日本菌学会会報
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56 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
追悼文
論文
短報
  • 富樫 巌, 渡部 智弘, 髙橋 剛
    2015 年 56 巻 2 号 論文ID: jjom.H27-05
    発行日: 2015/11/01
    公開日: 2018/01/27
    ジャーナル フリー

     木材腐朽菌に攻撃性を有するTrichoderma virens 菌株として選抜されたNBRC 31959 を供試し,木炭固定化トリコデルマの木材防腐性能を評価した.その結果,カワラタケを含む4菌株の担子菌の木材腐朽に対する抑制効果は確認できたが,オオウズラタケの木材腐朽に対する抑制効果は認められなかった.木炭固定化の場合と異なり,Trichoderma spp. ANCT-05103 のベイクウッド固定化トリコデルマではオオウズラタケとカワラタケに対する木材防腐性能が大きく低下した.一方,水分を7~80%に調整した木炭粉砕物単独,およびpH を3.5~10.7に調整した木炭粉砕物単独の両木材腐朽菌に対する木材防腐性能は認められなかった.従って,木炭粉砕物とTrichoderma spp. 菌株の組み合わせにより,固定化トリコデルマの木材防腐性能を向上させる何らかの作用が生じることが示唆された.

総説
  • 青木 孝之
    2015 年 56 巻 2 号 論文ID: jjom.H26-09
    発行日: 2015/11/01
    公開日: 2018/01/27
    ジャーナル フリー

     Fusarium 属の種の分類,種概念の変遷,本属への分子系統学の導入とその発展,現状について,自らの研究例等を紹介することで概説した.Fusarium 属の分類は従来,形態等の表現形質に基づいて行われてきたが,培養下を含めた顕微鏡レベルの表現型質は必ずしも安定でなく,その変異のため種の定義や範囲を巡る論争が絶えず,世界的に共通する合理的な分類・同定法の確立は長期に亘って難航した.1990年代から本格的にFusarium 属菌の分類研究に導入された遺伝子DNA の塩基配列に基づく分子系統解析は,本属の分類学に多大な影響を及ぼし,本属の種概念を狭く細分して定義する方向へと収斂させた.その一方で,従来の緩い種の定義に隠れた多数の隠蔽種の発見など,既存の種をさらに細かく分割して記載する必要性も生じ,形態等の表現形質の記載方法もより精密かつ詳細になった.培地や照明条件等,そのデータ取得の条件も細かく定めることが求められる.種の分割も含めて,新たな種が多数記載される一方で,種を定義する上での表現形質の限界も伺われるようになり,分子系統学により識別される種(分子系統種)と表現形質で定義される種(形態種)の乖離も認められる.客観性の高い新種等の記載方法として,分子系統学的な違いに対応する表現形質を用いて記載等が行われる流れにあるが,種を定義するための分子系統データを直接的に記述し,また,命名規約にも準拠する手法の確立が望まれる.

  • 早乙女 梢
    2015 年 56 巻 2 号 論文ID: jjom.H27-01
    発行日: 2015/11/01
    公開日: 2018/01/27
    ジャーナル フリー

     Polyporus 属(タマチョレイタケ目)には,形態的に多様な種が含まれていた.一方で,本属には,顕微鏡的特徴や腐朽型が共通する「関連属」が存在した.本属および関連属の分類学的再評価を目的とし,これらの詳細な系統関係を解明した.分子系統解析の結果,本属および関連属は6 クレードに分割され,うち2 クレードには本属種に加えて関連属種が含まれており,これらの属の分類学的再編成の必要性が示された.5 クレードについては,柄の位置,傘肉の質感,柄の殻皮化の程度など,従来属内グループを定義するのに用いられた形態的形質によって,概ね特徴づけることができた.Polyporus 属(広義)の分類学的再編成の一環として,2 クレードを対象に詳細な研究を行った.その結果,1 クレードをFavolus 属として6 種を認め,もう1 クレードについては新属 Neofavolus 属を提唱,1 新種を含む3 種を所属させた.また, 日本産 Polyporus 属(広義),Favolus 属,Neofavolus 属および Echinochaete 属の詳細と種リストを示した.

  • 深澤 遊
    2015 年 56 巻 2 号 論文ID: jjom.H27-04
    発行日: 2015/11/01
    公開日: 2018/01/27
    ジャーナル フリー

     本総説では,枯死木内部における菌種間相互作用に影響する要因,さらに菌種間相互作用や菌類の種多様性が枯死木分解に与える影響についてまとめた.枯死木内部における菌種間相互作用のうち優占するのは競争関係である.菌種間での競争力の階層性が,枯死木内部の菌類群集の発達や分解に伴う菌類遷移を規定するメカニズムだと考えられている.菌種間競争の勝敗には,枯死木の樹種,温度,含水率,ガス環境,分解段階といった環境要因だけでなく,定着のタイミングや接種源の大きさといった菌類側の要因も影響する.過去の研究をまとめると,菌種間相互作用が枯死木分解に影響するメカニズムとしては,以下の3つが考えられた:(1)最も競争力の高い菌種の分解力に左右される;(2)競争に伴うエネルギーや養分のコストが菌類の生理活性を変化させ,分解力に影響する;(3)資源分割や,先行定着菌による促進効果により分解が促進される.

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