フィリッピン産
Prionochilus 属の2種のハナドリ類の舌を調査し,再記載した.この舌(Fig.1)は,比格的肉質で厚く,上面はむしろ平らで,先端がささくれている.ハナドリ科の中では原始的な
Melanocharis 属の舌(Fig.2)に構造•形状ともきわめてよく似ている.
いっぽう,
Dicaeum 属のハナドリ類の多くの種では,舌の前半部は薄い角質で,2部に分かれ,ひも状ないし半管状の突起を形成している(Figs.3-7).もっとも特殊化の進んだ
Dicaeum nigrilore の舌(Fig.10)は,先端が6部に分かれ,その外縁にはブラシ状の毛がある.しかし,
Dicaeum 属の中でも嘴の厚い種は,
Melanocharis 型の単純な舌を持つ(Figs.13-15).
一般に,より特殊化した型の舌は嘴の細長い
Dicaeum 属のハナドリ類に見出されるが,例えば
Dicaeum celebicum のように,嘴が細長くても
Melanocharis 型の舌を持つものがある(Fig.11).
Prionochilus 属の舌は,明らかに花蜜や花粉の採食に適応していない.したがって,彼らの食性は,
Melanocharis 属の場合と同様に,小果実•漿果•種子などを主とし,昆虫類やクモ類も食べていると考えられる.
舌の形態からみると,
Dicaeum 属の多くの種は花蜜食に適応している.しかし,ハナドリ科にはタイヨウチョウ科のように完全に管状の舌を持つものはなく,花蜜や花粉は彼らの食物の比較的小部分を占めるにすぎないであろう.もし花蜜や花粉が主食であるならば,管状の舌が進化したに違いない.
ハナドリ科では,舌は果実食の
Melanocharis 型から,花蜜食も可能な先端の分かれたもの(
Dicaeum 属の大部分の種)へと進化したが,
Prionochilus 属や
Dicaeum 属の一部の種では,何らかの理由で花蜜食の必要がなかったために,原始的な形態の舌がそのまま残ったと推察される.
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