日本鳥学会誌
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60 巻, 1 号
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特集:鳥類モニタリングデータの集め方と使い方を考える
序文
総説
  • 藤田 剛
    2011 年 60 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    さまざまな鳥類モニタリングデータの中で,カウントデータはもっとも良くみられるものであり,対象とする鳥類や同じ生息地の他の生物の保全活動に重要な役割を果たしてきた.しかし,カウントデータには,たとえば同じ環境要因が実際の鳥の個体数に影響すると同時に個体の発見率にも影響するといった誤差が含まれていることが多い.ここでは,不確定要素の影響を推定する技術として,修正リッカー式を用いた数値実験と混合モデルをもちいた解析例を紹介した.これらの方法によって,カウントデータに含まれる観察誤差とプロセス誤差,それぞれの影響の大きさを推定することで個体数増減評価上注意すべき点を明らかにしたり,発見率の場所によるばらつきを考慮した上で増加率や生息密度の高い場所を推定したりすることが可能になる.日本には,30年以上にわたる広域モニタリングによって蓄積された鳥類のカウントデータがある.ここに挙げた方法などをもちいることによって鳥類カウントデータ解析がさらに進むことは,日本の鳥類をはじめとする生物多様性の保全に重要な役割を果たすものと考えられる.
  • 風間 健太郎, 伊藤 元裕, 富田 直樹, 新妻 靖章
    2011 年 60 巻 1 号 p. 12-18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    海洋における人間活動の影響によって,海洋生態系の重要な構成員である海鳥は現在その個体数を大きく減少させている.これら海鳥の保全のためには,その個体数や繁殖成績がどのような要因の影響を受けて変動しているのかを詳細に理解する必要があり,その繁殖や個体数モニタリングは必要不可欠である.本稿では,簡便な海鳥モニタリング調査である海岸漂着海鳥調査および船舶からの洋上分布調査(海上センサス)の手法を紹介し,その意義について解説する.海岸漂着海鳥調査は,一定距離の海岸を歩き,海岸に打ち上げられた海鳥の死体などを記録するという,簡便で市民が容易に参加できるモニタリング手法である.海上センサスは,調査船,商船やフェリーを用いて海鳥の洋上分布や行動についての調査するモニタリング手法である.特にフェリーによる海上センサスは,双眼鏡などがあれば誰でも実施可能な調査であるため,海岸漂着海鳥調査と同様に専門家でない市民でも実施可能なモニタリング手法の一つと言える.現在,海鳥がとくに頻繁に利用する海域(海鳥重要生息地)を特定する試みが世界中で進んでいる.海上センサスは,この海鳥重要生息地の特定において重要な情報を提供する.継続的な海岸漂着海鳥調査は,特定された海鳥の重要生息地において油汚染や海鳥の混獲などが発生していないかを継続的に監視する役割を担う.海岸漂着海鳥調査や海上センサスなどの市民参加型の調査が広く普及し,各地で定期的に,継続的に実施されることが期待される.
原著論文
  • 植田 睦之, 福井 晶子, 山浦 悠一, 山本 裕
    2011 年 60 巻 1 号 p. 19-34
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    日本の森林性鳥類の現状を明らかにするために2004年12月から2008年2月にかけて日本全国の253地点で行われた環境省のモニタリングサイト1000のデータをとりまとめた.種数,生息個体数,バイオマスと潜在植生との関係をみると,繁殖期の種数は落葉広葉樹林帯をピークとしてそれより南方も北方も少なくなっていたが,それ以外の変数は南方ほど高い傾向があった.また,寒冷な地域ほど夏鳥が多い傾向があり,温暖な地域ほど冬鳥が多い傾向が認められた.繁殖期は昆虫食の鳥の占める割合が寒冷な地域ほど高く,空中採食やとびつき採食する鳥の割合は温暖な地方ほど高い傾向が認められた.越冬期は寒冷な地方ほど地上で採食する鳥の割合が低く,樹幹を利用する鳥の割合が高かった.全国の鳥類相をクラスター分析により区分すると,繁殖期は4つに,越冬期は3つに区分され,その区分は潜在植生帯により説明できた.それらの区分を説明付ける種として,寒冷な森林に生息するヒガラParus ater,コガラParus montanus,ゴジュウカラSitta europaea,温暖な森林に生息するヒヨドリHypsipetes amaurotis,ヤマガラParus varius,メジロZosterops japonicus,などが挙げられ,今後,気候変動等による生態系の変化をモニタリングする上での注目種に成りうると考えられた.
  • 笠原 里恵, 神山 和夫
    2011 年 60 巻 1 号 p. 35-51
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    環境省の行っているガンカモ類の生息調査で得られた数値データとモニタリングデータを解析するソフトウェアであるTRIMを用いて,日本で越冬するカモ類13種における1996年から2009年までの個体数の増減を日本の8地方区分による地方別,また都道府県別に解析した.結果として,分析期間中,マガモ Anas platyrhynchos とコガモ Anas crecca は全国的に減少傾向にあった一方でキンクハジロ Aythya fuligula やスズガモ Aythya marila は全国的に増加傾向にあった.ヒドリガモ Anas penelope では地方による個体数の増減は少なかった.多くの種において個体数の変化傾向は県や地方によって異なっていたが,13種中9種が関東地方で,8種が中部地方で減少傾向を示し,8種が近畿地方で,5種が中国もしくは四国地方で増加傾向を示した.この結果は調査が行われている1月中旬において,多くのカモ類の分布が変化していることを示唆している.カモ類の個体数に影響を及ぼし得る要因として,繁殖地や越冬地の環境変化,餌付け状況や地球温暖化による移動距離もしくは渡りの時期の変化等が考えられるが,今後のさらなる研究が望まれる.
総説
  • 嶋田 哲郎, 溝田 智俊
    2011 年 60 巻 1 号 p. 52-62
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    マガン個体数が回復・増加した1975年から2005年の30年間における農産業の変化とそれにともなうマガンの食物資源量の変化および農作物被害の発生とについて,日本最大の越冬地である宮城県北部における経緯について論じた.1975~2005年にかけての減反政策にともない,水田面積は30%減少した.その間,圃場整備率は30%から61%に上昇し,それにともないバインダーからより落ち籾量の多いコンバインへの置換が進んだ.落ち籾現存量は,1975年から1995年にかけて2倍に増加したが,1995年以降は頭打ちとなった.1990年代後半になると,転作作物,中でも大豆の作付面積が増加した.落ち籾現存量をあわせた食物資源量全体をみると,落ち籾現存量は1995年以降頭打ちになったものの,その分を補填する形で転作作物現存量の増加にともなって食物資源量全体は増加した.こうした農地の利用形態の変化とマガンの個体数増加は,マガンが利用する採食地分布にも変化をひきおこした.2000年以降になると麦類や野菜類などへの農作物被害が顕在化した.被害はマガン個体数増加にともない落ち籾や落ち大豆などの収穫残滓を早期に食べ尽くすようになり,選択の余地のない必然的な状態で生じていた.しかしながら,捕食圧の低い場合には農作物の生産性を高める例もあり,適切な個体数管理によって農業に利益をもたらす可能性があることを示唆している.本稿は人間社会が本種に与える影響の強さを明らかにしたものであり,人間社会をモニタリングすることが本種の保全管理の上で必要不可欠であることが示された.
原著論文
  • 中田 誠, 千野 奈帆美, 千葉 晃, 小松 吉蔵, 伊藤 泰夫, 赤原 清枝, 市村 靖子, 沖野 森生, 佐藤 弘, 太刀川 勝喜, 藤 ...
    2011 年 60 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    多くの鳥類が渡りの際に訪れる新潟市の海岸林において,鳥類の春季渡来時期の経年変化と気温との関係を解析した.解析には1989~2008年の3月28日から6月11日の期間における各鳥種の中央到着日を用いた.解析対象条件を満たした29種のうち,本調査地への渡来時期が経年的に有意に早くなっていたのはスズメ(留鳥)とキビタキ(長距離性渡り鳥)の2種だった.一方,留鳥で1種,短距離性渡り鳥で4種,長距離性渡り鳥で4種の合計9種が新潟市の春季(3~5月)の平均気温が高いほど有意に早く調査地に渡来していた.本研究で得られた,気温に対する鳥類の春季渡来時期の変化率は,北アメリカやヨーロッパでの研究事例に匹敵するか,またはそれ以上の値であった.長距離性渡り鳥の中央到着日は短距離性渡り鳥よりも平均して11~12日間遅かったが,両者の気温上昇への適応度合いはほぼ同じだった.そのため,長距離性渡り鳥,短距離性渡り鳥ともに,気温上昇がその適応能力を上回れば,渡り鳥全般に影響の出る可能性がある.
  • 佐々木 智恵, 水田 展洋, 嶋田 哲郎, 溝田 智俊
    2011 年 60 巻 1 号 p. 73-77
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    日本三景松島の一部の島々でウミネコの繁殖にともなうアカマツ林の枯死が認められている.アカマツ林の保全対策を策定するため,松島の磯崎漁港内のウミネコ繁殖地において卵の油漬け(オイリング)による孵化抑制試験を行い,土壌へ供給される無機態窒素量の減少効果を検証した.ウミネコの孵化抑制試験区と対照区ではウミネコの営巣密度や産卵数など営巣状況に差はなかった.孵化率は孵化抑制試験区で0%,対照区で38~44%であった.オイリングによってウミネコの孵化をほぼ完全に抑制できることが明らかになった.しかしながら,試験区と対照区間で土壌の窒素含量に有意差が認められなかった.孵化率が低かったことが雛の成長による土壌への窒素供給量の低下につながり,有意差がでなかったものと解釈した.
  • 内田 博
    2011 年 60 巻 1 号 p. 78-87
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    埼玉県の標高約90mの丘陵と台地から成る地域の林でホトトギスの繁殖生態調査を行った.調査地ではホトトギスはウグイスだけに托卵を行っていた.宿主のウグイスの産卵は4月中旬から始まったが,ホトトギスは5月下旬に渡来して,6月初旬から托卵を始めた.ウグイスの全繁殖期を通した被托卵率は24%であったが,ホトトギスが托卵を始めた6月以降だけに限ると46%の高率になった.一方,ホトトギスの繁殖成功率は3%と低かった.調査地では高い捕食圧があり,ホトトギスの繁殖成功率の低さは,ウグイスの寄生卵の受け入れの拒否の結果ではなく,捕食に大きく影響を受けていた.ホトトギスの卵は赤色無斑で宿主のウグイスの卵に非常に良く似ているため,色彩では見分けられなかったが,卵サイズは宿主卵より大きかった.ホトトギス卵の孵化までの日数は平均で14日であり,宿主のウグイス卵より1から2日早く孵化した.ホトトギスの托卵行動は2例記録でき,托卵にかかった時間は18秒と19秒であった.宿主卵の捕食行動も記録できた.調査地ではウグイスの巣の卵が産卵期や抱卵期に1から数個減少することがあり,このような現象はホトトギスの捕食によるものと考えられた.ウグイスの巣からホトトギス卵だけが排除されることはなかった.巣が放棄される割合は托卵された巣で19%,されなかった巣で22%であった.ホトトギスは卵擬態の軍拡競争では,ウグイスに勝利していると考えられた.
  • 坂上 舞, 濱尾 章二, 森 貴久
    2011 年 60 巻 1 号 p. 88-95
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    鳥の営巣環境間での捕食率の違いの調査と捕食者を特定するために奄美諸島喜界島で擬巣実験を行った.擬巣実験によって捕食された巣の割合と生残確率の両方で,森林の巣が藪と草原の巣より容易に捕食されることが示唆された.また自動撮影装置を設置した擬巣では移入哺乳動物(クマネズミRattas rattasとニホンイタチMustela itatsi)とハシブトガラスCorvus macrorhynchosが捕食者となっていることが明らかとなった.個々の巣の隠蔽度または巣間の距離は捕食との間に統計的に有意な関係が見出されなかった.森での頻繁な巣の捕食は,環境内の捕食者種の多さと生態によって生じる可能性が考えられる.
短報
  • 天田 啓
    2011 年 60 巻 1 号 p. 96-99
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    オカメインコNymphicus hollandicusの排泄物からDNA精製キットを用いてDNA抽出を試みた.PCR法によりCOI遺伝子の増幅を行ったところ,排泄物から抽出したDNA溶液から750 bpのDNA断片の増幅が見られた.このDNA断片の塩基配列を決定後,DNAバーコードのデータベースを用いて解析したところ,オカメインコ由来のDNAであることが確認できた.このことから,DNAバーコードライブラリを利用した解析を行うために必要なDNA断片をPCRで増幅するための,十分な質と量のDNAをオカメインコの排泄物から抽出できることが示された.
  • 江田 真毅, 嶋田 哲郎, 溝田 智俊, 小池 裕子
    2011 年 60 巻 1 号 p. 100-104
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    ヒシクイAnser fabalisは北極圏で夏季に繁殖し,温帯域で越冬する.形態学的観点から,日本には東北地方の太平洋側で主に亜種ヒシクイが,北陸地方の日本海側と霞ヶ浦周辺で主にオオヒシクイA. f. middendorffii が越冬し,出雲平野で越冬する個体群の亜種は不明とされてきた.本研究では,4ヶ所の越冬地(宮城県・化女沼,新潟県・朝日池,福井県・坂井平野,島根県・出雲平野)で脱落羽毛を採集し,ミトコンドリアDNA・制御領域の塩基配列を決定して,先行研究と比較した.その結果,化女沼の試料はすべて亜種ヒシクイなどの系統に,朝日池の試料はすべてオオヒシクイの系統に含まれ,形態学的観点からの亜種区分を支持する結果となった.一方,亜種不明とされてきた出雲平野の試料は遺伝的にはすべてオオヒシクイの系統に含まれ,また,従来亜種ヒシクイが殆ど確認されていなかった坂井平野でも亜種ヒシクイの系統に含まれる試料が認められた.
観察記録
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