本稿は, 誠之国民学校を一つの事例として, 国民学校期の音楽教育実践の実相について明らかにすることを目的とする。誠之においては, 国民学校に移行する半年前に着任した瀬戸尊訓導を中心に, 校内音楽研究部会の活発化, 研究授業の公開等がなされ, 備品の購入等, 音楽学習の領域の拡大に対応すべく環境も整えられた。小打楽器群と木琴やカスタネットによる器楽合奏は, 歌唱教材を用い, 音名読みやリズム指導も交えて各活動領域が切り離された形でなく全体として包括的な指導が行われた。鑑賞は昼会の時間に, 講堂で何学年かが集まり実施されていた。聴音練習は毎時間繰り返し行われ, 和音を音名で一人ずつ答えたり, 五線紙に書いたりといった指導が行われた。誠之では, 昭和16年4月の制度実施に即応して, 多様な音楽活動の場が設定されたと言える。本稿は, 学校日誌など学校が作成主体である文書資料と, 当時の子どもたちへのアンケート調査とを重ね合わせることによって, 実践史を描く試みを提示するものである。
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