超音波医学
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43 巻, 2 号
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特集「超音波測定技術の進歩」
  • 菊池 恒男, 内田 武吉
    原稿種別: 超音波測定技術の進歩
    2016 年 43 巻 2 号 p. 217-227
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2015/05/11
    ジャーナル 認証あり
    高出力治療用超音波(high-intensity therapeutic ultrasound: HITU)の利用拡大に対応するため,National Metrology Institute of Japan(NMIJ)では,超音波パワー計量標準の高出力化対応,キャビテーション発生量の定量計測技術などの研究開発を行っており,本稿では,現在までに得られた成果について報告する.NMIJを含む各国計量標準機関における15 W程度の超音波パワー標準は,通常「天秤法」を用いて構築している.しかし,昨今のHITU利用の拡大に伴い,天秤法では技術的に測定限界となりつつあり,天秤法の代替測定法の開発が急務となっている.NMIJでは,水を発熱体とするカロリメトリ法による超音波パワー測定法を,新たな超音波計量標準とするべく開発を行った.現在までに100 Wまでの超音波パワーの標準供給が可能となり,今後数年以内に,200 Wまで範囲拡張を予定している.一方,キャビテーション計測については,イギリスのNPL(National Physical Laboratory)が提案した「キャビテーションセンサ」を応用し,新たな定量計測技術の開発を行っている.キャビテーションセンサで得られた測定値を,既存の方法であるElectron Spin Resonance法を用いた活性酸素発生量およびソノケミカルルミネッセンスの発光強度の測定値と比較した結果,両者に良好な比例関係が認められた.このことから,キャビテーションセンサを何らかの方法で校正することで,キャビテーション発生量測定の定量化が可能となる.将来は,キャビテーション定量計測ツールとしての利用を踏まえ,校正技術の開発を目指すことを検討している.
  • 椎葉 倫久, 岡田 長也, 内田 武吉, 黒澤 実, 竹内 真一
    原稿種別: 超音波測定技術の進歩
    2016 年 43 巻 2 号 p. 229-240
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2015/08/10
    ジャーナル 認証あり
    近年,高強度の超音波を用いた様々な治療法や診断法が利用されている.しかし,強力な超音波を生体内に照射するためには,生体への安全性の観点からも,また効率的な利用という観点からも正確な音場,音圧,音響強度の計測が重要である.我々は,チタン製前面板(受音面)の裏面に水熱合成チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)多結晶膜を成膜し,音響キャビテーションの発生を伴う強力な超音波の音場で測定をしても壊れないように工夫した耐音響キャビテーションの堅牢型ハイドロホンの開発を行ってきた.しかし,低固有音響インピーダンス背板を用いた従来の堅牢型ハイドロホンでは受波感度が高周波領域ほど低下してしまい,実際の超音波波形を十分な忠実度で表現できないという問題点があった.そのため,Masonの等価回路に基づく数値シミュレーションを実施して周波数特性の改善策を検討した結果,固有音響インピーダンスが約20 MRaylの背板材料を用いることでフラットな受信感度の周波数特性を得られることがわかった.我々は固有音響インピーダンスが20 MRayl付近の背板を有する新しい堅牢型ハイドロホンを開発した.新しい堅牢型ハイドロホンでは受波感度が高周波領域で低下することを抑制できた.このハイドロホンを用いると従来の堅牢型ハイドロホンよりも忠実に超音波波形の非線形歪を表現できることがわかった.強力な超音波により音響キャビテーションが発生している超音波洗浄器の水槽内で,各ハイドロホンの超音波曝露実験を行った結果,新しい堅牢型ハイドロホンは市販のハイドロホンの約10倍の耐久性を持っていると考えられた.
  • 土屋 健伸, 清水 一磨, 遠藤 信行
    原稿種別: 超音波測定技術の進歩
    2016 年 43 巻 2 号 p. 241-254
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2015/07/03
    ジャーナル 認証あり
    今日,超音波診断装置は広く普及し,医療現場,特に産婦人科領域では必要不可欠なものとなっている.しかし,診断対象領域の拡大や診断装置の性能を向上する目的での照射超音波の高周波化・高出力化に伴い,超音波装置の安全性を検証するための研究が世界中で実施されている.日本超音波医学会でも機器及び安全に関する委員会を中心に安全性についての検討や実験が実施されており,近年では音響放射圧を用いたイメージング装置の生体への影響について,多方面の検討が実施されている.そこで,本報告では赤外線カメラを用いた熱画像法による測定システムを構築し,IEC 60601-2-37を参考に製作した分割ファントムを用い,その断面の2次元温度分布測定を行った結果について報告する.初めに,温度分布と照射超音波出力の関係性を求めた.さらに,超音波の伝搬方向に擬似骨(アクリル)がある場合とない場合について温度上昇実験を行った.この結果,超音波の反射が骨ならびに骨近傍の温度を上昇させる現象を可視化することができた.次に,従来法の熱電対による測定結果と比較し,熱画像法の妥当性について検討した.さらに,数値シミュレーションを行って熱画像法の測定結果と比較することで,さらなる妥当性を検討した.使用が容易なシミュレーションプログラムを作成することで,臨床医による体内温度分布の予測も可能となり,安全性の確立や啓蒙に役立つと考える.
  • 梅村 晋一郎, 工藤 信樹
    原稿種別: 超音波測定技術の進歩
    2016 年 43 巻 2 号 p. 255-263
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2015/12/24
    ジャーナル 認証あり
    本論文では,光学的手法を用いて医用超音波の音場を可視化する3つの手法について述べる.1つは光源とカメラのみからなる単純な光学系で可視化を実現するシャドーグラフ法である.本手法で取得した音場可視化像を従来のシュリーレン法と比較するとともに,超音波診断用の短いパルス超音波の音場可視化における有用性を示す.続く2つの手法は,ハイドロホンによる音場測定の置き換えを目指して開発した定量化シャドーグラフ法と位相コントラスト法である.各手法の原理を解説するとともに,超音波治療に用いられる連続超音波の集束音場を可視化する実験を行い,ハイドロホン計測との比較を通じて3次元音場の精密計測における有用性を示す.
原著
  • 吉田 憲司, 大西 将馬, 江浦 太之, 渡辺 公章, 渡辺 好章, 秋山 いわき
    2016 年 43 巻 2 号 p. 265-277
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2015/12/18
    ジャーナル 認証あり
    目的:二つの異なる周波数の超音波ビームを交差させ,交差領域の造影剤の非線形振動により発生する和音もしくは差音の周波数成分を用いて血流の速度を測定する二ビーム交差型コントラストエコー法(CBCE法)を考案した.本手法は,造影エコーと組織エコーの比を改善できるため,MTIフィルタ等のハイパスフィルタを用いることなく,血流速度を測定することができる.本論文では,血流模擬ファントムと造影剤を用いて実験的な検討を行い,基本波,高調波と比較して和音を用いる利点を明らかにする.対象と方法:10 mm/s程度の低流速の定常流を実現できるフローシステムを構築し,CBCE法を用いて流速測定を行った.造影剤としてソナゾイド®を用いた.エコー信号に設定するレンジゲートの幅を変化させながら造影エコーと組織エコーの比率を変化させ,基本波成分,第二高調波成分および和音成分のドプラ周波数から算出した流速値を比較した.結果と考察:レンジゲート中に組織エコーが含まれる場合において,和音成分の組織エコー対造影エコー比が基本波,高調波に比べて大きいことを確認した.他の周波数成分を用いた結果と比較して,和音のドプラ周波数を用いた計測値の傾向が参照値とよい一致を示すことを確認し,レンジゲート中に組織エコーが含まれる場合でも血流を測定できる可能性を示した.結論:CBCE法における和音成分のドプラ周波数から造影エコー対組織エコー比が改善されることを明らかにした.
  • 工藤 信樹, 木下 勇人
    2016 年 43 巻 2 号 p. 279-289
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2016/02/02
    ジャーナル 認証あり
    目的In vivoソノポレーションに向けた基礎研究として,硬さが異なる足場上に単層培養した細胞のソノポレーションにより生じる細胞膜損傷率を検討した.方法:コラーゲンゲル,10%,30%アクリルアミドゲル,およびカバーガラスを用いて作成した4種類の細胞培養足場を単層細胞の培養に用いた.原子間力顕微鏡を用いて測定したヤング率はゲル足場では0.09‐8.6 kPa,生細胞では4.5 kPaであった.波数3,100および10,000波でピーク正圧/負圧が8.0/-1.3 MPaのパルス超音波を微小気泡が付着した細胞に1回のみ照射した.結果:Propidium iodideを用いて細胞膜損傷を蛍光顕微鏡により可視化した.波数3波の超音波パルスでは有意な変化は見られなかったが,波数100および10,000波のパルスではヤング率の増加に伴い損傷が増加する明確な傾向が確認された.結論:実験結果より,接着細胞の下層にある足場層の硬さをソノポレーション条件の重要なパラメータとして考慮に入れる必要があること,またin vivoソノポレーションに対する最適照射条件は生体組織の物理的特性を考慮して決定すべきであることが示唆された.
  • 福田 延昭, 板谷 慶一, 木村 公一, 海老原 文, 根岸 一明, 宇野 漢成, 宮地 鑑, 倉林 正彦, 竹中 克
    2016 年 43 巻 2 号 p. 291-301
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2016/02/08
    ジャーナル 認証あり
    目的:カラードプラおよびスペックルトラッキングデータに基づいた新方式のvector flow mapping(VFM)によって左室内の渦流発生を可視化することができる.本研究の目的はVFMを用いて駆出期中の渦流の重要性を検討することである.対象および方法:80人を対象(正常20名,拡張型心筋症29名および陳旧性心筋梗塞31名)としてカラードプラ画像を記録してVFM解析を行った.左室渦流の持続時間を計測し,駆出時間に対する比(VTRe)として評価した.結果:VTReはEDV(ρ = 0.672,p < 0.001),ESV (ρ = 0.772,p < 0.001),EF(ρ =-0.783,p < 0.001),左房径(Lad)(ρ = 0.302,p = 0.007),一回拍出量(ρ =-0.600,p < 0.001),e’(ρ =-0.389,p < 0.001),a’(ρ =-0.314,p = 0.005),s’(ρ =-0.512,p < 0.001)およびE/e’ (ρ = 0.330,p = 0.003)と有意な相関を示した.EFによって補正した場合には拡張期パラメータ(e’,a’,E/e’およびLAd)とは相関を認めなかった.結論:正常の左室では渦流は駆出早期の限られた時間にのみ存在した.対照的に,EFが低くなるほどより長く収縮期中の渦流は持続した.VFMによる渦流の評価は心機能障害の病態生理における新たな知見を非侵襲的にもたらす可能性がある.
症例報告
  • 藤田 淳子, 山崎 正之, 竹内 陽史郎, 小川 正子, 高岡 理恵, 衣笠 宏, 山村 亮介, 志手 淳也
    2016 年 43 巻 2 号 p. 303-310
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2016/02/15
    ジャーナル 認証あり
    心ヘモクロマトーシスは心筋細胞への鉄沈着により心不全をきたす病態である.今回,我々は心エコー図検査で拘束型心筋症様両心不全の病態を呈し,臨床経過および画像所見から心ヘモクロマトーシスに合致すると考えられた症例を経験したので報告する.症例は70歳代女性.フェリチン異常高値のため当院紹介.生検にて肝ヘモクロマトーシス,鉄芽球性不応性貧血と診断され鉄キレート療法が開始されたが糖尿病を発症し,労作時呼吸苦が出現し当院入院となった.血清フェリチンは3,210 ng/mlと異常高値であり,心電図は伝導障害を呈し,単純CTでは左室および一部の右室心筋に高吸収域を認めた.入院時心エコー図検査では左室拡張末期径は53 mmで左室拡大は認めなかったが,左室壁運動はびまん性に低下し,左室駆出率は30~35%と収縮能は低下していた.心房細動リズムで左室流入血流速波形の拡張早期波減速時間は138 msecと短縮していた.入院時心エコー図検査から20日後には右心機能低下が顕著となり,心室中隔に点状の輝度上昇を認め,左室流入血流速波形は拘束型を示し,急激に心不全が進行していた.心エコー図所見から心ヘモクロマトーシスと診断した.通常の心不全治療に対して薬剤抵抗性であり,心室頻拍のため第31病日に永眠された.以上,心ヘモクロマトーシスの診断に心エコー図検査が有用であった.
  • 衛藤 英理子, 牧 尉太, 玉田 祥子, 江口 武志, 光井 崇, 平野 友美加, 高原 悦子, 早田 桂, 増山 寿, 平松 祐司
    2016 年 43 巻 2 号 p. 311-315
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/28
    [早期公開] 公開日: 2016/01/08
    ジャーナル 認証あり
    稀な疾患である胎児心臓腫瘍を3例経験したので報告する.症例1は30歳の経産婦で,妊娠38週0日に当院へ紹介となった.胎児超音波検査では心室中隔から左心室内に径13 mm大の高輝度腫瘤を認め一部が左室流出路に突出していた.妊娠39週1日3,966 gの男児を経腟分娩した.日齢1に腫瘍切除術を行い組織診断は横紋筋腫であった.生後2ヵ月半の頭部MRI検査で結節性硬化症と診断され,てんかんを合併している.5歳の時点で腫瘍の再発は認めていない.症例2は30歳の経産婦で,妊娠29週5日に当院へ紹介となった.胎児超音波検査では左心室内,右心室内,右心房内にそれぞれ径14 mm,17 mm,5 mm大の高輝度腫瘤を認めた.妊娠39週5日2,866 gの女児を経腟分娩した.生後日齢3の頭部CT検査で結節性硬化症と診断され,てんかんを合併している.3歳の時点で腫瘍は不変である.症例3は36歳の初産婦で,妊娠19週5日当院へ紹介となった.胎児超音波検査では左心室内に径10 mm大の高輝度腫瘤を認めた.妊娠37週4日に3,006 gの女児を経腟分娩した.日齢13に心室頻拍を認め抗不整脈薬で治療を開始した.9ヵ月の時点で腫瘍は不変である.胎児心臓腫瘍の予後不良因子は腫瘍径20 mm以上,胎児不整脈,胎児水腫といわれている.胎児診断の重要性を再認識するとともに,更なる予後因子の検討のためにも症例を蓄積することは意義深い.
今月の超音波像
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