外生菌根菌は,森林生態系において極めて重要な役割を担う菌類である.近年,気候変動をはじめとする自然環境の変化や人為的な影響により,森林生態系はかつてないほどの大きな圧力にさらされている.森林樹木の根には多種多様な生態学的な特性を持つ外生菌根菌が共生関係を築いており,これらの菌種が個々に持つ特性を理解することが,将来の環境変化への適応を予測するうえで重要である.菌類学においてDNA情報は多くの恩恵をもたらし,外生菌根菌の生態学にも大きく貢献してきた.本稿では,ショウロ属菌をモデルとしてこれまでの研究を概説し,高山生態系における事例として筆者が取り組んできた研究成果を紹介した.さらに,外生菌根菌の生態学的研究における現在の課題と今後の展望について考察した.
本稿は,2023年度日本菌学会奨励賞受賞講演の内容を再構築して作成した.本研究では,植物病原菌類の最も重要な表現形質と言える病原性に着目し,接種試験の結果に基づく宿主範囲が植物病原性Alternaria属菌の種の類別に有効であることを示した.収集された85菌株は,新種3種を含む26種に類別され,接種試験によって宿主範囲を検討した種については,植物の品種や種,属,連,亜科などのランクでそれぞれ独自の宿主選択性を分化させていることが明らかとなった.上記の結果から病原性という指標が近縁種との類別に有用な形質であることが示され,形態的特徴,分子系統解析,および病原性に基づく統合的な種概念は,本属菌の種の境界をより鮮明にすると考えられた.
主として関東地方で採集したキツネノカラカサタケ属ワタカラカサタケ節の特徴を示す菌類について,それらの形態,核rDNA ITS領域の塩基配列を調べた.その結果,ワタカラカサタケ節に属するLepiota ignivolvata,及びナカグロキツネノカラカサ節に属するL. clypeolarioidesを日本新産種として報告した.また採集標本に基づいて日本産既知種であるL. clypeolariaとL. magnisporaについても記載するとともに,対応する和名に関して提案した.
日本新産の2種のヒナノヒガサ属菌,Rickenella indica(ヒメヒナノヒガサ)とR. mellea(タカネヒナノヒガサ)を報告した.傘が小型(径1-3 mm),丸いおわん形から丸山形で,扁平あるいは漏斗形にならない点がR. indicaの特徴である.Rickenella melleaは亜高山帯に発生し,傘と柄が蜂蜜色あるいは黄色を帯びたベージュ色から帯赤黄色となる点で特徴づけられる.核rDNAのITS領域とLSUを用いた分子系統解析により,形態的特徴に基づく同定が支持された.日本産ヒナノヒガサ属の既知種の検索表を作成した.