張能の評価は臨床的に重要である.本研究の目的は,高血圧患者の年代別拡張能評価に際して,従来のドプラ法による拡張能指標に加え,左室拡張能と左房容積との関連性について検討すること.対象と方法:対象は,30‐80歳代の高血圧患者522例(平均年齢:62歳,男性285例).パルスドプラ法で左室流入拡張早期波(E),心房収縮波(A),組織ドプラ法で拡張早期僧帽弁輪部速度(e’)を計測した.心尖部二腔断面及び四腔断面(biplane Simpson法)より求めた左房容積を体表面積で補正し左房容積係数(LAVI),Mモード法あるいは断層計測から,米国心エコー図学会(ASE)の式で求めた左室心筋重量より左室心筋重量係数(LVMI)を算出した.心房細動例,虚血性心疾患例,中等度以上の僧帽弁逆流症例は除外した.結果:高血圧患者における年代別LAVIでは全ての年代で有意差を認めなかった.ASEのガイドラインに基づいて,高血圧患者を,左房拡大なし(LAVI<29 ml/m2);HT-LAD(-)群,左房拡大あり(LAVI≧29 ml/m2);HT-LAD(+)群の2群に分類した.多くの年代において,健常群(280例)に比べて高血圧患者群の拡張能は低下し,HT-LAD(-)群よりもHT-LAD(+)群においてe’は低値,E/e’は高値であった.また,E/e’とLAVI(r=0.59,p<0.0001),E/e’とLVMI(r=0.59,p<0.0001)で有意な相関を認めた.30‐50歳台で左房拡大を伴った高血圧患者の左室拡張障害は,20歳程進行しており,降圧管理の重要性が示唆された.結論:高血圧患者においてLAVIは加齢による影響が少ないことから,従来の拡張能指標に左房容積計測を加味することで,より正確な拡張能評価が可能であると思われる.
  • 宇佐見 陽子, 角田 博子, 梶浦 由香, 河内 伸江, 菊池 真理, 本田 聡, 齋田 幸久, 鈴木 高祐
    2011 年 38 巻 4 号 p. 455-460
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    目的:乳房超音波において“多発小嚢胞像”は,乳腺内に多数の小嚢胞が局在あるいは区域性に集簇して見られるもの,と定義されている.多くが乳腺症と考えられるが,本邦においてその実態を示した報告はない.多発小嚢胞像の頻度を調べ,その病態・US所見について検討し,多発小嚢胞像の実態を明らかにすることを目的とした.対象と方法:2005年1月‐2009年1月に施行された乳房US(総数6,504例)のうち,チャートレヴューにて多発小嚢胞像を有した30例を対象.悪性の頻度,病理組織学的内訳,US所見,年齢について検証した.結果:多発小嚢胞像を示したのは,6,504例中30例,0.46%.多発小嚢胞像を示した30例中,8例,0.12%が病理組織学的に悪性と診断された(浸潤癌3例,非浸潤性乳管癌5例).残り22症例は臨床的あるいは病理学的に良性と診断された.US所見を,嚢胞の集簇のみの症例と,集簇する嚢胞の周囲に低エコーを伴う症例とに分類すると,前者は6例,後者は24例であった.悪性8例は全て集簇する嚢胞に合併して低エコーを伴っていた.一方,嚢胞近傍に低エコー域を認めない6例において悪性はなかった.悪性群と良性群の年齢を50歳を境に検討したが,両者に有意差はなかった(P=0.15).結論:多発小嚢胞像を示すものの中には頻度は低いものの乳癌も含まれており,単純性嚢胞とは区別して考える必要があることが示された.
症例報告
  • 野村 公達, 矢崎 善一, 宮下 雅子, 大槻 幸子, 熊谷 豊, 宮澤 寿幸, 高橋 康之, 日吾 雅宜, 中澤 功
    2011 年 38 巻 4 号 p. 461-464
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    大動脈四尖弁は大動脈弁閉鎖不全の原因となり,稀な先天性心奇形である.今回我々は経胸壁心臓超音波検査により診断可能であった大動脈四尖弁の1症例を経験した.症例は76歳,男性,呼吸困難及び心窩部痛を主訴に近院を受診し,精査目的で当院に紹介入院となった.経胸壁心臓超音波検査では左室の拡大と心収縮能の低下を認めた.また,大動脈弁は右冠尖と左冠尖の間に副尖を有する大動脈四尖弁が確認され,大動脈弁中央部の接合不全による重度大動脈弁逆流を伴っていた.大動脈造影においても重度大動脈弁逆流が確認され大動脈弁置換術が施行された.本症例は経胸壁心臓超音波検査を契機に大動脈四尖弁と診断された貴重な症例と考え報告する.
  • 大沼 芳子, 水島 浩行, 石瀬 久也, 神保 正樹
    2011 年 38 巻 4 号 p. 465-472
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    重症僧帽弁狭窄症のために著明な左房と卵円孔の拡大で心房中隔瘤と心房間左‐右シャントとが生じ,Lutembacher症候群と同様な血行動態になった78歳の女性を報告した.経皮的経静脈的僧帽弁交連切開術が施行されたが,心拍出量の増加は芳しくなく,慢性右心不全の所見を徐々に呈した.左‐右シャントが生じた前後の超音波検査の経過を追うことが出来た稀な症例と考えられた.
  • 渡邉 学, 塩澤 一恵, 金山 政洋, 向津 隆規, 八鍬 恒芳, 丸山 憲一, 本田 善子, 島田 長人, 住野 泰清
    2011 年 38 巻 4 号 p. 473-480
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    65歳,男性.前日ゴルフのラウンド中に上腹部痛が出現し入院となった.腹部超音波検査(US)にてintimal flapの描出は認めなかったが上腸間膜動脈(SMA)近位部の軽度拡張とカラードプラ法にて背側の順行性シグナルと反転するように腹側の逆行性シグナルを確認した.腹部multi-detector-row computed tomography(MDCT)でSMA根部の解離と限局性空腸壁肥厚を認めたため虚血性空腸を合併した孤立性上腸間膜動脈解離(ISMAD)と診断し抗凝固剤を開始した.SMA解離部及び虚血空腸についてUSとMDCTにて血流動態を追跡観察した.SMA解離は根部より約2 cm末梢側まで真腔・偽腔ともに血流を有していたが,偽腔拡張による真腔の狭小化をUSにて経時的に確認した.一方,MDCTや造影超音波(CEUS)で染影が低下していた空腸壁肥厚部の一部は,第19病日のCEUSにて血流の改善を認めた.その後,腹痛はなく第26病日より食事を開始したが,第38病日に食後の左側腹部痛が出現した.小腸造影で空腸に狭窄部位を認めたため,第59病日に開腹術を施行した.Treitz靭帯から20 cm肛門側の部位から約30 cmの範囲で空腸の狭窄を認めたため切除した.病理組織学的検査にて虚血に伴う遅延性狭窄と診断した.本症例では,保存的治療中のSMAの解離状態や腸管viabilityの判定にUSはきわめて有用であった.
  • 小松 玲奈, 中田 雅彦, 住江 正大, 早田 桂, 関野 和, 岡田 朋美, 石田 理, 野間 純, 吉田 信隆, 秋山 卓士
    2011 年 38 巻 4 号 p. 481-487
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/11
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    胎児胸水を伴う肺分画症の予後は不良である.胎児胸水除去及びシャント術を行うことで,胎児水腫や肺低形成が予防でき,予後の改善につながると言われている.胎児胸腔‐羊水腔シャント術が有効であった胎児肺分画症の1例を経験したので報告する.症例は,34歳,経産婦.前医で胎児胸部腫瘤と心臓右方偏位を認め,妊娠28週6日に当科を紹介初診した.胎児超音波検査・MRI検査で左胸郭に43×46×41mmの腫瘤と多量の胸水を認めた.腫瘤は肺葉外に存在し,腹部大動脈から腫瘤へ向かう栄養血管を同定し肺葉外肺分画症と診断した.その他胎児構造異常や胎児水腫を認めず,ウィルス感染は否定的であった.同日胎児胸水を32 ml除去したが,翌日には胸水の再貯留を認めたため,妊娠29週1日に胎児胸腔‐羊水腔シャント術を施行(超音波ガイド下に八光社製ダブルバスケットカテーテルを留置)した.術後両肺は拡張し,胸水の再貯留・分画症肺の増大・羊水過多や切迫早産徴候なく経過した.妊娠38週5日,分娩誘発にて3,110 gの女児をAS9/9で経腟分娩した.児はNICUに入院,人工呼吸管理は不要であったが,日齢1より胸水が貯留し胸腔持続ドレナージを開始,150‐200 ml/日の排液を認めた.日齢8に分画肺摘出術を施行し,経過良好で日齢17に退院した.本症例は無治療であれば胎児水腫などを合併し予後不良であったと予想され,胎児胸腔‐羊水腔シャント術が有用であった.
今月の超音波像
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