超音波医学
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39 巻, 2 号
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総説
  • 合田 亜希子, 正木 充, 増山 理
    2012 年 39 巻 2 号 p. 87-99
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/30
    ジャーナル フリー
    僧帽弁閉鎖不全症の手術件数は現在も増加傾向にある.リウマチ性の僧帽弁疾患は減少しているが,虚血性あるいは機能性の僧帽弁閉鎖不全症は心不全治療が進歩したこと,生活習慣病の増加などから今後も増加すると考えられる.また,弁形成術の技術が進歩し,その適応が広がっている.僧帽弁逸脱症の場合には逸脱部位や範囲,弁の肥厚・変性の有無により形成術の成功率が異なるため,心エコー図検査による詳細な評価が必要である.弁形成術は弁置換術と比較して術後の予後が良い.心房細動の慢性化や弁変性が進む前に形成術を施行した場合,その後の抗凝固療法も不要であることから,弁形成術が可能な段階での手術を考える必要がある.また,現在米国において経皮的僧帽弁クリッピング術が治験中である.適応に限定はあるものの,特に機能性僧帽弁閉鎖不全症例など心機能が著明に低下している症例において,より少ない侵襲による治療法に期待がもたれる.術後フォロー・アップに際しては弁機能,逆流の有無・程度,心機能を評価する.感染性心内膜炎や収縮性心膜炎の可能性についても念頭に置いておく必要がある.手術後はアーチファクトなどにより経胸壁心エコー図検査による評価が困難な場合がある.臨床的に弁機能不全や感染性心内膜炎が疑われる場合には積極的に経食道心エコー図検査を行う.人工弁の通過血流速は弁輪径,弁の種類によっても異なり,以前のデータとの比較が重要である.
原著
  • 蜂屋 弘之, 大屋 優, 山口 匡, 林 秀樹
    2012 年 39 巻 2 号 p. 101-111
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/30
    ジャーナル フリー
    目的:超音波凝固切開装置は腹腔鏡手術下などで広く利用されているが,処置部分とは異なる離れた位置の組織に損傷を与えることがあるのではないかと懸念され,その原因としてキャビテーションが指摘されている.そこで,実際の装置を用いてブレードからのキャビテーションの発生状況について検討する.対象と方法:超音波凝固切開装置ブレードの振動分布を,レーザードプラ振動計を用いて計測すると共に,水中観測においてキャビテーションの発生状況を確認し,ハイドロホンにより水中での音圧分布を測定し,超音波振動源から離れた位置にまで作用が波及する可能性について検討した.結果と考察:レーザードプラ振動計によって測定したブレードの振動分布と観察したキャビテーション気泡の発生位置の関係から,振動振幅の大きな領域から気泡が発生していることがわかった.さらに,水中でのブレード周囲の音圧測定,周波数解析から,キャビテーションが発生する可能性のある領域について,検討を行った.気泡の観察結果と音圧測定結果は整合性があり,キャビテーションが発生し,生体作用を及ぼす範囲は,最大でもブレードから数mm以内であると推定された.結論:キャビテーションはブレードのごく近傍から局所的に発生し,音響流によって移動する可能性はあるものの,キャビテーションによる直接的作用はブレード近傍に限定されると推測された.
症例報告
  • 桐谷 博巳, 千明 真弓, 宇野 漢成, 海老原 文, 月原 弘之, 竹中 克
    2012 年 39 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/30
    ジャーナル フリー
    心室ペーシングでは,リードの挿入位置によって,心室各部位の興奮・収縮の時相が変化する.これまで心室ペーシングに由来する左室内異常高速血流は報告されていない.我々は右室心尖部にペーシングリードが挿入され,ペーシング調律下で収縮後期に左室中部から心尖部に向かう異常高速血流を認め,ペーシングオン/オフにより異常高速血流が出現/消失する2例を経験したので,ここに報告する.ストレインレートイメージング法や組織ドプラ法を用いた壁運動解析により,この2症例の収縮後期異常高速血流の出現機序は以下のように考察された.すなわち,右室心尖部ペーシングによってリード先端に接する左室心尖部が心基部・中部より早く収縮を始め,収縮後期には心尖部ではすでに拡張及び圧下降が始まっているのに対し,心基部・中部はまだ収縮中で圧が高く,心基部‐心尖部圧較差が生じた結果,心尖部に向かう左室内異常高速血流が出現した.
  • 渡邉 幸太郎, 三宅 仁, 松田 真太郎, 前西 文秋, 登尾 里紀, 榊原 由希, 登尾 薫, 佐藤 信浩, 山野 愛美, 大北 裕
    2012 年 39 巻 2 号 p. 121-130
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/30
    ジャーナル フリー
    患者は50歳の男性で,3日前よりの発熱,次第に増悪する呼吸困難を主訴に来院した.来院時,低酸素血症と胸部X線上で両肺野にうっ血像を認め,急性左心不全と診断した.入院後に呼吸補助と利尿薬投与を施行し,循環血行動態は安定し,心不全は軽快した.経胸壁心エコー図検査にて重症大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation,以下AR)を認め,これが心不全の原因であると考えた.経胸壁心エコー図検査及び心臓カテーテル検査ではいずれも急性重症ARの所見を呈していたが,経食道心エコー図検査を施行しても感染性心内膜炎などのARの原因疾患は特定出来なかった.その後,重症ARに対して手術適応と判断し,心不全発症後第40病日に他院にてARに対する根治術を施行したところ,大動脈弁左冠尖から右冠尖の直上に限局性大動脈解離を認め,今回のARの原因であると断定した.改めて術前の3D経食道心エコー図検査を解析したところ,右冠尖直上に存在するflapを確認し,限局性大動脈解離の広がりを再構築することが可能であった.限局性大動脈解離によるARは比較的稀な疾患であり,時として診断が困難である.病歴や経胸壁心エコー図検査から急性発症のARが疑われる場合には,早急な外科的治療が必要な疾患を検索するため,必要に応じて3D経食道心エコー図検査を使用すべきであると考えられた.
  • 藤本 武利, 加藤 洋
    2012 年 39 巻 2 号 p. 131-138
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/30
    ジャーナル フリー
    目的:進行胆嚢癌の多くは拡大手術を行っても予後不良だが,2 mm以下の漿膜下層浸潤(SS)に留まるSS胆嚢癌は予後良好と報告されている.これを初期SS胆嚢癌とした時,乳頭浸潤型を示す初期SS胆嚢癌の超音波像を明らかにする.対象と方法:1988年~2007年までの20年間に平塚胃腸病院で腹部超音波検査(US)を行ったSS胆嚢癌切除例のうち,乳頭浸潤型の初期SS胆嚢癌5例を対象として,超音波像・病理を対比検討した.結果と考察:外側高エコー層は漿膜下深部脂肪層+漿膜に相当する.病巣表層部が高エコーで深部が低エコーを示す所見(病巣深部低エコー)は,病理組織学的に表層部が乳頭腺癌で深部に豊富な線維化とリンパ球浸潤を伴う癌巣を示し,5例の全てに認められた.外側高エコー層の性状に関しては,吊り上げ肥厚3例,著変なし2例であった.従来,外側高エコー層の肥厚に注目した論文はみられなかった.癌浸潤の進行過程を推測すると,外側高エコー層の吊り上げ肥厚が先行し,その後に著変なしがみられるものと考える.結論:乳頭浸潤型を示す初期SS胆嚢癌の超音波像は二つあり,外側高エコー層の吊り上げ肥厚と菲薄化である.前者は癌浸潤が深くなるにつれて外側高エコー層が一旦内腔側に吊り上げられて肥厚を示し,その後,病巣深部低エコーの増大により菲薄化していくものと考える.一方,後者は従来指摘されているものであり,最初から外側高エコー層の不整・菲薄化を示す.
  • 三村 貴志, 石川 哲也, 島田 佳苗, 飯塚 千祥, 宮本 真豪, 市原 三義, 森岡 幹, 長塚 正晃, 岡井 崇
    2012 年 39 巻 2 号 p. 139-142
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/30
    ジャーナル フリー
    婦人科において術中に腹腔鏡用超音波を使用したとの報告は少ない.今回,我々は2度の子宮鏡下筋腫核出術後に再発し,粘膜下腫瘍径が大きく,かつ子宮筋層に腺筋症を認めたため,腹腔鏡用超音波を用いて最適な筋層切開部を選択し,腹腔鏡下に安全かつ確実に手術し得たので報告する.症例は38歳0経妊0経産,過多月経を主訴に6年前,4年前に子宮鏡下筋腫核出術を施行したが再発し,再度上記症状を認めたため,前医を受診し,粘膜下筋腫が疑われ、当院紹介となった.粘膜下筋腫は6cm大で,子宮外への突出はなく,かつ近傍に腺筋症を認めた.そこで,粘膜下筋腫と腺筋症病巣の摘出とを同時に行なうため,術中に腹腔鏡用超音波を用い,筋腫と腺筋症の存在部位を明らかにし,最適な筋層切開創を決定することを計画した.実際,子宮は全体的に腫大しており,粘膜下腫瘍,腺筋症の特定は困難で,肉眼では切開部を決定出来ない状態であった.腹腔鏡用超音波を用いて腺筋症,粘膜下腫瘍の位置を確認し,腺筋症のある筋層を切開しそれぞれを摘出した.手術時間は1時間50分で,出血量250 ml,摘出重量は70gで,子宮内膜,筋層を層ごとに腹腔鏡下に縫合し手術終了とした.病理診断で,粘膜下筋腫ではなく,子宮腺筋腫であった.術後に貧血(Hb11.2 → 8.8 g/dl)となったが輸血することなく鉄剤の投与のみで軽快した.その他の合併症は認めていない.術中に腹腔鏡用超音波を用いたことで,粘膜下腫瘍を摘出する上での最適な筋層切開創が決定出来たため,筋層への切開創を最小限にすることが出来た.
今月の超音波像
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