本稿は, (1) 韓国で女性の性役割規範として使われる「賢母良妻」規範とは何か, (2) それは伝統社会における女性規範とはどのように異なっているか, また (3) どのように社会に浸透していったのかを明らかにすることが目的である。本稿では政治・教育等において国民意識が高まった朴正煕政権と全斗煥政権までを中心に, 国家, 女性政策, 女性団体の関係に注目した。その際用いた資料は, 女性政策に関する政府刊行物や女性団体の活動雑誌である。その結果, 韓国で主張される「賢母良妻」規範は, (1) 家族や家庭内における性役割だけを示す規範ではなく, 家庭内における性別役割の意味を超え, 女性を国民として位置づけようとした価値規範であり, 国民として女性が果たすべき責任を示す規範であること, (2) かつて女性を社会から隔離し夫の家だけのために献身することが望まれた伝統社会における女性観とは異なるものであること, そして, (3) 国家と官製・御用団体の女性政策の協力のなかで浸透していったことが明らかになった。
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