日本線虫学会誌
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46 巻, 2 号
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原著論文
  • 渕 通則, 小野 雅弥, 近藤 栄造, 吉賀 豊司
    2016 年 46 巻 2 号 p. 39-44
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/05/10
    ジャーナル フリー

     昆虫病原性線虫Steinernema carpocapsae の病原性は共生細菌Xenorhabdus nematophila に大きく依存する。線虫自体の病原性や昆虫組織への影響を理解するため、線虫の侵入、昆虫の死亡率、昆虫体内での線虫の発育、および昆虫組織への線虫感染の影響について、無菌および保菌線虫の間で比較した。無菌感染態幼虫の侵入率は、保菌線虫よりも低かった。無菌および保菌線虫は、無菌および無菌化していないハチノスツヅリガおよびハスモンヨトウ幼虫の両方を殺した。しかし、無菌線虫は、保菌線虫に比べて殺虫に時間がかかり、無菌昆虫の殺虫により時間がかかった。無菌線虫は昆虫体内で発育し、増殖したが、保菌線虫に比べて発育や増殖は遅れた。無菌線虫が感染した昆虫組織の崩壊は、保菌線虫が感染した幼虫に比べて遅く、昆虫体液のメラニン化の抑制は無菌の線虫では認められなかった。以上、S. carpocapsaeは細菌の非存在下でも殺虫力および昆虫組織の分解力を有するが、保菌線虫に比べて無菌線虫は病原性が低いことが示唆された。

  • -東北日本の一水田における土壌線虫群集構造より-
    竹本 周平, 秋田 和則, 片柳 薫子, 浦田 悦子, 伊藤 豊彰, 齋藤 雅典, 岡田 浩明
    2016 年 46 巻 2 号 p. 45-58
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/05/10
    ジャーナル フリー

    地上の野生生物保全に対する水田の冬期湛水の有益性が示されているが、土壌生物への影響は検討されていない。そこで、東北地方にある試験水田:有機栽培+冬期湛水(WFO)、有機栽培のみ(NFO)、慣行栽培区(冬期湛水なし、化学肥料と農薬使用;CVN)において、1 年半あまりの間土壌を定期的に採取し、線虫の密度を推定した。また線虫の多様度を、リボソームRNA の18S サブユニットを対象としたPCR -変性勾配ゲル電気泳動分析によって評価し、34 の操作的分類単位を識別するとともに、Tobrilus spp. とHirschmanniella sp. が優占的であることを見いだした。統計分析の結果、0–5cm の土壌深度では線虫密度がWFO>NFO>CNV の順である一方、5–10 cm 深度での多様度はWFO<CNV<NFO の順であった。これらと土壌理化学性の分析結果とから、冬期湛水と有機栽培は、肥沃化により少なくとも土壌表層部の線虫密度を高めるが、冬期湛水は、より深い地点での土壌の還元化によって線虫の多様度を低下させる可能性があると考えられた。

  • 上杉 謙太, 岩堀 英晶
    2016 年 46 巻 2 号 p. 59-63
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/05/10
    ジャーナル フリー

    蒸留水中に産下されたクマモトネグサレセンチュウの卵の発育を15–35℃の条件下で観察した。卵期間は32.5℃で5.6 日と最も短く、15℃の28 日が最も長かった。20℃から30℃の間で観察された卵期間から推定されたクマモトネグサレセンチュウ卵の発育零点は11.8℃、有効積算温度は107 日度であった。また、キク根に接種した1 雌に由来する卵と線虫数の推移を20℃、25℃、30℃の条件下で観察したところ、次世代の産卵開始によると考えられる卵数の急速な増加が接種15–18 日後(30℃)、24–27 日後(25℃)、40–44 日後(20℃)に認められた。これらの結果は、クマモトネグサレセンチュウがキタネグサレセンチュウのような寒冷地型の植物寄生性線虫よりも熱帯・亜熱帯型の植物寄生性線虫に近い発育温度特性を持つことを示した。

短報(英文)
  • 岡田 浩明, 丹羽 慈, 広木 幹也
    2016 年 46 巻 2 号 p. 65-70
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/05/10
    ジャーナル フリー

    生物多様性保全におけるアジアの水田の重要性が認識されつつある。夏季のみ湛水される慣行水田の線虫相についてはすでに報告した。淡水池沼の底生に生息する細菌食性や藻類食性の線虫に加え、糸状菌食性や植食性の線虫から構成されていた。今回、谷津田を模して造成され、通年湛水状態にある水田の線虫相を報告する。0–50 mm の土壌深度を5、8、11 月に調査した。0–15 mm の深度に線虫個体の半分以上が集中し、6月の代掻きと田植えによる攪乱後にはこの傾向が強まった。しかし、食性群や分類群の構成は季節によらず安定し、土壌層(0–15、15–50 mm)によらずほぼ同一であった。淡水池沼の底生に生息する典型的な分類群で構成され、Aphanolaimidae とLeptolaimidae の細菌食性線虫が優占する一方、糸状菌食性と植食性の線虫はほとんどいなかった。こうした水田の線虫相は当然ながら、隣接する陸域環境のそれとかなり異なっていた。しかしながらその中には、細菌食性のMonhysteridae 等陸域でも検出されるものがいた。

  • 北上 雄大, 鳥居 正人, 松田 陽介
    2016 年 46 巻 2 号 p. 71-78
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/05/10
    ジャーナル フリー

    土壌線虫の種多様性や豊富さは土壌生態系での環境変化を反映する指標になると考えられている。比較的単純な森林生態系である海岸マツ林は線虫群集を特徴づけるよいモデル系になると考えられる。よって本研究では海岸クロマツ林の線虫群集構造を決定することを目的とした。1 年を通して経時的に海岸林の砂質土壌から線虫を分離し、形態学的特徴にもとづいて科、属に分類し食性群を決定した。その結果、7295 個体を観察し全部で18 分類群に分けられた。18 分類群のうち,Aphelenchoides(24.3%)、Ditylenchus(19.0%)、Acrobeloides(18.6%)が優占した。食性群組成は常に細菌食性と真菌食性が優占し,採取時期に関わらずその出現割合は同程度であった。したがって、海岸林での物質循環には細菌食性と真菌食性の線虫が特に大きく関わっていると示唆された。

短報(和文)
研究資料
  • 植松 繁, 神崎 菜摘, 水久保 隆之
    2016 年 46 巻 2 号 p. 83-86
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/05/10
    ジャーナル フリー

    2015 年2 月に石川県金沢市末町の育苗ビニルハウスに発生した萎縮症状を示すスイゼンジナの幼株の根から夥しい量のネグサレセンチュウが分離された。後日、この苗を植えた金沢市樫見町の本圃でも同じネグサレセンチュウの発生が確認された。形態形質に基づく同定により、本種はキタネグサレセンチュウやニセミナミネグサレセンチュウから区別される未知のネグサレセンチュウであると判明した。本種は唇部体環が2 または3 に見え、食道腺の腸との重複が比較的長く(43–68 μm)、後部子宮枝が相対的に長く痕跡的卵巣をとどめていた。リボソームRNA のSSU、ITS1,ITS2、D2-D3 LSU の全配列の決定を試みたが、PCR による直接配列決定では明確な分子配列を得られなかった。

  • 植原 健人, 櫻井 まさみ, 大仲 桂太, 立石 靖, 水久保 隆之, 中保 一浩
    2016 年 46 巻 2 号 p. 87-90
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/05/10
    ジャーナル フリー

    サツマイモネコブセンチュウMeloidogyne incognita は、世界中でナス科植物に対する重要な有害線虫である。国内のナス用台木のサツマイモネコブセンチュウに対する抵抗性や密度抑制程度を評価するために実験を行った。その結果、いずれもSolanum torvum である3 種類のナス用台木品種「トナシム」、「トレロ」、「トルバム・ビガー」が、他のナス用台木品種に比較して、接種45 日後で形成卵嚢数が有意に少ないことが示された。次に線虫汚染土を使用して「トナシム」の効果を調査した。栽培116 日後で、S. melongenaである「千両2 号」と「台太郎」より、有意に線虫密度が低下することが示された。これらの結果は、国内のS. torvum であるナス用台木品種はサツマイモネコブセンチュウに抵抗性であり、土壌中の線虫密度を抑制できることを示唆している。

日本線虫学会第24 回大会講演要旨
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