音楽教育学
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31 巻, 2-3 号
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研究論文
  • 今川 恭子
    2001 年 31 巻 2-3 号 p. 1-11
    発行日: 2001年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     本稿は質的研究に焦点を当ててその方法論の枠組みを再検討し, 質的研究が日本の音楽授業研究にもたらしうる成果について考えようとするものである。「質的」・「量的」という概念を軸とした方法論上の議論は, 日本の音楽教育研究においても最近になって二項対立を脱却し, より柔軟な理論的枠組み作りに向かっている。これがさらに有意義な方向に発展するためには, 質的研究の立場から見ていくつかの課題がある。まず第一に, 複数の学問領域にわたって多岐に展開する質的研究の系譜を再確認し, これを我が国の音楽教育研究の立場から捉えなおすことが必要である。第二に, 近年の日本の教育研究が示す柔軟で有効な理論的枠組みにも注意を払い, 第三に, 音楽教育研究固有の実践的知識と学際的性質の利点を見直すことも必要である。そして第四に, 質的方法の特質を生かして音楽授業を見ることの意義を, 研究実践を伴って確認することが重要である。本稿か例示する授業研究は, 質的方法の特質を生かし, 音楽授業というフィールドから理論を生成していこうとするものである。こうした研究は, 今後も子どもたちの音楽の学びをめぐる我々の知識を広げ, 深める上で大きな役割を果たさねばならない。

  • 岡 典子
    2001 年 31 巻 2-3 号 p. 12-21
    発行日: 2001年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     「生きる力」の育成を前面に今回改訂された学習指導要領では, 子どもたちが自ら学び自ら考える力の育成が強調され, 子どもたちの個性重視の方針が改めて指摘された。しかし, いかにすればこうした教育が実現するのか, 今後解決されなければならない問題は山積している。本研究では, この現代が抱える難問に示唆を得る一方法として, アメリカ合衆国のパーキンス盲学校幼稚部が創設期において実施した音楽教育の内容とその意義について具体的に検討を行った。本研究の結果, 明らかになった点は以下の通りである。1) パーキンス盲学校幼稚部の音楽教育においては, 技能や知識の習得を重視し, 器楽や音楽理論の指導を充実させたが, これらの指導はいずれも選抜された児童のみを対象とするものであった。2) 歌唱指導は全員に実施され, 音楽に対する愛好心の育成や, 心身の調和的発達が目指された。3) 音楽教育は, 子どもたちの音楽知識や技能の獲得だけでなく, 自主的な学習意欲, 協調性, 表現力, 友達同士の仲間意識の形成などの成果をもたらした。

  • ―市民参加型音楽活動の事例分析を通して―
    丸林 実千代
    2001 年 31 巻 2-3 号 p. 22-32
    発行日: 2001年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     本論文の目的は, 市民参加型音楽活動の事例を成人学習の観点から検討し, 内発的発展としての音楽のコミュニティ形成と市民の生涯学習について考察することである。

     事例分析ではクラントンの成人学習の枠組みを思考モデルとして用いた。その結果, 市民参加型音楽活動の中には成人学習の到達目標の一つとされる「自己決定性」や「自立性」の要素を見出すことのできない参加者が存在し, この音楽活動が成人学習として機能しているのは, すべての参加者に対してではないということが明らかとなった。これらから音楽のコミュニティ形成と市民の生涯学習は, 内発的発展の考え方を仲介として相互作用的な関係として有機的に機能すべきであり, この関係の構築方法を摸索していくことが生涯学習社会を志向するわが国の課題の一つであると指摘した。

研究動向
  • 高須 一
    2001 年 31 巻 2-3 号 p. 33-42
    発行日: 2001年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     音楽教育学の研究分野において, 子どもの音楽的発達研究は重要な位置を占めている。しかしながら, 全ての子どもが等しく受ける小・中学校の音楽科授業で, 子どもたちがどのような音楽的発達の筋道をたどるのかという研究は希少である。本研究は, 音楽科教育を視野に入れた発達の先行研究の数例を批判的に概観しつつそれらの問題点を検討することで, 音楽科教育を対象とした発達研究の要件を明らかにすることを目的としている。

     特に, 本研究は, 主にカリキュラム構成に関わる「巨視的研究」と, 主に教授ストラテジーに関わる「微視的研究」の諸研究を検討することによって双方の統合化の必要性について論じた。また, 就学期の子どもの発達を, 単に個体発生の側面だけからとらえるのではなく, 学校という社会集団の中での, 他者との相互作用の結果からも捉える必要があるため, 特にヴィゴツキー以降の社会文化的アプローチの視点を中心に検討した。結論として, 「スパイラル的発達観の重要性」「社会文化的コンテクストの重要性」「教育内容と教育方法の統合」「情意的発達の研究の必要性」の4点から, 音楽科教育における今後の発達研究の方向性を示唆した。

研究報告
  • ―鍵盤和声におけるアプローチ―
    紙屋 信義
    2001 年 31 巻 2-3 号 p. 43-48
    発行日: 2001年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     鍵盤楽器における即興演奏能力は, 音楽教育における指導, 演奏者のソルフェージュや鍵盤和声などによる基礎的な音楽能力育成, 教会音楽におけるオルガン演奏などには欠かすことのできないものである。即興演奏の重要性は, 楽譜のみに頼ったテクニック偏重による音楽教育の反動として最近, 見直されてきている。しかし日本の音楽教育において, 即興演奏に関する内容や方法には無系統なものが多く, あまり重要視されてこなかった。そこで音楽教育者の鍵盤楽器への認識改善のために, 即興演奏に有効な手段としてゼクエンツに着目し, その習得方法の獲得を目指す。それと伴に実際の即興演奏における変奏方法も考察する。即興演奏を習得することは, 音楽するものにとって, 音楽認識を拡大させ再認識するものである。様々な音楽の要素に着目し, 豊かな音楽性と技術をもって発展させることにより, 豊かな音楽表現が現実のものとなる。

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