風力発電施設の建設が進められている青森県の十三湖で,この湖を春の渡りの中継地として利用するガン類とハクチョウ類の渡り状況を明らかにするために,渡り個体数,時期,飛去方向,飛去時の飛翔高度および飛翔軌跡について調査を行った.建設に係る整地実施前の2013年–2016年に行った調査から,ガン類では毎年35,000以上,多い年では115,000を超える個体が,ハクチョウ類では毎年3,000以上,多い年では6,500を超える個体が十三湖を経由して渡っていくことが分かった.ガン類では日の出前から,ハクチョウ類では日の出後から渡りが観察され,多くの群れが十三湖南東部の水田地帯を通って東側の河川沿いに北上するか,北東方面に渡っていた.その際,建設予定の風車の回転域の高さを飛翔する群れが多かった.塒と採食場所の移動では十三湖東部から南部にかけての水田一帯で飛翔頻度が高く,その飛翔高度は回転域の高さもしくはそれ以下の高さがほとんどであった.以上の結果から風力発電施設建設後にガン類やハクチョウ類が受けうる影響を検討した.十三湖を利用する渡り鳥の数の莫大さと,飛翔高度がタービンの回転域と類似していたことから,まず衝突の発生が懸念される.また風車が,渡り経路上の湖南東部および塒と採食場所の移動で飛翔頻度が高い河川沿いに建設されることは,これらの種の十三湖周辺の利用頻度の減少や迂回による飛翔コストの増大を生じさせる可能性があり,建設後の検証が不可欠であると考えられる.
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