日本口腔顔面痛学会雑誌
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1 巻 , 1 号
December
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総説
  • 柿木 隆介
    2008 年 1 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
    人間の脳内痛覚認知機構の非侵襲的研究について, 脳波, 脳磁図と機能的磁気共鳴画像 (fMRI) を用いたこれまでの研究を要約した. 視床が活動したあとに, 刺激対側の第1次感覚野に非常に微弱な活動が見られ, 次いで両側半球の第2次感覚野 (SII) と島に大きな活動が見られる. 特に島前部は痛覚認知に重要と考えられる. 次に帯状回前部, 扁桃体付近に活動が見られ, これらの部位は痛覚認知の情動的な要素に関連していると考えられる. 痛みには末梢神経のA-delta線維を上行する鋭い痛み (first pain) と, 無髄のC線維を上行する鈍い痛み (second pain) の2種類がある. これらの脳内認知機構をfMRIを用いて詳細に検討した. A-delta線維, C線維のいずれを刺激した場合にも, 両側の視床, 右側 (刺激対側) の島中部, 両側のBrodmann (BA) の24野から32 野にかけて, 主に帯状回前部の後部が活動していることがわかった. しかし, 帯状回前部の背側から補足運動野にかけての部位と島前部においては, C線維刺激の場合に有意に活動が大きいことがわった. これは, second pain認知がfirst pain認知よりも情動に関係が強い事を示唆し, 帯状回前部の背側から補足運動野にかけての部位と島前部がこの点に強く関連する部位である事を示した所見であった.
  • 北川 純一, 岩田 幸一
    2008 年 1 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
    目的: 加齢の進行に伴い, 中枢神経および末梢神経系システムに様々な変化が生じることはよく知られている. 痛覚受容も加齢による影響を受けている可能性は充分考えられる. 本研究は, 加齢に伴う侵害受容システムの変化を解明することを目的とした.
    研究の方法: Fisher系ラットにおいて, 29-34ヶ月齢を老齢ラット, 7-13ヶ月齢を成熟ラットとして使用した. 侵害刺激に対する逃避行動や侵害受容ニューロンの応答および痛覚情報マーカーなどを電気生理学または免疫組織化学的手法を用いて, 詳細に解析した.
    結果: 老齢ラットは侵害刺激に対する反射は亢進しているが, 痛みの認知機能が低下していることがわかった. 老齢ラットの方が成熟ラットより, 侵害受容ニューロンの自発放電や侵害刺激に対する応答が非常に多いことが明らかになった. 老齢ラット脊髄後角のセロトニンおよびノルアドレナリン合成酵素含有線維は, 成熟ラットに比べ減少していることがわかった. ナロキソン静注後, 口髭部へカプサイシン刺激したとき, 成熟ラットの三叉神経脊髄路核内に発現したpERK陽性細胞数は増加したが, 老齢ラットでは変化がなかった.
    結論: 加齢に伴う異常疼痛は, 痛覚の上行路と下行路のバランスが崩れることによって起こることが考えられる. この原因として, 下行性疼痛抑制系の機能低下が示唆される.
  • 山田 和男
    2008 年 1 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
    目的: 口腔顔面痛は, 通常は, 体性痛, 神経因性疼痛, 心因性疼痛に分けられるが, 筆者らは, 身体疾患 (Axis I) と身体化を生じうる精神疾患 (Axis II) に分けることを提唱している. 口腔顔面痛におけるAxis IIの代表的な疾患は疼痛性障害である. 非定型歯痛, 原因不明の舌痛症, 難治の顎関節症などの多くが, 疼痛性障害と診断される可能性がある. 本稿では, 疼痛性障害の診断と治療について概説する.
    研究の選択: 疼痛性障害の診断に関しては, 米国精神医学会編集の精神疾患の診断·統計マニュアル第4版 (DSM-IV) を参照した. 治療に関しては, エビデンスレベルの高いランダム化対照比較試験の結果や, 筆者らの研究報告, 筆者らの治療経験をもとに説明した.
    結果: 疼痛性障害の診断はDSM-IVの診断基準に基づいて行うことが適切である. 疼痛性障害の治療は, 不可逆的な処置や侵襲的な処置を行わないこと, アミトリプチリンなどの抗うつ薬による薬物療法を行うこと, 認知行動療法などの心理社会的アプローチを行うことが適切である. 特に, 抗うつ薬による薬物療法には, 多くのエビデンスがあった.
    結論: 口腔顔面領域における疼痛性障害の治療に関しては, アミトリプチリンなどの抗うつ薬による薬物療法を行うことが推奨された.
  • 和気 裕之
    2008 年 1 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
    本論文では, 顎関節症の治療を困難にしている慢性疼痛, 咬合異常感, 不定愁訴, 心身症の病態について概説した.
    現在, 顎関節症患者の多くは, 歯科医が単独で診療しているが, 著者は, 精神科医と連携して診療を行っている. このような連携診療システムは, リエゾンと呼ばれている. 今回, 著者が慢性疼痛, 咬合異常感, 不定愁訴および心身症に対して行っている心身医学的なアプローチを紹介した.
    患者は, 以下の4群に分類して対応している. A: 自覚症状を説明出来る他覚所見が存在しないケース, B: 自覚症状と他覚所見の関連性が低いケース, C: 身体疾患と精神疾患が併存しているケース, D: 心身症の病態ケース. 対応は, AとBは歯科および医科の身体疾患に起因している可能性が低いため, 身体面への積極的な治療は控えて, 病態の説明や保存的な治療で経過を診る. そして, 患者の自覚している不眠や憂うつ感等が見つかれば, その問題を取り上げて精神科へ紹介し, 連携して診療することを提案する. また, Cは, 精神科等と連絡を取りながら並行して治療する方針をとる. Dの狭義の心身症ケースは, ストレスの自覚を促し, 心身相関を理解させ, 心身の負担の軽減を薦める. また, 自律訓練法や漸進的筋弛緩法等のリラクゼーション法を指導し, 必要に応じて薬物療法 (抗不安薬·抗うつ薬等) を併用する. 顎関節症患者の治療では, 多面的な評価と対応が重要であることを強調した.
  • 北原 功雄, 福島 孝徳
    2008 年 1 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
    目的: 三叉神経痛を臨床症状により3分類し, 国際頭痛分類 (ICHD-II) における三叉神経痛に対して, 微小血管減圧術 (micro vascular decompression) の有効性を報告する.
    研究の選択: 三叉神経痛 (tic douloureux) を臨床症状により, 3分類する. Class I: typical classical trigeminal neuralgia. 発作性 (数秒) , 定型, 電撃様の鋭い痛み (持続性疼痛なし) で, トリガーゾーンを認め, テグレトールが有効である. Class II: atypical tic. 一部持続的鈍痛を含み, 痛みの領域が頭頂部に近い, 眼の奥など非典型的な分布を示す. 無感覚領域もある. Class III: atypical face pain syndrome. 持続的鈍痛が主体で群発頭痛, 上顎癌, 蓄膿症, sluder syndrome, 放射線治療後三叉神経痛 (三叉神経痛ガンマナイフ治療後) などの症候性疾患の可能性がある. 上記に分類し, 福島孝徳が施行した三叉神経痛に対する微小血管減圧術1910症例を中心に, 当院での経験をもとに三叉神経痛に対する脳神経外科領域の微小血管減圧術 (micro vascular decompression) の有効性を報告する. 三叉神経領域の痛みに対して, 治療法の選択に役立てば幸いである.
    結果: Class Iは微小血管減圧術が施行されたのは全体の87%で, 完全治癒率96%. 血管の圧迫を認めなかったのが7%ある. 4%が半年から1年での再発を認め完全治癒に至っていない. Class IIは全体の13%で, 完全治癒率70%. 血管の圧迫を認めないか, 圧迫が不十分 (静脈圧迫が多い) で, 30%が再発を認めた. 血管圧迫のない場合でも, 三叉神経がねじれを生じていることが多いため, 手術は三叉神経周囲のくも膜を剥離し, 三叉神経のねじれを解消し, ステロイドの塗布を施行した. Class IIIは全体の1%以下で, 根本的に病態を異にしているため, 手術は禁忌であり当然治癒も認めない. 上記分類に対して, 補助的診断として神経の血管圧迫の所見を調べるのに, 画像学的には3.0テスラのMRIのsagittal, coronal像が有用であった.
    結論: Tic douloureuxのClass Iについては, 微小血管減圧術が治療の第1選択であり, きわめて成績がよい. 高齢者で麻酔不可の場合は, 定位放射線治療 (サイバーナイフ治療) も考慮される. Class IIについては, 十分に臨床症状を検討し, 他の治療についても考慮すべきである. 神経血管減圧術施行を選択した場合, 経験の豊富な施設での手術が必須である. Class IIIは微小血管減圧術施行を施行すべきではない. ガンマナイフ治療後の持続的な鈍痛に関しては, 手術治療は期待できない.
原著
  • 由良 晋也
    2008 年 1 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
    目的: 本研究の目的は, 口腔粘膜欠損修復のための真皮欠損用グラフトの疼痛緩和効果を調査し, その効果に関係する因子を分析することである.
    方法: 対象は, 真皮欠損用グラフトを用いた粘膜欠損修復を受けた61名である. 疼痛緩和効果の評価に際しては, 鎮痛剤使用状況を調査した. 疼痛緩和効果に影響する因子の分析に際しては, 患者の性別, 年齢, 創面の深さ (粘膜下, 筋層, 骨面), 固定法 (縫合のみ, 被覆併用), グラフトの短径 (mm), 長径 (mm) の6項目を調査した. 疼痛緩和効果を従属変数, これら6項目を独立変数として, ロジスティック回帰分析を用いて両者の関係について解析した.
    結果: 手術翌日に鎮痛剤を服用した患者は, 31%であった. 疼痛緩和効果と真皮欠損用グラフトの短径との間に, 有意な関係が認められた (p=.003). 疼痛緩和効果があった患者の短径は5-40mm (中央値15mm) で, 効果がなかった患者では10-40mm (中央値30mm) であった.
    結論: 真皮欠損用グラフトを使用した口腔粘膜修復において, 疼痛緩和効果は多くの患者に認められた. 真皮欠損用グラフトの短径を小さくすることは, 術後疼痛の減少に貢献するであろう.
症例報告
  • 村岡 渡, 岡田 明子, 大泰司 正嗣, 鈴木 建則, 中村 岩男, 中川 種昭, 和嶋 浩一
    2008 年 1 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 症例1: 患者は51歳, 男性. 通勤時駅のホームで冷風にさらされた際, 右側の下顎部痛を自覚. その後も朝の通勤時に同様の痛みが出現するため当院歯科口腔外科を受診した. 歯科的には特記すべき所見がないこと, 歩行時の痛みの誘発という特徴から心臓性口腔顔面痛を疑い当院循環器科に精査を依頼し, 不安定狭心症と確定診断された. 症例2: 患者は60歳, 男性. 両側側頭部の痛みと開口障害を自覚し, 両側顎関節部および両側咬筋部まで痛みが広がり食事摂取困難となったため, かかりつけ歯科医院からの紹介にて当院歯科口腔外科を受診した. 両側咬筋に圧痛を認めたものの訴える疼痛に見合う所見ではなく, その他に歯科的な特記すべき所見がないこと, また胸部焦燥感を伴う痛みの訴えをすることから心臓性口腔顔面痛を疑い当院循環器科に精査を依頼したところ, 心筋梗塞と診断された.
    考察: 疼痛に見合う歯科的所見がないことや痛みの性状により, 胸部痛の有無にかかわらず心臓性口腔顔面痛を鑑別診断に含める必要があると考えられた. また, 当科で用いている非歯原性口腔顔面痛鑑別のための「痛みの構造化問診表」は診断の一助になると思われた.
    結論: 本疾患は内科的救急疾患であり, 早期診断が生命予後に影響を与えることから本症例のように胸部痛を伴わない場合でも特徴的な症状に遭遇した場合, 早期に適当な機関に紹介することが歯科医師としての責務であると考えられた.
  • 松香 芳三, 熊田 愛, 前川 賢治, 水口 一, 窪木 拓男
    2008 年 1 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/07/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 今回報告の2症例では, 灼熱性の慢性疼痛が上顎臼歯部周囲歯肉に数年間継続しており, 疼痛は主訴の部位のみに観察され, 関連痛は観察されなかった. 疼痛部位に局所麻酔薬の注射を行ったところ, 疼痛の完全除痛ではないが, 一時的な鎮痛効果が観察された. また, 脳内の器質的な異常は観察されなかった. 以上より, 三叉神経に生じた持続性ニューロパシー性疼痛と診断ができる.
    この2症例に対して, 抗うつ薬, 抗てんかん薬, 抗不安薬, 消炎鎮痛薬など種々の投薬を試みたが, 劇的な効果は見られなかった. 一方, シーネを応用した疼痛部位の粘膜の圧迫が何らかの鎮痛効果を示すことが観察できた.
    考察: 三叉神経に生じた持続性ニューロパシー性疼痛に対し, 粘膜の圧迫が疼痛軽減に効果があるという報告は我々が渉猟する限り, みられなかった. 粘膜を圧迫することにより, 触覚を伝達する速度の速いAβ線維の活動が誘発され, Gate controlを惹起し, 鈍い疼痛を伝達する速度の遅いC線維の伝達を抑制するのかもしれない.
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