家族社会学研究
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20 巻, 1 号
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巻頭エッセイ
特集
家族のオルタナティブ―家族研究の挑戦
  • —家族研究の挑戦—
    牟田 和恵
    2008 年 20 巻 1 号 p. 7-9
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    シンポジウムでは,1対1の性的関係に絶対的基盤をおかないつながり,あるいはそれを基としながらも,カップルの対の関係(とその子ども)という核家族的関係に閉じないつながりによる,「家族のオルタナティブ」の新たな可能性を検討した。小谷部育子は「コレクティブハウジングの理念と実践」,釜野さおりは「レズビアン家族とゲイ家族から『従来の家族』を問う」,上野千鶴子は「家族の臨界:ケアの再分配問題をめぐって」と題して,新たな親密さ・拠るべき生の基盤の構築の可能性を,実践的・理論的に提示した。討論者の野沢慎司は,ステップファミリー研究の知見を生かし,これまでの家族研究とのつながりを論じた。司会は,牟田和恵と須長史生が務めた。
  • 小谷部 育子
    2008 年 20 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    コレクティブハウジングとは,それぞれが個人や家族のプライバシーのある住宅として完備した,接地型の住宅集合,あるいは積層型住棟内に,各住戸の延長として位置づけられる豊かな共用設備や空間(コモンルーム,コモンハウス,コモンガーデンなど)が組み込まれた住居集合形式である。そして居住者は誰にも開かれ,成人であれば男女,年齢関係なく個人単位でコミュニティ運営に関わり,日常生活の一部の共同化(食事の協働運営や,共用部分の清掃管理など)により,より合理的で個人的・社会的に豊かな可能性を広げうる暮らしの実践である。したがって,理念の根底に合理主義と近代家族観を超えた多文化共生の思想があるといえ,「第三の住宅」のかたちといわれるゆえんである。本稿は,スウェーデンでのコレクティブハウジングの歴史的展開の背景,現代的コレクティブハウジングの理念,わが国への導入,そしてわが国でも実現している好事例についての紹介である。
  • 釜野 さおり
    2008 年 20 巻 1 号 p. 16-27
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    本稿では,男女一対一の性関係を基盤にした関係と血縁に絶対的な価値をおき,ジェンダーに基づく役割分担の再生産が行われる「従来の家族」に対し,レズビアン家族・ゲイ家族の実践から何を問いかけることができるかを,先行研究などから実例を挙げて検討した。(1) レズビアンやゲイにとって友人やコミュニティが家族になっていること,(2) 血縁家族は精神的な支えになるとの前提が疑問視され,誰を「家族」と見なすのかの再考がなされること,(3) レズビアンやゲイが親になることで,「親=父親+母親」との前提が崩され,親子関係が「無の状態から交渉できるもの」となりうること,(4)ジェンダー役割を問い,日常の家事や育児に柔軟に対応するパートナー関係の実践があることを挙げ,これらが「従来の家族」に問いかける可能性があると論じた。最後に,レズビゲイ家族の実践が主流への同化か挑戦かの判断の難しさを述べた。
  • —ケアの分配公正をめぐって—
    上野 千鶴子
    2008 年 20 巻 1 号 p. 28-37
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    「家族」の通文化的な定義がすべて解体したあとに,「家族とは何か?」という問いを問うことにどんな意味があるだろうか? 家族はどこまでいけば家族でなくなるのか,あるいは家族の個人化と言われる趨勢のもとで,家族は個人に還元されてしまうのだろうか? 近代家族は「依存の私事化」を必然的に伴った。「女性問題」と呼ばれるもののほとんどは,子どもや高齢者などの「一次的依存」から派生する「二次的依存」によって生じたものである。再生産の制度としての「家族」の意義は,今日に至るまで減じていない。「家族」を「個人」に還元することができないのは,この「依存的な他者」を家族が抱えこむからである。本稿は,「家族の臨界」をめぐる問いを,「依存的な他者との関係」,すなわちケアの分配問題として解くことで,「ケアの絆」としての「家族」を法的制度的に守ることは必要であると主張する。そしてその根拠としてケアの人権という概念を提示する。
  • 野沢 慎司
    2008 年 20 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    現代は家族形成も家族以外のネットワーク形成も選択化しており,この両者が連動しながら進展している点が家族変動を理解する鍵になる。レズビゲイ家族やコレクティブハウジングの実践は,ステップファミリーなど他の非通念的家族の場合と同様に,選択的な同類結合ネットワークを基盤とした,独自の家族下位文化を形成していると見られる。個々の下位文化は,非通念的な家族観や家族生活を支える制度を提供するが,「ケアの再分配問題」に直面すると,より公的な制度のあり方をめぐって,他の下位文化と競合・対立したり,連携・相互浸透したりする複雑な社会過程を生み出す。家族社会学は,家族変動をとらえる際に,ミクロな個人の家族意識論とマクロな家族制度論だけでなく,その中間にあるこの領域に眼を向けるべきであろう。
投稿論文
  • 本田 宏治
    2008 年 20 巻 1 号 p. 45-56
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    「薬物中毒」や「薬物依存」,「薬物乱用」という公的な言葉は,それに「名指し」されるドラッグ使用者にとって中傷/侮蔑的な感覚を喚起することがある。そのため,ドラッグ使用者となったわが子をもつ「親」にとっても,わが子を侮蔑する可能性がある公的な言葉の使用に困難を経験することがある。「親」のこの困難な経験は,同じ経験を有する「親」同士のネットワークを組織化させ,そのなかで,わが子を語ることができる言語として「病者の言葉」を生み出す。しかし,病者の言葉が公共領域に届かないなかで,「親」はみずからが使用する病者の言葉によって,——その言葉を「主体的」に発話するからこそ,その行為にいっそう抗いがたく——わが子を病者として扱わなければならなくなるという問題が生じる。本研究では,違法ドラッグ問題のなかで,そのような「親-子関係」の構成と関わる言語/言説の権力作用について検証していく。
  • ——瀋陽市の事例を通して——
    楊 雪
    2008 年 20 巻 1 号 p. 57-69
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    本稿では,瀋陽市の高齢者とその家族に対する聞き取り調査の中から3つの事例を取り上げ,中国都市部における世代間援助の実態,および親子双方が援助する際に持つ家族戦略を考察した。世代間援助は時代的背景に伴い大きく変化した。現在の高齢者世代は積極的に子世代をさまざまな場面で援助しているにもかかわらず,子世代の援助を期待しないことが語られた。一方,子世代には,伝統的な孝行観が依然として強く影響し,特に親から経済的に援助を受ける子供は親への「恩返し」の気持ちが高まる。非経済的な世代間援助が日常的場面において頻繁に見られ,特に子供からの情緒的援助は高齢者にとって重要な意味を持っている。これらの知見からは,市場経済化後の中国都市社会において,家族は「助け合い」を通して,ますます激しくなる競争社会とリスクに適応する過程で,家族間の絆を深めていき,外部社会の援助が求めにくいときに,「自助戦略」を取ることが判明した。
  • —妻の夫への家事参加期待とその充足度に注目して—
    李 基平
    2008 年 20 巻 1 号 p. 70-80
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    本研究は,夫の家事参加に対する妻の期待という視点を導入し,夫の家事参加が妻に与える影響を検討する。具体的には,夫の家事参加と,妻の夫に対する家事参加の期待水準の差から定義される期待充足度が妻の夫婦関係満足度に及ぼす効果を,1994年に生命保険文化センターによって実施された「夫婦の生活意識に関する調査」データを用いて検討する。分析の結果,期待充足度が正の方向に大きいほど,妻の夫婦関係満足度は高いことが示された。期待充足度の効果は,4群に区分した妻の就業形態いずれにおいても一貫しており,妻の夫婦関係満足度に大きな効果を有していることが確認された。この結果から夫の家事参加と妻の夫婦関係満足度との関連を考えるうえで,夫の家事参加のみならず,妻の期待水準とのズレの程度を考慮することが有用であることが示された。
研究ノート
  • ——今後の日本との事例比較研究にむけて——
    木下 裕美子
    2008 年 20 巻 1 号 p. 81-88
    発行日: 2008/04/30
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    フランスでは育児支援のひとつとして,親保育所という親たちによる自主運営の保育施設があるが,今まであまり紹介されることがなかった。近年,日本でも仕事と家庭の両立支援といった側面だけではなく,地域再生や関係性の再構築といった視点から共同保育所の役割が認識され,「社会連帯」という言葉が使用されつつあるが,連帯の性質を問うことはあまりない。そこで,本稿では,日本の共同保育に類似したフランスの親保育所の内容を整理し,半構造化面接法によるインタビュー調査の結果から連帯の内容を検討した。その結果として,親と職員の間には親密性に深くよらない協働の連帯が示唆された。一方で,日本の共同保育所では,育児支援の不足によって実用的価値がますます高くなったケアの交換を通した融け合う連帯という性質が示唆されるだろう。したがって,今後,フランスの親保育所における親同士の連帯の内容を比較検討することが課題である。
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