北海道で繁殖するオジロワシの繁殖生態を調査した.知床地方では1963年から1978年まで16年間を通じて観察を行い,根室•宗谷地方は1971年から1978年の間,また釧路地方は1978年の繁殖期(4月~9月)に現地調査を実施した.得られた結果を要約すると次のとおりである.
(1)オジロワシの営巣地は一般に海岸近くの地域に限られる.しかし,湖沼や河川があるなど環境条件さえ満たされれば,海岸から25km離れた沿岸でも繁殖することがある.また,人家から350m程度のところに営巣したことがあり,繁殖は必ずしも人里離れたところで行われるとは限らない.
筆者が調査した巣はすべて樹上に作られていた.外国で報告されている岩棚の巣は,北海道ではまだ発見されていない.知床半島にはオジロワシの営巣可能と思われる岩棚がみられるが,ここでも岩棚でなく森林で繁殖している.
(2)営巣地の環境条件は,海岸に近く,付近に河川や湖沼があり,また周囲の全域が見わたせる小高い場所の森林である.
(3)営巣地の標高は,最も低いところで5m,最も高いところで380mである.
(4)営巣木の樹種は,メズナラ,ダケカソバ,トドマツ,アカエゾマツである.営巣木の目通り直径は,最小径20cm,最大径は128cm,平均65cmである.
(5)巣は,外径最大183cm,最小91cm,平均134×110cmの短だ円形である.巣の内径は最大120cm,最小65cm,平均89×83cm,厚さは最大202cm,最小40cm,平均86cmであった.
(6)地上からの巣の高さは最高25m,最低16.5mであった.
(7)巣作りは一年を通じて行われるが,産卵期にあたる3月になるととくに活発になる.巣の補強は雄雌とも行うが,枝の積上げは主に雌が行い,巣を放棄しない限り,抱卵•育すうに関係なく時折補強される.
(8)いったん作られた巣には強い執着を示し,風や枝折れによって大きく傾いた場合であっても,その上に新たに枝を積み,産座をつくり直して継続使用するのが通例である.
(9)巣材は,営巣場所によって材料の占める割合いが異なるが,もっともよく使用されるのはヤチダモ,メズナラ,ダケカンバ,カツラ,ハルニレ,トドマツ,アカエゾマツなどの枝で,つたではヤマブドウ,ゴトウヅルなどが使われている.
(10)産座にはオオスズメノテッポウ,クマイザサ,キタヨシ,ススキ,タカススキ,サルオガセ,ムギ,ダケカソバの皮,ゴドウヅルの皮および海草であるアマモ,永ソダワラなどが用いられ,ほかにトドマツの皮,根のついた牧草やクマイザサなども使われていた.
(11)正確な産卵期は不明である.抱卵期間を37-40日とし,5月初旬のふ化から逆算すると,産卵は3月中旬となる.卵は白に近い淡い空色で,5卵の平均値は73.2×54.2mmである.重量は平均126gであった.
(12)ふ化直後のひなの体重は110-115gで,淡灰色の綿毛でおおわれ,非常にひ弱な感じで横たわっている.ピィヨ,ピィヨまたチュリ,チュリと時々鳴く.
(13)巣の中には常に青葉の枝がある.ひなの行動から,身をかくす,直射日光の遮蔽,体温の調節,風を防ぐなどの働きがあることが判明した.ほかにひなのペリットおよび口中に青葉が若干見られることがあったが,食べたというよりも,短枝をかんだり,えさに付着したものが口中,ひいては胃の中に入ったものであろう.
(14)ふ化後巣立ちまでの期間70-90日間で,個体によって大きな違いがある.最も早い巣立ちは6月21日,最も遅いのは8月7日であった.巣立ち後もひなは時々巣にもどり,親鳥からさを与えられていた.
(15)1巣2ひなの場合,親鳥がえさを何かの原因で与えずにいると,強い方のひなが弱い方を殺して食べることがある.通常後からふ化したひなが先にふ化したひなの犠牲になる.
(16)オジロワシのえさは,1969年から1978年までの観察の結果,合計47種553個体におよび,その内訳は鳥類22種224個体(42.02%),魚類15種228個体(54.03%),哺乳類7種18個体(3.4%),その他3種3個体(3.95%)であった.地形や環境条件が異なるため,餌の比率は地方によって大きな差違がみられた.
(17)巣立ち後は12月の冬期まで親と行動を共にするが,その後は別行動をとる.個体によっては親が次の抱卵育すう中であっても,幼鳥がテリトリー内から追い出されるとは限らない.むしろとどまっている事の方が多い.また1例であるが尾羽が白くなっても一緒に行動していることがあった.
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