【背景】腎動脈以外の腹部血管は単独で精査の対象となることは少なく,一般に心エコー,下肢動脈エコー,下肢静脈エコーの際に併せて評価し,偶然に疾病が発見される.本稿では,比較的稀な所見・疾患・病態に焦点があてられており,それらを中心に呈示したい.
【腹部静脈】下大静脈の先天異常では左下大静脈遺残があり,左腎静脈に流入する.右下大静脈欠損では,奇静脈に還流することが多い.下大静脈の血栓は腫瘍との鑑別が問題となる.腹部はリンパ節を含め腫瘍に注意する.門脈系の血栓も稀にみられる.
【腹部大動脈】動脈硬化性の変化は大動脈瘤を含め多いが,特にIgG4関連疾患で大動脈周囲の線維化が話題となっている.内腸骨動脈瘤はエコーで見逃されやすい.大動脈解離では,分枝血管の虚血が問題となる.上腸間膜動脈の解離が時にみられる.
【腎血管】心不全の原因となる腎動脈狭窄は要注意で多くは動脈硬化性であるが,線維筋性異形成も忘れるべきではない.左腎静脈が上腸間膜動脈と大動脈挟まれて,血流が鬱滞すると拡張し,ナッツクラッカーサインと呼ばれる.
【結論】心エコー,下肢動脈エコー,下肢静脈エコー,腹部エコーの際に併せて腹部血管を観察することが肝要である.予想外の疾患を検出することは稀ではなく,それが病態の本質につながることもある.ルーチンのエコーに腹部血管のスクリーニングを含めることが望ましい.
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