日本鳥学会誌
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44 巻 , 3 号
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  • 江崎 保男, 浦野 栄一郎
    44 巻 (1995) 3 号 p. 107-122,209
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    分布域の広い生物種は、地域によって異なる環境に適応してきた結果、個体群によって異なった生態や社会システムを示すことがある。旧北区に広く分布するオオヨシキリは、ヨーロッパの個体群も日本の個体群もなわばり型一夫多妻制の社会をもつことが知られているが、個体群によって生態や社会行動に違いのあることもわかってきた。この論文では、個体識別に基づいて詳しく研究されてきたオオヨシキリの5個体群について、個体群間の類似点と相違点を明らかにし、なぜ個体群によって結果が異なるのかを論じる。
    なわばり型一夫多妻制の進化を雌にとっての適応性という観点から説明する作業仮説として「一夫多妻のいき値モデル(PTM)」(VERNER 1964,0RIANS 1969)が、知られている。このモデルは、「雌は一夫多妻で繁殖するとコストがかかるにもかかわらず、未婚雄でなく既婚雄を選んで一夫多妻になるのはなぜか?」を説明するもので、「既婚雄が未婚雄よりもはるかによいなわばりをもっていれば、その既婚雄とつがうことで、一夫多妻繁殖のコストを補償するないしは上回る利益が得られるから」というのが、その答えである。そして、生息場所の不均質性によって、雄のなわばり間でその質に大きな差があることが、一夫多妻の究極的な原因と考えられている。本論文では、このモデルの論理を表す6つのキーワード(下線;Fig.1)に焦点を当てて、オオヨシキリの個体群間比較を行う。
    対象とするのは、日本の琵琶湖(LB)と河北潟(KH)、ポーランドの Milicz(ML)、ドイツの Franken(FR)およびスウェーデンの Kvismaren 湖(LK)の各個体群である(Table 1)。ヨーロッパの個体群は亜種 arundinaceus に、日本の個体群は orientalis に属する。基本的な繁殖生態に5個体群で違いはなく、いずれも、雄が雌よりも先に渡来してなわばりをもつ、雌が雄のなわばりに定着する形でつがいが成立する、一部の雄が一夫多妻となる、といった点で、PTMで前提となる基本条件を満たしている。各個体群の一夫多妻雄の割合は10%以上から50%近くまでの幅があったが、1個体群の年変異も大きかったので、一夫多妻雄の割合の違いが、個体群間の何らかの差異に基づいているわけではない。
    6つのキーワードのうち、繁殖のコスト、利益および適応性については、繁殖結果から評価できる。まず、PTMが当てはまるのであれば、既婚雄を選んだ雌の平均繁殖成功が同じ時期に未婚雄を選んだ雌と比べて低くなることはないだろう(雌にとっての適応性)。また、異なるタイプの雄を選んだ雌の間で卵や雛の死亡原因を比べることで、一夫多妻繁殖のコストと利益が検出できる場合がある。FRでは一夫一妻雌に比べて一夫多妻第二雌の成功度が極端に低く(Fig.2)、PTM否定されたが、LBとLKではPTMが支持され、ML、KHでも否定はされなかった。卵•雛の主死亡要因は、一夫一妻巣では各個体群とも捕食だったが、第二雌巣については個体群によって異なり、ヨーロッパの3個体群では雛の餓死が多く、日本では、LBで非孵化、KHで捕食が多かった(Table2)。LBとMLでは第二雌の巣に対する捕食圧が低く、またLKでは第二雌の一腹卵数が多いため、結果的に、既婚雄を選んだ第二雌と未婚雄を選んだ雌の繁殖成功に差はなかった。これらの利益は、LBではなわばり内の植生が密なことによって、MLでは複数家族での集団防衛によって、LKではおそらくなわばり内の餌条件の良さによつて得られたものと考えられている(Table3)。
    第二雌の雛に対する雄による給餌が少ないことは、各個体群に共通する一夫多妻繁殖の(潜在的)コストである。ヨーロッパの個体群では、このために第二雌の雛の多くが餓死したが、日本の個体群では餓死は少なかった。日本で第二雌の雛も十分に給餌され、餓死が少なかったのは、繁殖期の気候がより温暖なため、雌が抱雛時間を減らして餌運びに集中でき、雄による給餌不足を補えるためであろう。また、日本ではヨーロッパに比べ、同じ雄とつがう雌同士の育雛期のずれがより大きいため(Fig.3)、雄が両方の雛に給餌することも可能となる。これはとくに寒かったり雨が続くような場合には意味をもつだろう。ヨーロッパでは、日本と比べて雌の定着(つがい形成)期間がより短く、同調的なこと(Fig.4)が、雌同士の繁殖サイクルのずれを大きく保とうとする場合の制約になっている可能性がある。一夫多妻雄がどちらの雌の雛に給餌するかは、つがい形成順ではなく、孵化順によって決まる。
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  • Andrzej DYRCZ
    44 巻 (1995) 3 号 p. 123-142,211
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    本論文では文献および未発表データに基づいて、オオヨシキリの個体群を比較することを目的とし、とくに基亜種 A.a.arundinaceus と東アジア産亜種 A.a.orientalis との違いに注意を払う。異なる地域(Figs.1 & 2)の19個体群(基亜種13、東アジア産亜種6)での研究を比較の対象とする。
    大部分(17)の個体群において、本種はさまざまな種類のヨシ原に生息し、ほとんどの場合、ヨシの茎に営巣する。2個体群は例外的で、チェコのNamestske養魚池では抽水植物帯に優占するガマに営巣し、極東アジアのChanka湖では湖岸沿いに広大なヨシ原があるにもかかわらず、大部分の巣は林縁のやぶや低木に造られた(Table 1)。Chanka 湖では比較的多くの巣が乾燥した土地に造られたが、このようなことはヨーロッパではきわめてまれであり、日本でもまれである。一般的に亜種 orientalis の個体群では基亜種に比べて繁殖密度がはるかに高い(Table 2)。理由の一部は亜種 orientalis の生息場所の方が人間による改変をより強く受けているためと考えられる。日本のヨシ原ではオオヨシキリが繁殖鳥の優占種だが、ヨーロッパではふつう、ヨーロッパヨシキリ、オオジュリン、オオバンなどの方が数が多い。ヨーロッパではオオヨシキリと競合する可能性があるヨーロッパヨシキリが日本に生息しないことは、日本でオオヨシキリが非常に高密度な理由の1つかもしれない。
    平均一腹産卵数は南から北に向けて少し多くなる傾向がある(Table 3)が、東西の亜種間に基本的な違いは見いだせなかった。
    営巣失敗の個体群間での違いに、地理的な傾向は見られなかった(Table 4)。失敗の主な理由は捕食によるものだった。ヨーロッパに比べて、日本ではヘビ類がより重要な捕食者と考えられる。人手の加わった生息場所に棲むネズミ、オナガ、ハシボソガラスのような動物についても同様と考えられる。スウェーデンの Kvismaren 湖では卵や小さな雛への加害者として、同種の個体が重要と考えられている(BENSCH & HASSELQUIST 1993)。これはとくに、一夫多妻第一雌の卵を破壊することで、自身の社会的地位と適応度を上げることのできる第二雌にあてはまるだろう。
    雛全員の餓死はヨーロッパ個体群に限られるようで、日本では巣内の1雛しか餓死しない(EZAKI 1990)。理由の1つは一夫多妻の同じなわばり内の雌の間での巣内雛期の重なり具合にあるのかもしれない。同じなわばり内の雌の初卵産卵日のずれは、ヨーロッパ(ポーランド、スウェーデン)ではたいてい5日以内だが、日本では14日程度ある。このため、第二雌の雛に対する雄親の給餌が、日本ではヨーロッパよりもふつうにみられる。日本で雛の餓死がまれな別な理由は温和な気候にあるかもしれない(URANQ 1990a)。
    カッコウによる托卵は亜種 orientalis でより一般的なようだ(Table 5)。卵の孵化率には2亜種間で大きな違いはない(Table 6)。巣当たりの平均巣立ち雛数には場所や年度によって1.84羽から3.57羽までの変異がみられ、最大値と最小値はスイスの同じ個体群で2年間に得られたものである。雛が与えられる餌内容の個体群間での類似性は、地理的分布によるものではなく、生息場所のタイプによる(Tables 7 & 8)。
    一夫多妻の頻度がもっとも高かったのは、本種の地理的分布範囲の北端と南にある2つの富栄養湖においてだった(Table 9)。他の9個体群では一夫多妻雄の割合は14.3%から27.8%だった。
    本州~中国東北部の方がヨーロッパ中央部よりも南に位置し、気候もいくらか温和にもかかわらず、平均初卵日は遅かった(Table 10)。
    2亜種間の顕著な違いは換羽と渡りにみられる。基亜種の大多数の個体は晩秋にアフリカ北部で完全換羽を行ってから赤道以南の越冬地へと移動する。亜種 orientalis の大多数は繁殖期直後に繁殖地かその近くで完全換羽し、成鳥•幼鳥とも秋の渡り前に換羽を完了する。基亜種に比べて亜種 orientalis は渡りの期間が短く、越冬地で過ごす期間が長い(NISBET & MEDWAY 1972,EZAKI 1984,1988)。
    オオヨシキリの繁殖生態の諸側面に関する個体群間の違いは亜種の区分と一致するものと結論できるだろう。すなわち、亜種 orientalis の個体群の方が、生息場所に対する耐性が強く(やぶや低木、また水のない場所での繁殖)、繁殖密度が高く、巣内雛の餓死が少なく、カッコウの托卵を多く受ける。ただし、これらの特徴のいくつかは、研究された orientalis 個体群のいくつかが人為的に著しく改変された場所に棲んでいるという理由によるのかもしれない。一方、一腹卵数、巣の全滅、孵化率、巣立ち雛数、巣内雛の餌内容は、亜種の区分とは関係のない個体群間の変異を示した。
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  • Staffan BENSCH
    44 巻 (1995) 3 号 p. 143-155,213
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    スウェーデンの Kvismaren 湖で1984-1993年の10年間、孤立したオオヨシキリの個体群を研究した。毎シーズン、ほとんどすべての成鳥と巣内雛に足環をつけた。本論文では、適応度と相関のありそうな諸変数の年度間の変異を検討し(Table 1)、とくに繁殖成功については、子の養育に雄の援助をほとんど期待できない雌(一夫多妻第二雌)のものを雄の援助が期待できる雌(一夫一妻雌と一夫多妻第一雌)と比較した。これら2群の雌の相対繁殖成功度は、一夫多妻繁殖のコストの指標として利用できる。
    雌成鳥の帰還率、雌当たり巣立ち雛数、全滅した巣の割合は年度間で有意に異なり、他の2変数(雄成鳥の帰還率と一腹卵数)についても、有意ではないがかなりの年変異がみられた(Table 1)。雄成鳥と雌成鳥の平均帰還率は等しい(55%)が、両性の年変異の間に相関はなかった。巣立ち雛の繁殖齢までの帰還率は平均15%で、雄•雌成鳥の帰還率のいずれとも相関はなかった。
    年度毎の雌当たり平均巣立ち雛数は繁殖期の平均気温と正の相関がみられた(Fig.1)。例外的に高温だった1992年のデータを除外すると、第一雌(一夫一妻雌を含む;以下も同様)も第二雌も気温との相関は有意だった。また、第一雌に対する第二雌の相対的成功度も気温が高い年ほど高かった(Fig.2)。これは温かい夏よりも冷たい夏の方が、一夫多妻繁殖のコストが大きいことを示唆するものであろう。
    一腹卵数および相対繁殖成功度(第二雌/第一雌)における変異は、10年分のデータを順次加算するにつれて増大した(Fig.3)。これは、研究期間がまだ短くて年変異の幅を捕捉できていないか、これらの変数が調査期間全体を通じてある規則の下で変化しているかの、いずれかを意味するのだろう。
    3つの変数が、調査期間終盤になって繁殖の条件が悪化したことを示している。すなわち、一腹卵数は期間中に減少し(Fig.4)、巣立ち直前の雛の体重および相対繁殖成功度(Fig,2)は、最近とくに低い。これは種内競争が繁殖の結果に影響するほどに、個体数が増加したこと(Fig.5)を意味するのかもしれない。次のような説明も考えられる。最近5年間は冬の気候が例外的に温和で(Fig.6)、この間に調査地のフナ Carassius carassius の個体数も急増している(Fig.7)。フナは湖の無脊椎動物相に負の影響をおよぼす場合があるので(ANDERSSON et al. 1990, ORIANS 1980)、Kvismarenでのオオヨシキリの繁殖成功の低下は、フナの増加によって生じた餌不足が原因かもしれない。しかしながら、オオヨシキリの増加とフナの増加による種間競争の激化とは同時に進行したので、繁殖条件の悪化がいずれの原因によるものかを現時点で見きわめるのは不可能である。
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  • 浦野 栄一郎
    44 巻 (1995) 3 号 p. 157-168,214
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    雌が既婚雄と繁殖する際の不利益として、雄があまり雛に給餌しないことが雛の生存や成長に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。オオヨシキリ Acrocephalus arundinaceus の場合も、一夫多妻の第二巣では一夫一妻巣に比べて、雄による給餌が少ないことが、日本およびヨーロッパの数地点から報告されているが、これが実際に雛の餓死に結びつくかどうかは、調査地点によって異なっている。著者は以前に、石川県河北潟のオオヨシキリの繁殖生態を、より気候の冷涼なポーランドでの報告(DYRCZ 1977, 1981, 1986)と比較し、一夫多妻の第二巣の雛に餓死が集中するかどうかは、気候条件および同じ雄とつがう雌同士の巣内雛期の重複程度と関係することを指摘した(URANO1990b)。この仮説に従えば、河北潟よりも冷涼な北日本のオオヨシキリ個体群では、雄による給餌の雛にとっての重要性が高いと考えられる。このような状況では、雛が餓死する危険を小さくするために、雌は既婚雄よりも独身雄を好んだり、既婚雄を選ぶ場合も雌同士の繁殖サイクルの重複が少なくなるようにつがうことが予想される。
    調査は、青森県東部の高瀬川下流域のヨシ原で1989-1990年に行った。6月~7月初めの気温は1989年の方が低かったが、7月中旬以降は両年で差がなかった(Fig.1)。色足環で識別した個体の行動を観察し、巣内容の確認を繰り返し行った。育雛行動は直接観察またはビデオカメラによって記録した。
    一夫多妻雄•一夫一妻雄•独身雄の割合は、それぞれ、1989年(計22雄)は14%•64%•23%、1990年(計17雄)は24%•47%•29%だった。
    雌の定着パターンには2年間で違いがみられた(Fig.2)。1989年の調査地Aでは、早く定着した雌は既婚雄とではなくすべて独身雄とつがい、もっとも遅く定着した2羽だけが既婚雄とつがって一夫多妻第二雌となった。1990年にはそのような雌同士の避け合いは認められなかった。また同じなわばりに続けて定着した2羽の雌の間に強い対立関係があることが示唆された。同じ雄とつがった雌同士の産卵開始日のずれは、1989年(平均21.0日)の方が1990年(平均15.5日)より大きく(ただし有意差なし)、もっとも早い第二雌の繁殖も、1989年は1990年よりも8-9日遅れて始まった。このため、1989年の第二雌が雛を育てたのは、低温期が過ぎた7月中旬以降だった。
    一夫多妻雄の第二巣への給餌頻度は一夫一妻雄よりも有意に低かった(Fig.3上)が、雌雄合わせた給餌頻度に差はなかった(Fig.3中)。雄の給餌分担率は一夫多妻の第二巣で低かった(Fig.3下)。雄の給餌頻度は気温の影響を受けなかった(Fig.4下)が、雌ではとくに低温の時には給餌頻度が低くなり、気温(X)と給餌頻度(Y)との関係は
    Y=1.71*(1-exp(-0.59*(X-13.04)))
    という飽和型曲線で近似できた(Fig.4上、Quasi-Newton法)。
    雌による抱雛時間は雛が小さい時期(日令2-4日)に長く(平均16.9分/時間)、この時期には抱雛時間と気温との間に負の相関がみられた(Fig.5)。
    一夫多妻第二巣への雄の給餌は第一巣との孵化日のずれが大きい(23-32日)場合にみられ、ずれが小さい(14-16日)場合には、雄は第一巣の巣立ち雛に給餌していた。
    一夫多妻第二巣での、巣内雛の一部の平均死亡消失率(4.0%)および7日令での平均体重(17.4g)は、第一巣の雛(11.7%;18.7g)や一夫一妻巣の雛のもの(6.0%;18.3g)と有意差がなく、第二巣に対する雄の給餌の少なさの、雛の生存•成長への影響は認められなかった。
    捕食による繁殖失敗の割合は一夫多妻第二巣で高かった(43%;第一巣と一夫一妻巣はともに17%、ただし有意差なし)。雌あたり平均巣立ち雛数は一夫一妻雌3.7羽、一夫多妻第一雌3.3羽、第二雌3.0羽で、第二雌は一夫一妻雌の82%の雛を巣立たせたことになる(有意差なし)。
    一夫多妻雄の第二巣への給餌は少なかったので(Fig.3)、第二巣の雛では栄養状態が悪かったり、餓死する確率が高まる可能性があるが、実際にはそうならなかった。雌は自身の給餌頻度を高めるか、雄により多く給餌してもらうことで雛の餓死を避けることができる。第一雌や一夫一妻雌は雄の援助を得やすいが、第二雌にとっては困難なので、自身の給餌頻度を高めることが第二雌にとって唯一の確実な手段となる。
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  • Bernd LEISLER, Josef BEIER, Georg HEINE, Karl-Heinz SIEBENROCK
    44 巻 (1995) 3 号 p. 169-180,215
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    ドイツのBavariaにある養魚池群のオオヨシキリ個体群において一夫多妻繁殖のいくつかの側面について調査した。18年間に得られた、少なくとも片親が色足環で個体識別されている428巣の記録を分析の対象とした。
    対象となった雄の数の15年間の平均は30羽/年で、そのうち11.3%は一夫多妻、13.9%は独身だった。
    一夫多妻の第一巣では第二雌の巣よりも10日早く産卵が始まった(Fig.1)。
    繁殖結果の統計値をTable1にまとめた。第二雌の巣立ち雛数は一夫一妻雌よりも低かったが(相対成功度は0.79)、同時期に一夫一妻だった雌とは有意に異ならなかった(相対成功度は0.85)。繁殖集団に加わることのできた巣立ち雛の割合は第一雌の雛がもっとも高かったが、一夫一妻の雛と第二雌の雛とでは有意差はなかった。したがって、一夫多妻のいき値モデルを排除することはできない。
    雄の配偶ステータスには年齢が影響し、年長の雄がより高い割合で一夫多妻になる(Fig.2)。年齢と雌の配偶ステータスとには有意な相関はなかった(Fig.3)。雄の最年長記録は11歳、雌は10歳だった。
    雌による配偶者選択における雄の質となわばりの質との相対的な重要性を知るために、29雄(一夫多妻4羽、一夫一妻22羽、独身3羽)を対象に、判別分析を用いて3種類のなわばりの特徴と11種類の雄の特徴(身体的な形質、年齢、さえずりのレパートリー数、攻撃性、ホルモンレベル)を分析した。一夫多妻を予測するもっとも有効な基準となるのは、開水域に面したヨシ原の縁が長いこと、攻撃性が弱いこと、さえずりのレパートリー数が多いことであった(Table2,Fig.4のaxis1)。第二の判別軸に沿っては3群の雄が十分に分離されていないが、この軸は若齢、短い翼と総排泄腔突起、レパートリー数の少なさおよび黄体形成ホルモン(LH)のレベルが低いことを表している。ヨシ原の縁の長さは営巣場所としてだけでなく、採食生態上も重要なのかもしれない。一夫多妻雄の攻撃性の低さは、それらが早い時期に渡来することとテストステロンのレベルの季節的減退によって説明できるだろう。
    結論は次の3点である。(1)一夫多妻が生じることの説明を、以前の論文で支持された「だまし仮説」に求める必要は必ずしもない。(2)本調査地は一夫多妻のための生態的条件に関して最適な場所とは言えないが(不自然に多い魚のために餌供給が抑えられている、一夫多妻の頻度もやや低い、1雄とつがう雌数が2羽を越えることはほとんどない、雛の餓死がやや頻繁に生じる)、雌による積極的な配偶者選択を可能にするのには十分な、繁殖条件の予測可能な差異が存在するようだ。(3)雌は雄の特徴となわばりの質の両方を基に配偶者を選んでおり、雄•なわばり双方の要因には正の相関がある。
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  • Dennis HASSELQUIST
    44 巻 (1995) 3 号 p. 181-194,216
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    スウェーデンの Kvismaren 湖で繁殖するオオヨシキリの個体群について、個体群統計学上の種々の変数と生涯繁殖成功度を分析した。1985-1993年のシーズン中ほぼ毎日調査を行った。全繁殖個体に個体標識をつけ、巣立った雛の95%以上に足環をつけた。
    年度を越えて同じ繁殖場所へ戻ってきた成鳥の割合は、雄で55%、雌で51%と高かった(Table 1)。調査地で巣立った雛で、翌年繁殖のために戻ってきたものの割合も高かった(14%;Table 1)。ある年度に繁殖に失敗した個体と成功した個体とで、翌年の帰還率に違いはなかった(Table 1)。毎年の繁殖個体の約50%は、調査地外で巣立ったものだった(Table 2)。平均寿命は雌雄とも3年だった(Fig.1参照)。調査地で生れ調査地に定着した個体と他所で生れて移入してきた個体とで、寿命に差はなかった。代替繁殖戦略(つがい外交尾や種内托卵)の効果は低かった-1987-1991年に巣立った雛の95%以上についてDNAフィンガープリント法で真の親を同定した結果、つがい外の雄によって授精されていた雛は3%に過ぎなかった(HASSELQUIST et al. 1995)。生涯に巣立たせた子の数は、雄親では平均10.5羽、雌親では7.7羽だったが、雌雄とも個体差が大きく、次世代の雛の50%を巣立たせたのは繁殖雄の17%、雌の20%の個体だった(Fig.2参照)。生涯に産み出した、成鳥として定着できた子の数は、雄親当たり1.86羽、雌親当たり1.4羽だったが、やはり個体差が大きく、成鳥として定着した子の50%以上が、17%の雄、13%の雌によるものだった(Fig.3参照)。調査地生れの個体と移入個体とで、雛を巣立たせるのに成功したものの割合や子が成鳥として定着できたものの割合には差はなく(Table 2)、生涯に巣立たせた雛数や成鳥として定着できた子の数にも差はなかった(Figs.2-3参照)。これらの結果は、調査地に移入してきたオオヨシキリが地域個体群への新しい遺伝的素材をもたらすという点で重要な貢献をしていることを示唆する。
    調査地の個体群では、r≧0.25の近親個体間での繁殖例はなく、もっとも近かった1例はいとこ同士(r=0.125)でのつがいだった。しかし、つがいの雌雄間での遺伝的類似性(DNAフィンガープリントのバンドの共有率で測定)と孵化しない卵の割合との間に有意な正の相関が知られている(BENSCH et al. 1994)。これらのデータは、調査個体群では近親婚(incest)によらない同型交配(inbreeding)が起こっていることを強く示唆する。この現象は創始者効果と個体群が小さいことによって説明されるかもしれない。それに加えて、分散距離が短いという一般的傾向が、近隣個体群間での大規模な個体の交流をもたらし(Fig.4)、互いに高い遺伝的類似性をもつことで(BENSCH et al. 1994参照)、近親婚によらない同型交配を促進してきた可能性もある。
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  • Clive K. CATCHPOLE
    44 巻 (1995) 3 号 p. 195-207,217
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    本論文ではヨシキリ属の配偶システムとその進化の考えられる筋道について概説する。これはLEISLER & CATCHPOLE (1992)の総説をより新しくしたものである。前著の発表以降、いくつかの分野で重要な進歩や新発見があった。とくに DNA フィンガープリント法による最近の研究は従来の知見に大きな衝撃をもたらしてきた。本論文ではまた、さえずりの進化に関する CATCHPOLE(1980,1987)による初期の研究をより新しいものに改め、さえずりの進化と配偶システムとの関係について論じる。
    配偶システムは次のように分類する:
    1.単婚(一夫一妻).1雄が1雌とつがう。
    2.複婚.1個体が複数の異性とつがう。
    2a.一夫多妻.1雄が複数雌とつがう。
    2b.一妻多夫.1雌が複数雄とつがう。
    2c,乱婚.雄•雌とも複数の異性とつがう。
    ヨシキリ属の配偶システムをTable 1にまとめてある。表の下の種ほど単婚的で、上の種ほど、単婚からはずれる度合いが大きくなる。セーシェルヨシキリ A.sechellensis は最近になって研究された種で(KOMDEUR 1992)、単婚だが協同繁殖種でもある。ヨーロッパ産の多くの種は単婚だが、最近になって社会的一夫多妻の例やDNAフィンガープリント法による、つがい外受精(EPFs)の証拠が報告されている(Table 1)。DNAフィンガープリント法は、一夫多妻性の2種間のきわだった違いも明らかにした。オオヨシキリ A.arundinaceus のつがい外受精率は3%と低いが、ハシボソヨシキリ A.paludicola では36%と高く、スズメ目全体の中でももっとも高い種の1つである。雛数の少ない巣ではすべての雛の父親は共通だが、雛数の多い巣では2-4雄によって受精させられている。同腹の雛の複数雄による受精は、ハシボソヨシキリが例外的に乱婚的配偶システムをもつことを示唆する。
    LEISLER & CATCHPOLE (1992)は、昆虫食と両親での養育の必要性とによる環境上の制約から単婚が生じたことを示唆した。ヨーロッパにおいては、「複婚を可能にする環境条件」は湿原の移行帯で生じるだけであり、そこでは豊富な大型昆虫が片親での養育を可能にする。抱卵と雛への給餌における雌雄間での分担のようすは Table 2に示されている。協同繁殖するセーシェルヨシキリでは両親が養育に参加するが、1羽の雛を巣立たせるにはヘルパーの援助を必要とする。他の単婚の種では両親が養育に参加し、複婚の種になって初めて、片親での養育がみられる。雄が養育から解放される傾向は、雄がまったく養育に加わらないハシボソヨシキリで頂点に達する。
    配偶システムは形態上の特徴とも相関がみられる。複婚の種はより大きなくちばしをもち、より大型の昆虫を餌にする。ハシボソヨシキリでは精巣と総排泄腔突起が相対的に大きく、より多くの精子を生産する。これらの特徴は、本種でみられる同腹の雛の複数雄による受精および例外的な乱婚的配偶システムと関係するのだろう。
    さえずりの構造と配偶システムの間にも明瞭な相関がみられる(Table 3)。CATCHPOLE(1980,1987)が示唆したように、単婚の種は配偶者を引きつけるための長くて複雑なさえずりをもち、複婚の種はなわばり防衛のための短くて単純なさえずりをもつ(Fig.1)。最近の研究は、複婚の種が配偶者誘引用の長いさえずりとなわばり防衛用の短いさえずりを別々にもつことを示している(Figs.2 & 3)。
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  • Eiichiro URANO, Yasuo EZAKI, Satoshi YAMAGISHI
    44 巻 (1995) 3 号 p. P1-P2
    公開日: 2008/09/11
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