本研究は, 江古田小学校における, 桜井富夫による低学年の読譜指導の実際を明らかにするものである。
桜井は, 低学年における読譜指導の必要性, 重要性を認識していた。そして, そのためにさまざまな独自の教材を考案し, 授業に使用した。低学年の児童の読譜指導において彼が重視したのは, 音階を教えることであった。音階を教えるため, 彼は「色音符, いろことば」, 「茶わんの音楽」, 「絵譜の類」などを次々に考案した。
桜井が独自の考案教材を生み出すことができたのは, 彼が音楽の専科教諭ではなく, 低学年の学級担任であったことに負うことが大きい。つまり, 桜井は子どもの〈生活〉〈遊び〉〈興味〉を重視し, そこから無理なく読譜学習につながるような読譜教材を考案したのであった。桜井は, 児童に音階のシラブル名を覚えさせ, 音階各音の音高の違いを感覚的に理解させる指導を徹底的に行ったが, それは同時に, 彼の低学年の読譜指導の限界でもあった。
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