音楽教育学の研究分野において, 子どもの音楽的発達研究は重要な位置を占めている。しかしながら, 全ての子どもが等しく受ける小・中学校の音楽科授業で, 子どもたちがどのような音楽的発達の筋道をたどるのかという研究は希少である。本研究は, 音楽科教育を視野に入れた発達の先行研究の数例を批判的に概観しつつそれらの問題点を検討することで, 音楽科教育を対象とした発達研究の要件を明らかにすることを目的としている。
特に, 本研究は, 主にカリキュラム構成に関わる「巨視的研究」と, 主に教授ストラテジーに関わる「微視的研究」の諸研究を検討することによって双方の統合化の必要性について論じた。また, 就学期の子どもの発達を, 単に個体発生の側面だけからとらえるのではなく, 学校という社会集団の中での, 他者との相互作用の結果からも捉える必要があるため, 特にヴィゴツキー以降の社会文化的アプローチの視点を中心に検討した。結論として, 「スパイラル的発達観の重要性」「社会文化的コンテクストの重要性」「教育内容と教育方法の統合」「情意的発達の研究の必要性」の4点から, 音楽科教育における今後の発達研究の方向性を示唆した。
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