ヤブサメの繁殖に関しては,OHARA&YAMAGISHI(1984,1985)により,育雛期にヘルパーの現れる巣が,かなり多く見られることが報告されている.著者らは,1994年6月に札幌市郊外の山火再生広葉樹林において,雌のみで巣作り,産卵を行なった巣を確認した.その巣では,育雛期に突然2羽の雄が現れ,1羽はときどき巣をおとずれるが,ほとんどさえずらず,もう1羽は頻繁に巣の周辺を動き回り,活発にさえずった.両者ともヒナへのわずかな給餌が認められたが,前者の方がかなり多かった.またこの間,前者は隣接した自分の巣からの巣立ちビナをも給餌しており,後者はやはり隣接した巣の持ち主であったが,その巣は直前にヘビに捕食されていた.そこで,巣内ヒナ(5羽),雌,育雛に関与した2羽の雄,さらに無関係と思われる雄1羽の合計9羽から血液を採取し,DNAフィンガープリント法を用いて父子鑑定を試みた.その結果すべてのヒナが,ほとんどさえずらず,時折り巣を訪れるだけの雄の子であると思われた.これらのことから,今回の例は同時的一夫二妻の巣に隣接雄が一時的にヘルパーとして参加したものと思われた.同時的一夫多妻がどのような原因で起こったかは不明であるが,この雄が3年間続けて調査地へ渡来し,繁殖を成功させていることから,経験雄が一夫多妻を成功されるのに有利であることが考えられた.しかし第一巣の抱卵期にまだ雄に防衛されていない雌が近くに存在することがほとんどないことから,本種では一夫多妻はかなり偶発的な現象であると思われた.
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