日本鳥学会誌
Online ISSN : 1881-9710
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45 巻, 4 号
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  • 工藤 琢磨
    1997 年 45 巻 4 号 p. 201-214
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    イヌワシの行動調査を,1991年2月から1993年7月まで秋田県田沢湖町で行った.調査範囲は約 200km2で,調査時間はのべ566時間である.この論文は記録された行動内容のうち,主に止まり行動について解析したものである.解析は,巣からの直線距離で0.3km以上離れた地域での止まり場所の位置と利用回数及び時間と種内及び種間との争いについて行った.
    利用される止まり場所は,繁殖ステージや繁殖の成否に関係し,季節変化があった.止まり行動は巣内育雛期に多く観察された.この時期には種間の争いも多く観察されているが,他種の繁殖が始まる時期と重複するためと考えられる.巣内育雛期に観察される止まり行動の多くは巣から2km以内にあり,巣が直接見える場所が多く,巣と同標高ないし高標高の目立つ止まりが多いことから,巣や営巣中心域の所有の宣言に関する行動である可能性がある.また,ピーク上の止まりも,巣内育雛期にのみ観察され,同時に偽交尾が行われたこと等から,イヌワシの営巣中心域は巣から2km以内であることがわかった.種間の争いは,田沢湖町の個体が他種を攻撃したのが7回,他種に攻撃された工藤琢麿のが8回あったが,その多くは巣から2km以内であり,攻撃,非攻撃位置は混在していた.同種近隣個体問の争いはほとんど観察されなかった.よって,今回調査したイヌワシでは,顕著かつ頻繁な種内なわばりの防衛行動をとらないが,漂行個体が侵入したときは争いを起こす.また,同種や他種に対し,主に巣や営巣中心域(巣から2km以内)の所有を宣言し,維持していると考えられる.イヌワシにとって特に重要で常時行われる巣や営巣中心域の所有の宣言行動は,目立つ止まりやピーク上の止まり,波状飛行等であり,見張るというより,見せるための機能が強い行動であると考えられる.
  • 蔡 煕永
    1997 年 45 巻 4 号 p. 215-225
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2007/09/28
    ジャーナル フリー
    巣立ち時の体重は,巣立ち時にどのくらいのエネルギーを保っているのかを評価する尺度として知られており,巣立ち後の生存と関係がある(PERRINS 1965, O'CONNER 1976, GARNETT 1981, MAGRATH 1991).
    ニュウナイスズメ Passer rutilans は北海道に4月の下旬頃に飛来し,様々な環境で繁殖する(藤巻1984,1986,1994,1996).そのため,異なるハビタットによる巣立ち体重の差が見られることが考えられる.そこで,本研究ではハビタットの異なる防風林と孤立林におけるニュウナイスズメの巣立ち時の体重と翼長を比較し,その原因について考察した.調査は1995年と1996年の繁殖期において北海道南東部の農耕地に囲まれた3つの林で行った(防風林;帯広畜産大学の付属農場,42°48′N;143°11′E,孤立林2ヵ所;付属農場から約10Km離れている,42°48′N,143°06′E).防風林はほとんどがカラマツである.これに対して,孤立林はヤチダモ,ハルニレ,キハダ,キタコブシ,ハンノキ,イタヤが優占する落葉広葉樹林である.これらの2つの環境において合計213個の巣箱を設置し,繁殖した巣箱のうち,防風林において17巣,67羽について,孤立林において21巣,85羽について孵化日から巣立ち日まで毎日体重と翼長を計測した.糞トラップ(SOUTHWOOD 1978)を用いて,1995年の7月と1996年の4月後半から7月まで毎日昆虫の糞を採集し(雨の日にはサンプリングしなかった),糞の乾重量(mg/m2/日)を両調査地の餌の現存量を示す指標とした.1回あたりの給餌量は頸輪法(SUMMERS-SMITH 1995)と網法を用いて調べた.網法は巣箱の上にカスミ網を被せておいて親鳥が雛に給餌できないようにして餌を採集した.さらに,1時間当たりの給餌回数を調べるために,8mmビデオとタイムラップスビデオ(EVT-820)を20巣の前と内部に取り付けて,合計280時間撮影した.
    両調査地において初卵日の分布を見ると5月中旬と6月後半に2回のピークが見られたので,6月1日以前に産卵が開始された場合"前期繁殖",その後産卵が開始された場合"後期繁殖"とした.孵化時の平均体重と翼長は防風林において2.11±0.39g(mean±SD,n=94)と5.70±0.48mm(n=94),孤立林においてはそれぞれ2.18±0.44g(n=92)と5.83±0.41mm(n=92)で,両ハビタットにおいて差は見られなかった.体重の増加は孤立林のほうが防風林より早かったが,翼長の成長には両ハビタットの間に差が見られなかった.巣立ち日齢は前期繁殖と後期繁殖の間と,1995年と1996年の間に差がみられなかったが,一腹雛数の間とハビタットの間では有為な差が見られた.さらに,一腹雛数が2から4のほうが一腹雛数5から6より短かった.
    巣立ち体重は前期繁殖と後期繁殖の間と,1995年と1996年の間には差が見られなかったが,一腹雛数の間とハビタットの間では有為に異なった.さらに,巣立ち時の翼長は一腹雛数の間,ハビタットの間,年によって有意に異なったが,繁殖前期と後期との間では差が見られなかった.一腹雛数が2から5の巣立ち体重は防風林より孤立林のほうが有意に重かったが,一腹雛数6においては両環境における差が見られなかった.
    餌の現存量は,防風林より孤立林のほうが多かった.昆虫の幼中の糞は,前期繁殖より後期繁殖のほうが少なかった.両環境における1時間あたりの平均給餌回数は防風林で1時間当たり10.5~20.8回,孤立林で4.5~19.0回であったが,両ハビタットにおいて有意差は見られなかった.しかし,1回当たりの給餌量は防風林より孤立林のほうが有意に多かった.さらに,両ハビタットにおいて利用された餌は防風林で小さいものが頻繁に利用されたのに対して,孤立林ではより大きなものを主に利用した.
    巣立ち体重は様々な要因により影響されるが,もっとも重要な要因の一つは餌の現存量である(VAN BALEN 1973).本研究で,餌の現存量は防風林より孤立林のほうが多かった.したがって,孤立林において1回当たりの給餌量が多くなったと考えられる.巣立ち体重は一腹雛数2~5において,防風林より孤立林のほうが有意に重かったが,一腹雛数6の場合有意差が見られなくなった.このことから一腹雛数が多くなると親鳥から餌の量が制限されるため,兄弟間の競争が激しくなり,両環境において差が見られなかったと考えられる.Ross(1980)も同様な結果を報告している.
    一方,巣立ち体重は前期繁殖と後期繁殖のあいだに差が見られなかった.これは巣立ち体重が繁殖の時期の違いによって変わらないことを示している.このことはRoss(1980)の結果と同様であった.ニュウナイスズメの一腹卵雛は前期繁殖より後期繁殖のほうが少なく,繁殖個体群密度も後期繁殖のほうが少なかった(CHAE 未発表).そのため,餌の現存量が少ない後期繁殖の巣立ち体重と前期繁殖のあいだで差が見られなかったのだろう.
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