家族社会学研究
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32 巻, 2 号
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巻頭エッセイ
投稿論文
  • 渡辺 泰正
    2020 年 32 巻 2 号 p. 131-142
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

    結婚前の交際で配偶者に関する情報を多く獲得した場合,配偶者とのマッチングの質は良くなるため,結果的に結婚満足度は高くなることが想定できる.既存研究では,マッチングの質を良くする交際経験として同棲に注目してきたが,同棲は低い結婚満足度に結びつくことが実証的に示されている.そこで本稿では,配偶者とのマッチングの質を良くする交際経験として,交際期間にも着目し,交際期間と同棲が結婚満足度に及ぼす影響を「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」のデータを用いて検討した.分析の結果,同棲の有無による結婚満足度の違いは確認できなかった.交際期間については,その期間が長いと結婚満足度は高い傾向にあり,長い交際期間はマッチングの質を良くすることが示唆された.ただ,交際期間が短い場合でも男性の満足度は高い傾向にあり,マッチングの質が結婚満足度に及ぼす影響には男女差があることが示唆された.

  • 栗村 亜寿香
    2020 年 32 巻 2 号 p. 143-155
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

    戦後民主化の時代,戦前の家族制度が廃止され,個人の自律と家族成員の平等や愛情を提唱する家族の民主化論が興隆した.彼らは戦前の家族制度復活論や個人主義化による家族解体のリスクもふまえ,自律した家族成員がいかに関係を形成しうるかという問いに取り組んでいた.戦前の家族の情緒的関係に対して民主化論者が批判的だったことはすでに明らかにされたが,それに代わる新たな家族関係がいかに構想されたかは十分検討されていない.なお自律・対話と親密性の両立という問題は当時固有のものではなく,「家族の個人化」や女性の社会進出が進んだ80年代以降にも家族の対話の必要性とその困難さが議論されてきた.自律や平等といった価値を手放さずに他者と親しい関係を形成するには,自律や対話と両立する親密性について検討する必要がある.本稿は当時の議論の検討を通じ,民主的家族における親密性に関して「多面的な自己開示」という見方を提起する.

  • 川口 俊明
    2020 年 32 巻 2 号 p. 156-168
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

    保護者の子育てと社会階層のあいだの関連については,日本でも少なくない研究が蓄積されてきた.もっとも,分析が多様化・精緻化している一方で,子育ての格差の全体像を描く試みが十分には進んでいないことを指摘しておかなければならない.本稿は,Bourdieuの社会空間アプローチを利用して多重対応分析による子育て空間の分析を試みた.得られた知見を要約すると次のようになる.一つ目は,価値観や家族の形が多様化していると言われる一方で,子育ての格差は,典型的な「教育する家族」を維持できるかどうかという,ある意味で単純な二極化の様相を呈していたことである.二つ目は,学校・地域の活動に参加するかどうかという対立が,年収や学歴の高低と関連する子育ての活発さとは異なる軸を構成していたという点である.こうした知見は,社会空間アプローチによる子育て格差の把握が,子育てや家族構造が多様化する現代社会でも有効であることを示している.

特集 アジア諸国における少子化―教育との関係に注目して
  • 松田 茂樹, 佐々木 尚之
    2020 年 32 巻 2 号 p. 169-172
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

    東/東南アジアの先進国・新興国/地域は,いま世界で最も出生率が低い.この地域の少子化の特徴は,出生率低下が短期間に,急激に起こったことである.低出生率は,各国・地域の持続的発展に影を落としている.欧州諸国で起きた少子化は,第二の人口転換に伴う人口学的変化の一部として捉えられている.しかしながら,現在アジアで起こっている少子化は,それとは異なる特徴と背景要因を有する.主な背景要因のうちの1つが,激しい教育競争と高学歴化である.この特集では,韓国,シンガポール,香港,台湾の4カ国・地域における教育と低出生率の関係が論じられている.国・地域によって事情は異なるが,教育競争と高学歴化は,親の教育費負担,子どもの教育を支援する物理的負担,労働市場における高学歴者の需給のミスマッチ,結婚生活よりも自身のスペック競争に重きを置く物質主義的な価値観の醸成等を通じて,出生率を抑制することにつながっている.

  • 金 鉉哲, 裵 智恵
    2020 年 32 巻 2 号 p. 173-186
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

    現在,韓国の出生率は,世界で最も低い数値を記録している.韓国政府はさまざまな出産奨励政策を進めてきたが,韓国政府の努力が必ずしも有効であるとは言い難く,今後の展望も明るくはない.韓国における人口政策がその有効性を失ったのは,IMF経済危機の以後からである.韓国社会において少子化をもたらす最も大きな要因は経済的な問題である.特に過度な私教育費の問題は,夫婦の出産意欲を低下させ,出産忌避をもたらしていると指摘されている.過度な私教育費支出の背景には,加熱し続ける教育熱,高校の序列化など学歴競争を深化させる教育政策,そして労働市場における著しい賃金の格差など,複数の要因が関連している.現実を打開できる改善策を考えるのは容易ではないが,教育の側面から言うならば,とりあえず,学校の序列化に歯止めをかけることによって私教育費支出への負担を軽減する政策が必要であるだろう.

  • シム チュン・キャット
    2020 年 32 巻 2 号 p. 187-199
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

    天然資源を持たない小国シンガポールにとって「人」の問題は国の死活問題である.そのために,複線型教育制度の導入などを通じて「人の質」を保証しつつ,結婚・出産・子育てへの手厚い支援や外国人労働者の受け入れなどの制度を中心に「人の量」も確保することは,国力を維持・発展させる礎となる.その一方で,人材の質量確保が競争を促し,学校教育段階を終えても「勝ち」にこだわるレースは続く.本稿では,シンガポールの公的統計および現地の若者を対象とした個別面接質問紙調査の結果をもとに,小学校から始まる学歴競争がいかに強固な「トーナメント競争マインドセット」を国民の間に浸透させ,そのことが晩婚化,未婚化,そして少子化といった社会問題につながる可能性があるのかを考察する.

  • 梁 凌詩ナンシー
    2020 年 32 巻 2 号 p. 200-212
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は香港の教育改革と教育コストの関係を明らかにし,教育制度の変化がどのようにスタートラインで勝つ心理を形成したのかを考察する.少子化の要因は多様であり,子どもにかける教育コストの上昇はその一つである.香港はイギリス植民地になった後,英語重視社会となり,英語能力が進学および社会的評価の高い職業に就くカギである.中学校の使用言語を広東語にする方針で1988年に行われた教育改革により英語を使用言語とする中学校が同年には全体の2割弱となった.また,高校に進学する資格を判断する統一試験をなくし,学生が統一試験の成績によってより良い高校に転学する機会がなくなるようになった.そのうえ,教育改革により小中高一貫校に変更するエリート校が続出し,学生にとって転校する機会が基本的にはなくなった.このように,子どもをエリート校に進学させるため,スタートラインが大事であるという意識が香港社会に形成され,入学競争が幼稚園まで前倒しされた.

  • 劉 語霏
    2020 年 32 巻 2 号 p. 213-226
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

    台湾では,出生率の急速な低下により,21世紀に入ってから,少子化問題への世論の関心はますます高まっている.台湾政府も,多くの研究者も,その背景要因の解明と対策に取り組んできたが,少子化の深刻な状況は依然として変わっていない.本稿では,教育制度・政策の側面から,台湾における少子化の進行状況とその背景要因を分析し,教育と少子化が相互に与える影響を明らかにすることによって,少子化対策と課題を検討することを目的とする.分析の結果,台湾の少子化の主な特徴は,女性の高学歴化という要因にあり,それは高等教育の拡大政策と分岐型学校体系に大きく起因していたと言える.台湾の現状をふまえると,政府の少子化対策は,一時的な現金給付策よりも,家庭と仕事の両立ができる職場環境の整備と充実など,長期的に女性の社会進出を支援することに重点的に取り組む必要がある.

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